2023年2月3日に開催された、THE CHARM PARK(以下チャーム)のワンマン・ライブ“Division of Seasons”のリハーサル現場に潜入し、彼のライブ用サウンド・システムを撮影させてもらった。アコギ、エレキ・ギター、ルーパー、サンプリング・パッド、鍵盤と、様々な機材を駆使していたチャーム。今回はその詳細の解説を、彼自身が機材愛を熱く語ったインタビューとともにご紹介しよう。
取材/文=伊藤雅景 撮影=星野俊
Pedalboard for Acoustic Guitar
【Pedal List】
①BOSS/TU-3w(チューナー)
②BOSS/EQ-200(イコライザー)
③api/TranZformer CMP(コンプレッサー)
④TC Electronic/Plethora X5(マルチ・エフェクター)
⑤Fender/Engine Room LVL8(パワーサプライ)
⑥BOSS/RC-500(ルーパー)
⑦BOSS/FS-7(フット・スイッチ)
⑧Rupert Neve Designs/RNDI(DI)
THE CHARM PARKのアコギ用ペダルボード。アコギからの信号は①〜④まで番号順に進み、④からステージ上のミキサー(後述)へステレオ信号を送り、PA卓へと向かう。
⑥のルーパーには、PA卓からアコギ、サンプリング・パッド、鍵盤の各種ドライ信号が送られており、楽曲によって適宜ループをコントロールしている。⑦は⑥の外部フット・スイッチで、⑥まで“足が届かない時用”に置かれている。
なお、撮影時には左上の⑧Rupert Neve Designs/RNDI(DI)は接続されていなかったが、ステージ上のミキサーを用意しないセッティングの際は使用しているとのこと。
Interview about Pedalboard
ほかのペダルがなくても、これさえあれば良いとさえ思います──THE CHARM PARK
まずは、②BOSS/EQ-200の使い方から教えて下さい。
今回はあまり使っていなかったんですが、色んなアコギを持ち替える時に、どうしても音色の違いや出力の大小が気になってしまって。その変化を抑えるために使うことがほとんどですね。
そのうしろの③api/TranZformer CMPは使っていましたか?
これは踏みっぱなしですね。とにかくこのコンプレッサーが大好きなんですよ。特にBLENDノブが使いやすいんです。ウェット音はもちろん凄く心地良いですし、ドライ音を活かして、ライブの臨場感やダイナミクスも聴かせられる。
なので、どんな小さなセットの弾き語りライブでも、これだけは必ず持っていきますね。ほかのペダルがなくても、これさえあれば良いとさえ思います。
ギターを始めた頃は“コンプって何?”って感じで何もわかっていなかったんですが、当時を振り返ると、コンプがかかっているギターに対して“なんか音源っぽい音がする”っていう感覚あったんです。
昔から自分はコンプがかかったギターを聴くのが気持ちよかったのかな。そういった記憶もあったので、色んなレコーディング・スタジオで使われているapi製のペダルを選びました。
コンプレッサーというと、うしろのマルチ(④TC Electronic/Plethora X5)のバンクにもコンプが入ってますよね。
このCOMPRESSORのバンク(TC Electronic/HyperGravity Compressorのモデリング)は、ソロのブーストとして使っています。ボリュームをちょっと上げているだけですね。コンプのレシオは低めで、レベルだけ上げているイメージです。
せっかくなので、ほかのバンクにセットしている音色についても教えてほしいです!
