サポート・メンバーに元Layneの萩本あつし(g)と原元由紀(b)を迎え、新体制となってから初となるEP『Virtual Homecoming』をリリースしたGateballers。本記事では、フロントマンである濱野夏椰(vo,g)がライブで使用しているペダルボードと、EPのレコーディングで使用した2台の自作ペダルを解説。
取材・文=小林弘昂 機材撮影=星野俊
Hamano’s Pedalboard
歪みペダルの組み合わせを考え抜いたセッティング
【Pedal List】
①Handmade / Valve Caster(ブースター)
②HUDSON ELECTRONICS, UK / BROADCAST dual foot switch(オーバードライブ)
③One Control / Xenagama Tail Loop 2(3ループ・スイッチャー)
④Electro-Harmonix / C9(オルガン・マシン)
⑤BOSS / DS-2 Hamano Mod.(ディストーション)
⑥ProCo / Limited Edition Reissue ’85 Whiteface RAT(ディストーション)
⑦Handmade / Fuzz
⑧TC Electronic / Alter Ego Vintage Echo(ディレイ)
⑨Earthquaker Devices / Ghost Echo V1(リバーブ)
⑩D’Addario / PW-CT-20(チューナー)
⑪Fender / Engine Room LVL12(パワー・サプライ)
濱野がライブで使用しているペダルボード。ギターからの接続順は、まず①Valve Casterと②BROADCAST dual foot switchを経由して③Xenagama Tail Loop 2にイン。③Xenagama Tail Loop 2の各ループに接続されているペダルは下記のとおり。
・Loop 1=④C9 → ⑤DS-2
・Loop 2=⑥RAT → ⑦ハンドメイド・ファズ
・Loop 3=⑧Alter Ego Vintage Echo → ⑨Ghost Echo
そして③Xenagama Tail Loop 2のアウトからアンプへ。
⑩PW-CT-20は③Xenagama Tail Loop 2のチューナー・アウトに接続。現在は440Hzに設定されている。
①Valve Casterは濱野自作の真空管入りブースターで、常時踏みっぱなし。オンにすると音が柔らかくなるとのこと。②BROADCAST dual foot switchは軽い歪みを担当。右側のブースト・スイッチは「プラネテス」のイントロや、ライブでは「Rooftop」のイントロで使用している。
④C9はフレーズによって5番“LOAD PURPLE”か6番“MELLO FRUTES”のサウンドを選択。
⑤DS-2は濱野が様々なモディファイを施した1台で、本人曰く“個人的に最強のDS-2”。本機がメインの歪みを担ってる。ツマミはTONEとDISTをMAXに設定しているが、耳に痛い時はTONEを1時まで下げることもあるという。また、④C9のモードは音量差があるため、それを解決するために⑤DS-2のTURBOモードを都度切り替えているとのこと。
⑥Reissue ’85 Whiteface RATは濱野が高校生から使い続けているもの。ほかの歪みペダルと組み合わせるブースターとして使用しており、「Wake Up」と「Universe」のソロでは⑤DS-2と同時にオンにしてオルタナティブなサウンドを生み出した。各ツマミは、DISTORTIONを9時過ぎ、FILTERを2時、VOLUMEを3時手前にセッティング。
⑦も濱野が自作したファズで、Electro-Harmonixが1969年に発売したMuff Fuzzというモデルのクローン。⑥RATと本機は、フレーズによって使用するほうを切り替える。
⑧Alter Ego Vintage Echoは、おもにEchorecをシミュレートしたEREC2モードか、Deluxe Memory ManをシミュレートしたDMM Cモードを選択。たまに2290 Mモードや、リバース・ディレイのREV Mモードを使うこともあるそうだ。⑨Ghost Echoは筐体が大きい初期型。濱野は“さりげないリバーブ”として使用しており、楽曲によってオン/オフを操作している。
Other Pedals
レコーディングで使用した2台の自作ペダル
こちらはライブでは使用していないが、今作『Virtual Homecoming』のレコーディングで活躍した2台の自作ペダル。
左側の青いペダルはFulltoneのFat-Boostのクローン。オンにしても音が変わらないクリーン・ブースターとのことで、以前は音量だけを上げたいギター・ソロで踏んでいたという。今回のレコーディングでは、フェンダーの’63 Vibroverb Reissueやラップ・スティールを弾く際に本機をつないで信号を強化したとのこと。筐体に書かれているのはエリオット・スミスの楽曲名。
そしてもう1台の黄色いペダルは、Z.Vex Fuzz Factoryのクローン。コスモ電子製のハイファイなポットを使用し、精密なカーブにしているため、“発振で音階をコントロールしやすくしている”とのこと。今作では「プラネテス」のソロで使用。本機の前段に自作のアッパー・オクターブ・ファズをつなぎ、2台を同時にオンにしたそうだ。
Interview
個人的に最強の
DS-2なんです(笑)。
ライブで使用しているボードの詳細を教えて下さい。
まずボードの裏側を見てもらってもいいですか!? パワー・サプライ(⑪)を買うのはこれで最後にしたかったので、一番大きいやつを選びました(笑)。このボードはPalmerのPEDALBAY 40なんですけど、パワー・サプライを取り付ける部分に木の板を貼り付けて、スペーサーも入れて高さを稼いで、地面に当たらないようにしているんですよ。DCケーブルはオヤイデのDC-3398を空間系に、Beldenの8470を歪み系に使うと凄く好みだということがわかって、最近はこうしています。
パッチ・ケーブルのこだわりは?
