【前編】ビートりょうが語る、“THE BOHEMIANSらしさ”しかない新作『ultimate confirmation』 【前編】ビートりょうが語る、“THE BOHEMIANSらしさ”しかない新作『ultimate confirmation』

【前編】ビートりょうが語る、“THE BOHEMIANSらしさ”しかない新作『ultimate confirmation』

2024年8月7日(水)に3年ぶりとなる11枚目のアルバム『ultimate confirmation』をリリースした、THE BOHEMIANS。2023年にドラマーの千葉オライリー(と無法の世界)が脱退し、4人体制になってから初の作品となる本作には、原点回帰とも言えるTHE BOHEMIANSのポップなロックンロールが詰まっている。アルバム制作について、ビートりょう(g)に話を聞いた。

取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊

芸工大でバンドをやって遊んでいたから、
その頃を思い出した。

ビートりょう

3年ぶりとなる新作『ultimate confirmation』ですが、昨年11月にドラマーの千葉(オライリーと無法の世界)さんが脱退したりと、この3年間は色々あったと思います。

 3年前っていったら『essential fanfare』(2021年)か。それをリリースしたあと千葉君が活動休止して、2023年に復活したんですけど、結局脱退しちゃったわけですね。脱退に関しては千葉君の家庭の事情とかがあって、僕ら的には全然納得しているから仕方がないことなんですけど。実は千葉君が復活した2023年にCDを出す予定だったんですよ。

そうだったんですか。

 新曲3曲とライブ音源を組み合わせた、ライブ会場限定的なCDですね。3曲をレコーディングしてマスタリングまで終わってたんですけど、そのあとに千葉君が脱退することになってしまったという。“これからどうする?”となって、去年、(山中)さわおさんと話したんですよ。それで残った4人でアルバムを作ろうということになったんです。僕らは、さわおさんの強い発言がないと何もしない人間なんですね。

はい(笑)。

 “お前らは何か言われないと何もやらない指示待ちジェネレーションだから、(平田)ぱんだが4曲、ビートりょうが6曲デモを作ってこい!”って言われたのが始まりかな。コロナ禍もあったから、僕はリフやメロディをなんとなくずっと作っていて、それをまとめるキッカケになりましたね。

2023年にCDとして発表する予定だった新曲3曲は、今回の『ultimate confirmation』に収録されているんですか?

 それが1曲目の「the earnest」なんですよ。平田君が作った曲で、もともとはあれをリード曲にする予定でCDを作っていたんです。だからそのまま生かして1曲目に入れた感じ。残りの2曲は僕が1曲、千葉君が1曲ずつ作ったんですけど、千葉君が作った曲は復活の前向きなものだったんですね。でも辞めることになったから、世に出すタイミングがなくなっちゃった感じで。

サポート・ドラマーとして、ライブでは茂木左さん(the myeahns/マリ/ピーズ)が参加していますが、今作のレコーディングも茂木さんが叩いているんですか?

 そう。レコーディングは全曲茂木君ですね。茂木君は2022年に千葉君が活休していた時にもサポートをやってくれていたし、もうわかり合えた仲なので、全然ストレスなくできました。そういえば今回、デモを作る時に僕がけっこうドラムを叩いてたんですよ。平田君が作った曲は平田君がギターを弾いて、僕が横でドラムを叩いて。

へぇ〜!

 そして本間(ドミノ)君がミキサーみたいな感じでMTRをいじって、そのあとに1人でキーボードを重ねるという(笑)。そういうややこしいデモの作り方をしていたんだけど、なんかそれが大学時代に作っていた自主制作CDの録り方みたいで、ちょっと懐かしかった。芸工大(東北芸術工科大学)の音響室っていうところにドラムを持ち込んでやってましたね。

おおらかな時代ですね(笑)。

 普通はそんなことしちゃダメだと思うけどね(笑)。芸工大ではそんな感じでバンドをやって遊んでいたから、その頃を思い出したな。

茂木さんが参加したことによって、バンドはどう変化しましたか?