やっぱりこういう機材については色々喋りたくなっちゃいますね(笑)。まず、一番右にセットしているのはDOUBLER(TC Electronic/MIMIQ DOUBLERのモデリング)です。このエフェクトでLRにギターのパンを振って、片方のチャンネルだけ、ほんの少しディレイをかけてます。スタジオでアコギを2本録ったような雰囲気になりますね。
今回のライブではサンプリング・パッドの音色をセンターから出力していたので、アコギは広がりを出すために左右に振らなきゃなと。なのでここ(④)からは信号がステレオで出ているんです。
なるほど。
真ん中のDELAY(TC Electronic/FLASHBACK 2のモデリング)のバンクはアナログ・ディレイの音色ですね。このマルチにはMASH(感圧型エクスプレッション・コントロール)っていう、強く踏むとエフェクト・レベルをコントロールできる機能がついていて、それをこのDELAYバンクではよく使います。強く踏むと発振するようなセッティングですね。
左から2番目のREVERB(TC Electronic/HALL OF FAME 2のモデリング)は、薄めのルーム・リバーブ、その左も同じREVERBですが、こっちはシマー・リバーブですね。オクターブ上が足されて、幻想的なサウンドになってくれます。
ライブで多用していた、⑥BOSS/RC-500(ルーパー)についても聞かせて下さい。
色んなルーパーを試してきたんですが、これが一番使いやすかったんです。気に入っているポイントとしては、ステレオで出力する際に、ドライとウェットの信号を分けて送れるっていうところですね。PA卓では2つのサウンドを別々に調整してもらえるので、もっとシビアにサウンドメイクができるようになりました。
あと、ループ・トラックも2つあるので、ドラムとギター&ピアノで分けて、複雑なループを作ることもできる。どちらかをオフにしたい時には、ワンタッチで簡単に止められるので。このサイズ感でここまでのことができるのは本当に凄いと思います。
Pedalboard for Electric Guitar
【Pedal List】
①SHURE/GLXD6(ワイヤレス・レシーバー)
②BOSS/CP-1X(コンプレッサー)
③J. Rockett Audio Designs/Lenny(オーバードライブ)
④Ernie Ball/VPJR Tuner Pedal(ボリューム・ペダル/チューナー)
⑤Behringer/Super Fuzz(ファズ)
⑥Cornerstone/GLADIO(オーバードライブ)
⑦JHS Pedals/SuperBolt V2(オーバードライブ)
⑧Chase Bliss/MOOD(グラニュラー/マイクロ・ルーパー/ディレイ)
⑨BOSS/GT-1000 CORE(マルチ・エフェクター)
⑩Mesa/Boogie/Mark V Footswitch(フット・スイッチ)
⑪FREE THE TONE/PT-1D(パワー・サプライ)
こちらはTHE CHARM PARKがストラトキャスター用に用意したペダルボード。接続順は、ギターから①へ向かい、①から⑨までを直列で進み、⑨のアウトからアンプに出力される流れ。
②と③は常にONになっており、バッファー的な役割を担っている。また、今回のライブではチャームによる長尺の超絶ギター・ソロ(「Open Hearts」)が披露されたが、その際の歪みは⑤によるもの。
⑩はアンプのチャンネル切り替えスイッチだが、ライブ当日は接続されておらず、未使用。
Interview about Pedalboard for Electric Guitar
レコードの音の揺れ感を、ギターで再現したかったんです──THE CHARM PARK
③J. Rockett Audio Designs/Lenny(オーバードライブ)は以前から使われていますよね。
Lennyは、ギターの低域がふくよかになって、自分が包まれるような感覚になるのが好きで。あとは、ここ最近BOSS/CP-1X(②コンプレッサー)を導入しました。基本的にこの2つはつけっぱなしです。
⑤Behringer/Super Fuzz(ファズ)も新しいですよね。ライブでも使いましたか?
ギター・ソロの時はこれを使っていました。ファズ・ペダルは、常に10個以上は手元に持っているくらい好きなんですが、今のところこれが一番良い音なんですよね……。
十万円を超えるペダルもありますが、それらと比べても遜色がないんですよ。価格からは信じられない。壊れちゃっても、外食を1回我慢すれば買える値段っていうのが本当に嬉しいです(笑)。
僕はいつもFUZZ1モードで使っていて、“頭悪い感じなのに、まとまっている”音がしますね。とにかく僕のイチオシです。壊れたらまた絶対買います!