前はソルダーレスを使っていたんですけど、振動でノイズが入ったり、数ヵ月に1回メインテナンスをしなくちゃいけなくて。それが嫌で今はBeldenにしました。
では各ペダルの使い方も教えて下さい。先頭に置いてある青いペダル(①)は何ですか?
“松美庵”っていうエフェクター自作サイトに載っていたValve Casterを自作したものです。たしかフェンダーの銀パネの入力回路を参考にしたブースターだったような。真空管が入っていて、今はSovtekのやつを使っていますね。これは常に踏みっぱなし。そのあとはHUDSON ELECTRONICS, UKのBROADCAST dual foot switch(②)にいきます。古いNeveの卓に突っ込んだみたいな、“Revolution”っていう音がしますよ。
ギンギンなやつですね。
ギンギンなんですけど、フラットでかっこいいんです。左側のスイッチがオーバードライブのオン/オフ、右側がブースト・スイッチで、ブーストが凄く使いやすい。めっちゃ気に入っています。
オーバードライブは踏みっぱなしではないんですか?
そうですね。Valve Casterでクリーンの音を作っていて、もっと歪ませたい時にBROADCASTを踏む。ちゃんと歪ませたい時はBOSSのDS-2(⑤)に切り替えるという感じです。あんまりないですけど、曲中で一番歪ませたい時はBROADCASTのオーバードライブとDS-2を組み合わせます。ギター・ソロの音で一番かっこいいのは、BROADCASTのオーバードライブ、DS-2、RAT(⑥)の3台同時踏み。太くて突き抜けるような音になります。
BROADCASTのブースターはどんな時にオンにするんですか?
今回のEPに入っている「プラネテス」のイントロのソロとか、最近のライブだと「Rooftop」のイントロのソロもこれで弾いていて。良いチリチリ感があるうえに音が太くて、ピッキングのコンプレッションもちゃんと出せる。何の文句もないです(笑)。ギター・ソロというより、めっちゃ歪ませたいフレーズの時に踏むかな。
Xenagama Tail Loop 2(③)の各ループの解説もお願いします。
Loop 1にはC9(④)とDS-2(⑤)が入っています。C9は5番の“LOAD PURPLE”っていうオルガンの音と、6番の“MELLO FRUTES”っていうフルートの音を使っていますね。でもモードごとに音量差があるんですよ。なので、DS-2のTURBOモードを切り替えることで音量差の帳尻を合わせています。というか、ちょっと聞いて下さいよ!
なんでしょう(笑)?
DS-2を4台買ったんですよ! というのも、ネットで“DS-2が設計された当初はゲルマニウム・ダイオードを使われることを前提とした回路だったけど、実際はシリコン・ダイオードが使われている”という記事を見たんですね。試しに自分でやってみようと思って、そのうちの1台をゲルマニウム・ダイオードに交換したんです。そしたら“凄い!”となって。でも、欲をかいてほかの部分も改造したら壊れちゃったんですよ。それからDS-2をいじるようになるんです。
ボードに入っているDS-2はどんなものなんですか?
このDS-2は、Kagetsu Rockっていう楽器店がクライオ処理したものをベースにしています。中身は、まず自分でゲルマニウムの非対称クリッピングにするモディファイをしたんですよ。それとブライアン・ワンプラーが提唱しているDS-2のモディファイがいくつかあって、その中から良さそうなものを選んで、さらに自分でモディファイしました。つまり、個人的に最強のDS-2なんです(笑)。
そんなに手を加えていたとは(笑)。
めちゃくちゃ歪むようになって、低域が締まって、よりピッキングのニュアンスが出るようになって、音圧が上がっています。フル・レンジ&鬼ミッドみたいな(笑)。これを後輩のギタリストやエンジニアさんに貸してあげると、みんな次の日にDS-2を買うという(笑)。昨日会ったエンジニアさんはショットキーバリア・ダイオードの台湾製と、日本製から台湾製になったばかりの頃のゲルマニウム・ダイオードの個体を買ってきて、3台並べて弾き比べたんですけど、これが圧倒的にエグかったです。特にTURBO Ⅱモードが。これ1台でレッチリとスウェードとニルヴァーナの音が出せますよ。
90年代の音がすると。
そう。だから今のメインの歪みはこれなんですよ。ツマミはTONEとDISTがMAXですね(笑)。TONEはキンキンしていたら1時くらいまで下げます。
Loop 2には何を接続しているんですか?
