Gateballersが新体制となってから初のEP『Virtual Homecoming』を、2024年10月30日(水)にデジタル配信限定でリリースした。タイトルどおりバーチャル世界の到来を描いたEPで、近未来的なシンセサイザー・サウンドをギターで表現したり、その逆に90年代風のディストーションで肉体的なビートを描くなど、ギターで表現できる可能性をとことんまで追い込んでいる。今回、ギター・マガジンでは約5年ぶりにGateballersのインタビューを敢行。濱野夏椰(vo,g)と2022年10月からサポート・ギタリストを務める萩本あつし(ex.Layne)に、制作について話を聞いた。インタビュー前編では、メンバーの脱退や濱野の怪我により活動が止まってしまっていたGateballersが再始動するまでのエピソードをお届けしよう。
取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊
“みんながやっているようなものは嫌だ!”
みたいな考えをやめたんです。
──濱野夏椰
Gateballersとしてのインタビューは約5年ぶりとなります(2019年10月号)。その間、本当に色んなことがありましたが、中でも一番大きかったのが2020年に夏椰さんが交通事故に遭い、その影響で発症した胸郭出口症候群によって一時期ギターが弾けなくなったことだと思うんです。どう乗り越えたかを聞かせてもらえますか?
濱野 はい。まずバイクで転んだんですよ。それで両手首を折りました。一応、その骨折は完治したとのことだったんですけど、それから1年後の(小山田)壮平君のツアー中、身体的に限界がきて手首から首にかけての筋肉が全部骨にくっついちゃって、両手が動かなくなったんですね。もう箸も持てなくなって、残りのツアーの参加をキャンセルさせてもらって。
かなり壮絶ですね……。
濱野 色んな病院に行ったんですけど、どこも“原因不明です”という診断結果。どうしようかなと思っていた時、個人でやっている表参道のクリニックを見つけたんですよ。1時間で26,000円くらいする高いところだったんですけど、そこに1年間通いました。先生が親指を使って、くっついた筋肉を剥がしてくれて。それで半年くらい経った頃、“3日に3分間だけだったらギターを弾いてもいいよ”と。
3日に3分ですか!?
濱野 そう(笑)。“何弾こうかな、Cコードかな?”みたいに考えて、試しにやってみたら本当に弾けて。もう泣きながらでしたね。そこからは治療を続けながら筋トレと、筋肉と栄養の勉強をするんですよ。そしたら1週間後には“5分弾いていいよ”、また1週間後には“10分弾いていいよ”と時間が伸びていって。“3時間弾いていいよ”となった時に“もう1回バンドをやろう!”と思って、(久富)奈良君(d)に声をかけて、壮平君にも“もう1回サポートをやらせて下さい”とお願いしました。
そうだったんですか。
濱野 それからは有名な医学療法士の先生に付いてもらって筋肉の勉強をして、筋トレも続けています。そうやって乗り越えました。でも、“怪我してよかったな”って思います。なんでかというと、メンタルが最強になったんですよ。僕じゃないと乗り越えられなかっただろうなって。もちろん助けてくれたみんなのおかげですし、待っててくれた人たちもいた。それを感謝するキッカケにもなりましたね。だからレコーディングやライブの時、アンプにマイクを立ててくれる人にも感謝するし、なんならマイクを作ってくれた人にも感謝しています(笑)。Cコードを一発弾けているのがどれだけ奇跡か、みたいなことを思い知りましたね。
物事の考え方がすべて変わったという。
濱野 まるっきり違う。
萩本 良くなったと思うよ。みんな“前よりも優しくなったね”って言ってるし(笑)。
濱野 そうだね(笑)。今回のEPには、リハビリをしながら録った曲と、リハビリが終わってから録った曲が入っているんですよ。前みたいにギターを弾きながら歌うことができなくなったので、自分の中でバンドに対するハードルを下げたんですね。ステージに立てるだけで最高だから、“みんながやっているようなものは嫌だ!”みたいな考えをやめたんです。それで作ったのが「Wake Up」と「Universe」。あとはギター・ソロも大切に弾くようになったというか。もちろん前からそうしていたんですけど……とにかく、とても良いです。
そしてGateballersが再始動し、2022年10月から萩本さんがサポート・ギタリストとして参加していますが、どういう経緯だったんですか?
濱野 まず、2021年に本村(拓磨)が抜けた時から原元由紀君っていうベーシストがサポートしてくれていて、彼が“一緒にやりたい”と言ってくれていたんですよ。そう言ってくれる人とやるのが一番良いだろうっていうことで、まずベーシストが決まったんですね。それと再始動した最初の頃は日高(理樹)が手伝ってくれていたんですけど、日高が忙しくなってほかのギタリストを探さなきゃいけなくなったんです。もともと由紀君とあっくん(萩本)は一緒にバンドをやっていたんですよ。
Layneですね。
萩本 そうです。
濱野 バンドのリハとかライブ現場で困るのって、“翻訳”なんですよ。もう翻訳のことで人と揉めたくないなと思っていて。
翻訳?
濱野 要するに、“サビでガーッと行こうぜ!”と言っても、その“ガーッ”っていうのは育ってきた環境や言語感覚で人それぞれ変わるじゃないですか? 僕と奈良君は一緒に“グルーヴ研究会”をやっているからそれが共有できているんですけど(笑)、人に伝えるのは難しい。由紀君はクラシック出身で、あっくんと一緒にバンドをやっていたし、2人共UKミュージックが好きなんですね。僕と奈良君はどっちかというとアメリカの音楽が好き。なので、“翻訳が完璧にハマるぞ!”と思ったんですよ。あっくんに伝えにくいことは由紀君に翻訳してもらえばいいし、由紀君に伝えにくいことはあっくんに翻訳してもらえばいい、みたいな。
「Shake Your Money Maker」をコピーしたのが
スライドの始まりです。
──萩本あつし
Layneはthe myeahnsやTHE BOHEMIANSなどと一緒にライブをやっていたロック・バンドというイメージがあって、萩本さんがGateballersに参加するのは少し意外だなと思ったんです。そもそも2人の最初の出会いは?