目から鱗でした。隣の⑥Cornerstone/GLADIO(オーバードライブ)の使い方はいかがでしょうか。
左チャンネルは、強く弾いたらクランチになる程度、右はちょっとしたギター・ソロを弾きたい時に使います。ゲイン・ブースト的な使い方ですね。これはアンプだけだと出せない“包まれる感じ”を足してくれる印象のペダル。でも、まだ最近導入したばかりなので、絶賛研究中です。
そのうしろのJHS Pedals/SuperBolt V2(⑦オーバードライブ)は、今回のライブではあまり使わなかったんですが、ファズでもない、ディストーションでもないゲイン感が凄く好きで。これでリズム・ギターを刻むととてもカッコいいんですよね。
ダーティーなゲイン感が特徴的なペダルですよね。
そうですね。壊れかけな感じというか、ある種の青春を感じます(笑)。また、僕的にはヒップな音だとも思っていて。これをわかってくれる人ともっと出会いたい……。
そのうしろは空間系が並んでいますね。
Chase Bliss/MOOD(⑧グラニュラー/マイクロ・ルーパー/ディレイ)は、このペダルでしか出せないアンビエント感が好きで。代わりが効かないエフェクターですね。
最後のBOSS/GT-1000 CORE(⑨マルチ・エフェクター)では、ビブラートの音色をつけっぱなしにしています。コードを弾くと若干ピッチが揺れるような感じです。レコードの音の揺れ感をギターで再現したかったんですけど、このエフェクトは大正解でした。本当にうっすらかかっているので、自己満足の域ですが……(笑)。でも、注目して聴くとその“揺れ感”が感じられると思いますよ!
Amplifier
Mesa/Boogie/Mark V Twenty-Five Head
Orange/PPC112 Cabinet
暖かいチューブ・サウンドを奏でる、小出力アンプ
チャームが今回のライブで使用したエレキ・ギター用のアンプ・ヘッド&キャビネット。最大25Wのアンプ・ヘッドと、スピーカー1発のキャビネットというミニマムなセッティングだ。以前はkemperなどのアンプ・シミュレーターをメインで使用していたが、“暖かい真空管アンプのサウンドが恋しくなったので、今回はこのセットにした”と本人談。
Setting
Interview about Amplifier
ライブでは特にアナログ感を重視してます──THE CHARM PARK
アンプ・ヘッドの気に入っているポイントは?
昔から“メサ・ブギーの音がエレキ・ギターのサウンド”っていう感覚で育ってきたので、自分の音色の指針になっているんだと思います。25Wという出力も丁度良いし、見た目も小さくて可愛い(笑)。
ただ、作れる音の幅が広すぎるので、音作りにはコツがいりますね。サウンドメイクには、高校生の時からMark IVを使っていたノウハウを活かせてるんじゃないかな。
ぜひそのコツを聞かせて下さい!
リード・チャンネルに関しては、BASSノブを9時くらいに抑えて、ロー感はアンプのグラフィックEQで補うというのが一番のキモですね。あと、自分の音楽にはそこまでハイの成分が必要ないので、EQの6600Hzあたりを少し下げているのが特徴的かと思います。
チャンネルはどのように使い分けていますか?
ソロやリード・プレイの時が下のリード・チャンネルで、クリーン・トーンで上のチャンネルを使いますね。クリーンは10Wまで出力を下げていて、強く弾くと若干歪むくらいのクランチにしています。
今回のライブのギター・ソロでは、リード・チャンネルの歪みにさらにファズを足してましたよね。
そうですね! もっと遊びたい時は、(JHSの)SuperBoltを踏むこともありますよ。バンド編成ではまた違うセッティングになったりもしますが。
キャビネットにオレンジをチョイスした理由はありますか?
もともとメサ・ブギーのキャビネットを持っていたんですが“真っ直ぐすぎる音”になってしまうのが自分には合わなかったんですよ。そこで、もっとサウンドに“横の広がり”を足したいと考えた時に、オレンジのキャビネットがベストマッチだったんです。
チャームさんのギター・セットは、アナログ感を重視した方向性のように感じました。
ライブでは特にアナログ感を重視してますね。例えば、DAW上の制作で、デジタル感が強い音をずっと聴いていると耳が疲れてきちゃうんです。もちろんそれぞれの好みだとは思いますが。それに、アナログ感のあるサウンドのほうが、音が大きくても耳が痛くならない。一番体感できるのはそこですね。
作品データ
「Lovers In Tokyo」
THE CHARM PARK
配信/2023年1月13日リリース
―Track List―
- Lovers In Tokyo
- Lovers In Tokyo(instrumental)
―Guitarist―
THE CHARM PARK