2023〜2024年にフェアウェル・ツアーを行ない、2024年8月ルーマニアのロック・フェスでライブ活動に幕を下ろしたMR. BIGだったが、日本のファンからの熱いアンコールを受け、2025年2月に大阪と東京で正真正銘のラスト・ライブ、『The BIG Finale! Forever In Our Hearts』を開催。そして2月25日(火)の日本武道館公演をもってバンドは解散した。それから2ヵ月ほど経った今年4月、Zoomでポール・ギルバート(g)へのインタビューを行なうことができた。本記事では日本武道館でのラスト・ライブを振り返ってもらったほか、今後の活動についても話を聞いた。
取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モーリー
“同じ内容にしちゃダメだ”と思ったんだ。
スペシャルなものをやらなくてはいけなかった。
MR. BIGは今年2月25日(火)に日本武道館でラスト・ライブを行ないました。公演が終了して2ヵ月近く経ちますが、現在はどのようなお気持ちですか?
けっこう時間が経ってしまったよね! 僕は今ほかのことに夢中で、思い出さなきゃいけないくらいだ(笑)。まず「Just Take My Heart」や「Promise Her The Moon」といったバラードをプレイしたのが記憶によみがえる。昔はバラードを演奏するとオーディエンスがライターを手に持って揺らしていたけど、今はみんな携帯電話やペンライトを持っていて、とてもキレイだった。本当に美しい雰囲気に包まれていたよ。
そして、以前のツアーから新たな曲をセットリストに加えることもできて嬉しかった。例えば「Mr. Gone」は長いことプレイしていなくて、“この曲で幕を開けるのはクールでナイスなサプライズだ!”と思ったよ。
あとは色んなギター・リフをまとめた“リフ・メドレー”をプレイしたのもお気に入りの場面だった。「Stay Together」をギター1本にアレンジして、ソロ・タイムでプレイしたんだよ。今回、個人的には音楽的に新しいことを考え、それを実行することに徹していたんだ。
前回の2023年7月の来日公演から気持ちを切り替えたところも?
僕は感情に振り回されたくないタイプでね。僕が一番やりたいことは、最初であろうが最後であろうが、観客に良いライブを見せることだった。でも今回は思うところもあって、能登の震災のために自分のギターをオークションに出すことや、新しい曲を書くことを思いついたんだ。新曲「Forever In Our Hearts」はラスト・ツアーの前に一生懸命取り組み、かなり力を注いだよ。セットリストに新曲を入れたい一心だったし、MVを作るためにビデオ制作スタッフも雇ったんだ。
僕にとってはこれらすべてが最高のライブを作り上げてくれたと思うし、自分ができることのすべてだった。でも、もし僕が“これには特別な意味があるんだ”と思ったとしても、その気持ちを必ずしも観客に与えられるとは思っていないよ(笑)。こういうことに関してはとても現実的なんだよね。
今回のライブの最後には、日本のファンに向けた「I Love You Japan」を披露しました。2023年7月の日本公演では演奏されませんでしたが、この楽曲に込めた想いを聞かせて下さい。
僕たちは何か新しいものや、しばらくプレイしていなかった曲をやりたくてね。とても良いメッセージだったよ。
マネージャーが“最後にもう1回ライブをやるべきだと思う”と言ってきた時、僕は“もしやるなら同じ内容にしちゃダメだ”と思ったんだ。少しでも新しくて、スペシャルなものをやらなくてはいけなかったから、最後のライブは今まで話してきたような形になったというわけだね。「I Love You Japan」を始め、とにかく思いつくことをやってみて、結果的にはグッドなセットリストになったよ。
今回のラスト・ライブで特に思い出に残っている出来事はありますか?
日本の直前にインドでライブをしたんだけど(Bloomverse Express Bengaluru 2025)、そこでひどい風邪を引いてしまってね(笑)。MR. BIGではギター・プレイだけでなく歌う曲もたくさんあるから、とにかく上手く歌って、ギターを弾き、本当にグッドなコンサートにしたいと思っていた。だからインドでのライブの直前はホテルで休んで水を飲み、健康的な食事を摂ることに努めていたよ。ライブ当日はハーモニーをしっかりと歌えるような喉の状態になることを祈るのみだったけど(笑)。それを乗り越えて迎えたのは、MR. BIGの日本での最後の最高なライブだった。
バンドを組んで毎週リハーサルをやっていて、
僕が書いた新曲をメンバーに披露しているんだ。
MR. BIGはこれまでに何度も日本公演を行なってきました。その中で最も印象深い出来事とは?