 音的にはもちろん変わっていると思うんですけど、何のストレスもないんですよ。わりと完コピしてくれるタイプなので本当に文句もないというか。色んなところでサポートをやっているから“流石だな”っていう感じ。

ライブではスケジュールによってhotspringのゴエ(川越俊輔)さんがドラムを叩くこともありますよね。

 そうですね。hotspringも昔から知ってるし、ゴエさんは年齢的に僕らより少し上なんですよ。性格的には主張するタイプじゃなくて、けっこう大人しいんですけど、ドラムはガツガツしてる。ゴエさんのドラムも凄く好きですね。

色々あった中で、今回はどんなアルバムを目指そうと思っていましたか?

 毎度のことなんですけど、特にないんですよね。持ち寄った曲で勝手に方向性が決まるだけ。だからいつものTHE BOHEMIANSだなって感じ。今回は“何をやっても結局THE BOHEMIANSになるんだな”っていうのを、改めて感じましたね。諦めに近い(笑)。だから“もう何をやってもいいじゃん”って思いました。

前作『essential fanfare』、前々作『the popman’s review』(2019年)には遊びの楽曲がけっこう入っていた印象ですが、今回はそれがないなと思ったんですよ。

 そう言われてみればそうですね。今回の曲は平田君と僕で半々ずつなんですよ。さわおさんに作れって言われた4曲と、去年録ってた「the earnest」で平田君が5曲でしょ? 僕がそれ以外の5曲で、「黄昏のマジックメロディー」っていう曲が2人の共作みたいな感じなんです。あれは僕がメロディを作ったんですけど、歌詞が全然できなかったんですよ。だから平田君に“ちょっと歌詞作ってよ”ってお願いしたら、スタジオのMIXルームで10分くらいで書いてきたという。それで平田君5曲、僕も5曲、共作1曲でちょうど半々なんですね。だから、そのバランスなんじゃないかな? いつもは僕が変な曲を作るんですけど、その要素がない。その中でも遊んでいるつもりですけどね。

今回もさわおさんがアルバムのディレクションを行なっているんですよね。どんな形でレコーディングが進んでいきましたか?

 今回もいつもどおりで、パーッとデモを聴いて、“ここは同じメロディが続くから短くして”とか、“演奏が同じフレーズのくり返しだから、ここはこういうパターンにしたらどう?”みたいにトータル的なところの意見をもらいました。あと今回は“曲のタイトルを変えたほうがいい”と言われまして。「かけひき」っていう曲は僕が作ったんですけど、最初は「嘘つき」っていうタイトルだったんですよ。そしたら、さわおさんから“辛辣すぎる”って言われて変えました(笑)。珍しいパターン。

ミックはみんなが求めていることをわかってる。
そのセンスを平田君にも感じるな。

ビートりょう

ここからは楽曲について話を聞かせて下さい。「the earnest」は平田さんが作ったということで、凄く開けたポップな曲ですね。デモを聴いた時、りょうさんはどう感じましたか?

 “THE BOHEMIANSっぽいな”と思いましたね。それって僕の中では凄くしっくりくるというか、“やっぱり平田君が舵を切ってるんだな”というのが改めてわかりました。というのはね、ローリング・ストーンズが去年『Hackney Diamonds』を出したでしょ? その中の「Angry」っていう曲は、たぶんミック・ジャガーが作ったと思うんですよね。ミックが作った曲のほうが、いかにもキース・リチャーズっぽいリフが出てくる。それが最近のストーンズの流れのような気がするんですよ。

なるほど!

 逆にキースは、今のモードだったらキースっぽいオープン・コードのリフはあんまり使わないと思うんですよ。やっぱりミックはみんなが求めていることをわかってるんですよね。そのセンスを平田君にも感じるな。僕はひねくれてるから、その逆をやりたくなるんですけど(笑)。そういった意味で、“凄くTHE BOHEMIANSらしい曲を作ってきたな”という感じですね。

この曲のギターはコーラスをかけていて、THE BOHEMIANSでは珍しいサウンド・アプローチだと思いました。

 なんとなくですけど、僕の中ではストーン・ローゼズ感ですね。平田君もストーン・ローゼズが好きなんですよ。初めて出会った時、“山形県にこんなにストーン・ローゼズが好きな人がいるんだ”っていうくらいストーン・ローゼズの話ばっかりしていましたから。THE BOHEMIANSに「憧れられたい」っていう曲があるくらいですからね。で、その要素を入れられそうな曲だったので、あくまで僕流のジョン・スクワイアを出しました。そう思う人は少ないだろうけど(笑)。平田君は作曲者としてギターの音色がどうのこうの言ってこないし、僕はいつもやりたいようにやるんですよ。