萩本 18歳とか19歳の頃かな?
濱野 当時、藤沢にある“太陽ぬ荘(てぃーだぬそう)”っていうスタジオによく遊びに行っていたんですよ。そこに凄くキレイな男の子がいて、それがyahyelとかでドラムを叩いていた大井一彌だったんです。それから一彌と遊ぶようになって、一彌がやっていたバンドのライブを観に行ったらあっくんが歌っていて、友達になりましたね。
10年以上の友人だったんですね。ギタリストとしてはお互いどういうイメージを持っていましたか?
濱野 リッケンバカ(笑)。実際に一緒にやってみたら、スライドがめちゃくちゃ上手かったんです。あとは曲を作って歌も歌うギタリストだからコンポーザーの側面もあるし、実は鍵盤も弾けるし、説明しなくていいことがたくさんあって凄く嬉しいんですよ。
萩本 もともとGateballersは同年代のバンドの中で一番好きでしたし、夏椰君はもう自分自身がギターになっているんですよ。そういう人です(笑)。出す音に関しては立体感があるし、音作りが上手いなと思う。そのこだわりが機材に表われていますよね。
萩本さんのルーツにある音楽は、やはりUKロック?
萩本 一番最初、中学生の時に好きだったのはロカビリーやカントリーです。そこからUKロックにハマって、オアシス、ビートルズ、ザ・ジャムとかが好きになって。あとはガレージ・ロック・リバイバル世代なので、ストロークス、リバティーンズ、マンドゥ・ディアオ、ハイヴスなんかを経由して、みたいな(笑)。
夏椰さんが“スライドが上手い”と言っていましたが、スライドはジョージ・ハリスンがルーツだったり?
萩本 いや、ハウンド・ドッグ・テイラーがめちゃくちゃ好きだったんです。友達にめちゃくちゃスライドが上手い人がいて、見よう見まねでポール・バターフィールド版の「Shake Your Money Maker」(1961年)を2人でコピーしたのがスライドの始まりですね。
萩本さんが最初にGateballersに参加した頃、夏椰さんは萩本さんにどういう役割をしてほしいと思っていたんですか?
濱野 まずはコーラスをしてほしいっていうこと。それと当時は新曲が溜まりすぎていたし、さらに曲もできてるみたいな状況だったので、今までの曲をコピーしつつ、新しい曲のフレーズを考えてほしいと言いましたね。それとあっくんに共有できて一番嬉しかったことがあって……ストロークスのグルーヴってノーベル賞をもらってもいいと思ってるんですよ(笑)。
どういうことですか(笑)!?
濱野 僕、今ギターの講師をやっているんですけど、生徒のみんなに必ず聞くことがあるんです。それは“ギターは6本の弦があるけど、一番上(6弦)の弦でリズムを取っていますか? 真ん中で取っていますか? 一番下(1弦)ですか?”ということ。どれが良いとか悪いとかじゃなくて、それぞれにグルーヴがあるんですよね。だから明確に決めて弾いたほうがいい。あとピアノって両手の指を使ったら同時に最大10個の音で和音を鳴らせるじゃないですか? でもギターはストロークする時、一番下の1弦にたどり着くまで必ず6本の弦の障害を乗り越えなくちゃいけないんですよ。だから時間がかかるんですよね。コンマの話なんですけど(笑)。
そうですよね。
濱野 で、ストロークスは“タタタタタタタタ……”という鍵盤の感じでギターを弾いたわけです。6本の弦の間をまるで弦が1本しかないかのように駆け抜けることで、弾いた音のピークがきた瞬間に次の音のアタックがくるという。それをギタリスト2人とベーシストがやったからこそ、あのグルーヴが生まれたと思っていて。発明ですよね。僕は20歳くらいの時にそれに気づいて、前のめりなギターを弾いているんです。あっくんはそれをわかってくれたんですよ。
そういうことだったんですか!
濱野 それは奈良君とも共有していて。奈良君のハイハットが鳴った瞬間、僕の右手は6本を全部弾き終わっていたい。それが一番大事なことだと思います。
萩本 うん。たしかにね。僕もストロークスが好きでしたけど、それは夏椰君が言語化してくれて気づいたという感じです。
濱野 腕を怪我して考える時間が増えたんですよ(笑)。それとギターの講師をしていると、“先生、グルーヴってなんですか?”と聞かれることが多くて。だから“グルーヴ”をちゃんと言葉で説明したいと思うようになったんですよね。あと、それを可視化できたらいいなと思って、いつも太陽系の動きの動画を観せるんです。
太陽のまわりをほかの惑星がグルグル周っている動画ですか?
濱野 そう。惑星がそれぞれの周期で円を描いて周っていて、太陽がタイム、惑星が各楽器のテンポですよね。例えばハイハットが1周する間にバスドラはここにいて……みたいな。可視化すると、グルーヴは螺旋じゃなくて渦なんだっていうことがわかるんです。
作品データ
『Virtual Homecoming』
Gateballers
FRIENDSHIP.
デジタル配信限定
2024年10月30日リリース
―Track List―
01.Wake Up
02.プラネテス
03.Universe
04.光でできた世界
―Guitarists―
濱野夏椰、萩本あつし、内村イタル(※「プラネテス」のみ)