ミュージシャンなら誰でもわかってくれるだろうけど、とんでもない失敗をした時が一番印象に残るんだ。ミスをしたら、“あ〜、これは絶対に忘れないな……”と思うんだよね。
90年代、僕は日本の「さくら」のメロディを覚えて、当時のライブ中、ギター・ソロの冒頭で弾いたら盛り上がったんだ。そのあとに得意の速いリックを混ぜたソロを数分間弾いて、“最後にもう一度あのメロディを弾こう。でも1オクターブ高くしてね!”と思ってトライしたんだけど、オクターブ上で練習したことがなかったせいで、滅茶苦茶にしちゃったんだ! しかもそれがWOWOWだったかな? テレビ用に撮影されていて、“「さくら」を台なしにするなんて信じられない!”と心が折れそうになったよ。落ち込んで3日間誰とも話せなかった(笑)。
上手くいかなかったことも、グレイトだったことも全部覚えている。でも上手くいかなかったことは、“次は直さなきゃ”と思うようになるんだ。そういう失敗が今後やらなければならないことのリストになる。“「さくら」をしっかり覚えて、今度こそちゃんとやるんだ!”ってね。
あなたはMR. BIGを脱退したこともありましたが、2009年に再結成してから何か発見はありましたか?
MR. BIGをしばらく離れ、再び戻った時に驚いたのは、自分がとても軽いタッチでギターを弾いていたことでね。これはコード・アルペジオが多いからだと思う。僕のサウンドはディストーションが強く、コーラス・ペダルみたいなものも使っているから、強く弾くだけだと良い音にはならない。だからコード・アルペジオを軽いタッチで弾くことが多いんだ。
昔はこういうことをあまり考えてこなかった気がするけど、一連のライブをやったことでMR. BIGでのギター・スタイルを再認識したよ。ライトなタッチでプレイすることで、サウンドを明瞭に保てていると感じるね。
改めて、MR. BIGにおいて自身はどのようなギタリストだったと思いますか?
メタルっぽいものやブルースもあったし、それこそコード・アルペジオも多く、本当にバラエティに富んでいた。その多くはエリック(・マーティン/vo)とビリー(・シーン/b)のプレイ……特にエリックの歌に順応させたからとも言えるだろうね。
例えば「Green-Tinted Sixties Mind」のイントロは数あるスタイルの中の1つで、「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」のリズム・ギターとはまったく違う。僕らはたった1つのスタイルをプレイし続けていたわけじゃない。例えばAC/DCはわかりやすいよね。リズムはかなりシンコペーションしていて、クールでパンチの効いたコードやブルース・ロックのソロがあるから、カテゴライズしやすいだろう。でも僕は曲に合ったプレイをしていたんだ。「To Be With You」が「Out Of The Underground」と全然違うようにね(笑)。
今後はどのような活動をしていく予定でしょう?
まだシークレットだけど、今はちょうどニュー・アルバムの曲作りの真っ最中で、良い時間を過ごしている。僕が持っている曲作りのツールのおかげで作曲がとても簡単にできるようになって、より一層楽しくなっているよ。バンドも組んで毎週リハーサルをやっていて、僕が書いた新曲をメンバーに披露しているんだ。夏にはスタジオに入ってレコーディングをする予定でね。リリース日がいつになるのかはまだわからないけど、年末までにはリリースできたらいいなと思っているよ。
最後に、日本のファンにメッセージをお願いします!
MR. BIGのいずれかの最後のライブに足を運んでくれたみんな、観に来てくれてありがとう。楽しんでくれたことを祈っている。そしてMR. BIGの長いキャリアの中、そのどこかでライブを観に来てくれた人もありがとう。これからも僕は音楽、ギター、ソングライティング、そして世界中で演奏するという素晴らしい冒険ができることに、とても感謝しているよ。みんなの心を揺さぶって感動させるような、思いもよらぬ新しいものを届けることを、とても楽しみにしている。凄くクールなものを作ると約束するよ。いつも一緒にいてくれてありがとう。
本日はありがとうございました。これからも私たちを驚かせて下さい!
オーライ! ありがとう。グッドなものを作ってくるよ!
The BIG Finale! Forever In Our Hearts
2025年2月25日(火)日本武道館
【Setlist】
01. Mr. Gone
02. Good Luck Trying
03. Price You Gotta Pay
04. Big Love
05. Temperamental
06. Up On You
07. Green-Tinted Sixties Mind
08. Alive And Kickin’
09. Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)
10. Undertow
11. Instrumental Medley
12. Paul Gilbert Guitar Solo
13. Colorado Bulldog
14. Promise Her The Moon
15. Take Cover
16. Wild World
17. Addicted To That Rush
18. Billy Sheehan Bass Solo
19. Shy Boy
20. Forever In Our Hearts
-Encore-
21. To Be With You
22. Just Take My Heart
23. Good Lovin’
24. Baba O’Riley
25. I Love You Japan