ギター・ソロは入口と出口がダブル・チョーキングで共通しています。

 ジョニー・サンダースみたいに、ダブル・チョーキングって僕の中ではロックンロールの象徴なんですよ。それを入れることで、かろうじてロック魂があるっていうことを伝えたかったんじゃないかな。きっとそう(笑)。平田君は1曲の中でキーボードとギターのどっちもソロを入れたい人なんですよ。平等にメンバーの見せ場を作るというかね。最初にキーボード・ソロがあったんですけど、僕は邪魔するのが好きだから、キーボード・ソロが終わる直前くらいからギター・ソロを弾いているんです(笑)。けっこうポップなソロで、MIXルームで聴いていたほっしー(星川ドントレットミーダウン)から“GLAYっぽいね!”って言われました。

「火薬!火薬!火薬!」はシンプルなリフもののロックンロールで、こういう曲は久しぶりですよね。

 これは僕の曲なんです。エンジニアのタッキー(瀧田洋平)さんとスタジオで何曲かデモを作っていて、その時の仮タイトルは「ジェット・ハイヴス」だったかな。

ジェットとハイヴス(笑)。

 そのまま(笑)。僕たちの世代のロックンロールですよね。ああいうリフものの曲って最近あんまりやってないなと思ったんですよ。それでまずはギター・リフと、“ララララララ”って叫んでいるだけのデモを作りました。歌詞は“何の意味もないものにしよう”っていうのがコンセプトだったんですよね。「火薬!火薬!火薬!」っていうのは今年2月に荻窪のTOP BEAT CLUBでやったイベントのタイトルで、それは平田君が考えたんですけど、それがちょうどいいかなって。で、去年か一昨年にHOGO地球っていうバンドを知ったんですけど、知ってます?

いや、初めて聞きました。

 若手のインディーズ・バンドで、知り合いが手伝ってるというので知ったんですけど、僕の中でけっこうショックだったんです。サウンドは凄くポップなんだけど、歌詞が僕にとっては適当で、“でまかせ言ってんじゃねぇか?”みたいな感じで(笑)。でも演奏がロックンロールしていて、“こんなに自由にロックンロールをやっているバンドがいるんだな”と思って、それからそういう曲を作りたい欲求があったんですよ。HOGO地球、みんなに聴いてもらいたいですね。

今も話に出ましたが、こういうリフ系のロックは最近めっきり聴かなくなりましたね。

 そうですね。このリフはコロナ禍、家でリフばっかり考えていた時にできたものだと思うんですよ。それこそハイヴスのイメージがあったな。ハイヴスってテレキャスというか、シングルコイルのギターをHiwattみたいなアンプに挿してジャキジャキやっていて、それもあってメインのES-335にプラスして、真鍋(吉明)さんから借りたSago New Material GuitarsのTLタイプの音も入れてるんです。でも今聴くと、レッド・ツェッペリンの「Babe I’m Gonna Leave You」(1969年)の影響もあるかなと思いますね。

曲の後半のリフ(1:40〜)はサウンドが少し変わっています。これはどうやって音作りを?

 たぶんRAT Ⅱだと思うな。最初は知り合いからリイシューのFuzz Faceを借りて使おうと思ってたんですけど、ちょっと合わなかったんですよ。

ビートりょう

作品データ

『ultimate confirmation』
THE BOHEMIANS

DELICIOUS LABEL
QECD-10014
2024年8月7日リリース

―Track List―

01.the earnest
02.火薬!火薬!火薬!
03.ロックンロールジェントルメン
04.ultimate debaser
05.マシンガン
06.かけひき
07.黄昏のマジックメロディー
08.真夏の宝
09.Wray
10.still I love you oh yeah!yeah!yeah!
11.あいのロックンロールよりはやく

―Guitarist―

ビートりょう