高校生の時からずっと使っているホワイト・フェイスのリイシューのRATと、自分で作ったMuff Fuzzのクローン(⑦)です。Muff Fuzzのクローンが凄く良いんですよ。面白いくらい太い音が出せるし、前段の歪みペダルの入力をそのまま生かしてくれるので、最後に踏むペダルとして優秀なんです。あとはトーンの効きも面白い。ツマミを上げても太いところや低いところがなくならなくて、どれだけキンキンさせるかを調整できるんですね。RATもFILTERの効きが面白いじゃないですか? そういう感じの2台を歪みの最終段に置いています。
ほかの歪みペダルと組み合わせて使うことが多いんですね。
でも、けっこう相性があって。BROADCASTのオーバードライブはどの歪みペダルと組み合わせても大丈夫なんですけど、ブースト・スイッチを踏むと入力がつぶれた感じになるので、ほかの歪みペダルと合わなくなるんですよ。ただ、Muff Fuzzのクローンだけは受け入れてくれる(笑)。一番エグいファズ・サウンドになりますね。
では、Loop 3には何を?
Alter Ego Vintage Echo(⑧)とGhost Echo(⑨)をループしています。Alter EgoはもともとデカいX4を使っていたんですけど、2台壊して、最終的にこれになりました(笑)。でも気に入っているんですよ。僕、ディレイにうるさくて(笑)。
どんなこだわりが(笑)?
ディレイのヘッドルームにずっとこだわりがあって。大きい入力があった時、頭が良いディレイは大きいまま出しちゃうんですよね。でも、そうすると音が破綻するじゃないですか? Alter Ego Vintage Echoは大きい入力を、音量感が変わらない状態で出してくれるのが凄く良い。おもにEREC2モードかDMM Cモードを使っていて、たまに2290 MモードやREV Mモードも使います。EchorecをシミュレートしたEREC2モードが一番気に入っていますね。
Ghost Echoはどんな使い方を?
Alter Egoとの組み合わせが素晴らしいですし、最高に好きなリバーブなんです。弾き語りの時もこれだけ持って行くくらい。現行品は筐体が小さくなっているんですけど、初期のこの筐体じゃないと僕はダメなんですよ。音は“自然な石畳リバーブ”っていう感じですね。ツマミはAttackがゼロ、Dwellが9時くらい、Depthが11時くらいで使っています。
わりと控えめなセッティングですね。
そうなんです。Attackはプリ・ディレイみたいな役割で、ここを上げるとタイムが決められるんですけど、ゼロにするとさりげないリバーブとして優秀。
リバーブも踏みっぱなしではなく、フレーズによってオンにしているんですか?
はい。ドライでデッドな時と、奥行きがある時という感じで極端にしたくて、曲によってですね。
そういえば、チューナーは以前432Hzにしていましたよね?
前は432Hzでしたけど、今は440Hzでやっています。前回のシングル「花とゆめ」とEP『未来から来た人』は432Hzでレコーディングしました。今回の『Virtual Homecoming』は440Hzです。
発振で音階を
コントロールしやすくなっているんですよ。
レコーディングで使った2台の自作ペダル詳細を教えて下さい。まずは青いほうから。
FulltoneのFat-Boostのクローンです。筐体がグレーで3ノブの時期のやつですね。ツマミは、左がトーン、真ん中がボリューム、右がゲイン。ゲインをMAXにしてもまったく歪まなくて、昔はバッファー代わりにしたり、ギター・ソロで音量だけ上げたい時に使っていました。Valve Casterは音を凄く柔らかくしてくれるんですよ。でもこれは柔らかくならないので、フェンダー・アンプを弾く時に1台だけかませたり、ラップ・スチールのレコーディングをする時につないで強い信号をアンプに送る、ということもしています。筐体に書いてあるのはエリオット・スミスの曲のタイトルですね(笑)。
もう1台の黄色いペダルは?
これはFuzz Factoryのクローンなんです。ゲルマニウム・トランジスタを使っていますね。あと、コスモ電子っていうオーディオのパーツとかを作っている日本のメーカーがあって、そこのハイファイなポットを使っています。ハイファイなポットで精密なカーブにしているから、発振で音階をコントロールしやすくなっているんですよ。Fuzz Factoryらしい音も出せますし、ミューズのマシュー・ベラミーっぽいこともできるようにしていて、気に入ってずっと使っていますね。
今回のレコーディングではどこで使ったんですか?
「プラネテス」のソロは、このFuzz Factoryのクローンの前段にもう1台ファズを組み合わせて録りました。Dan ArmstrongのGreen Ringerっていうリング・モジュレーターを参考にしたアッパー・オクターブ・ファズですね。その2台であの音を出しています。
作品データ
『Virtual Homecoming』
Gateballers
FRIENDSHIP.
デジタル配信限定
2024年10月30日リリース
―Track List―
01.Wake Up
02.プラネテス
03.Universe
04.光でできた世界
―Guitarists―
濱野夏椰、萩本あつし、内村イタル(※「プラネテス」のみ)