MR .BIGが2025年2月に大阪と東京で正真正銘のラスト・ライブ、『The BIG Finale! Forever In Our Hearts』を開催。最後のステージとなった2月25日(火)の日本武道館公演でポール・ギルバート(g)が使用したペダルボードを、本人の解説と共にご紹介しよう。
取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モーリー 機材撮影=小原啓樹
Paul Gilbert’s Pedalboard

マイナー・チェンジを行なった最新ペダルボード
【Pedal List】
①BOSS / CS-3(コンプレッサー)
②Ibanez / FLMINI(フランジャー)
③JAM Pedals / RetroVibe(ヴァイブ)
④MXR / Stereo Chorus(コーラス)
⑤Mojo Hand FX / Colossus Fuzz(ファズ)
⑥JHS Pedals / Overdrive Preamp(オーバードライブ)
⑦BBE / Boosta Grande!(ブースター)
⑧Xotic / AC Booster(オーバードライブ)
⑨Neo Instruments / mini VENT(ロータリー・エミュレーション)
⑩Catalinbread /Belle Epoch(ディレイ)
⑪Radial / Shotgun(アンプ・ドライバー)
⑫VooDoo Lab / Pedal Power ×4(パワー・サプライ)
⑬VooDoo Lab / Pedal Power 3(パワー・サプライ)
2023年7月に行なわれたMR. BIGの来日公演時には2枚組だったポール・ギルバートのペダルボードだが、今回は1枚に集約されるなど、ところどころにマイナー・チェンジが行なわれた。
ギターからは①〜⑪まで番号順に直列でつながれ、⑪Shotgunでアウトが3つに分かれる。OUT 1からはマーシャルJTM45/100に、OUT 2からはポールの背後に置かれたフェンダー’65 Twin Reverbに、そしてOUT 3からはポールの目の前に置かれたフェンダー’65 Twin Reverbに接続。OUT 4は未使用。

メインの歪みは⑦Boosta Grande!と⑧AC Boosterの2台を同時にオンにした状態で、フレーズによってはどちらか1台のみを使用することも。ギター・ソロやリフ、「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」のようなハードな楽曲で歪みを足したい時には、⑦Boosta Grande!と⑧AC Boosterに加えて前段の⑥Overdrive Preampもオンにする。
高音弦をパンチのあるサウンドにしたい時や、あまりトレブリーにしたくない時には、⑥Overdrive Preampではなく、TONEノブを抑えめに設定した⑤Colossus Fuzzを踏むとのこと。しかし、⑤Colossus Fuzzと⑥Overdrive Preampも同時に使い、最大で4台の歪みペダルをオンにしてギター・ソロを弾くこともあるそうだ。
「Wild World」や「To Be With You」でアコースティック・ギターを弾く際や、「Forever In Our Hearts」のAメロ、「Just Take My Heart」など、クリーン・サウンドが欲しい場合は⑦Boosta Grande!と⑧AC Boosterをオフにし、①CS-3をオンにする。以前はBOSS LS-2(ライン・セレクター)の2つのセンド/リターンを駆使し、片方のループには歪み用の⑤Colossus Fuzz、⑥Overdrive Preamp、⑦Boosta Grande!、⑧AC Boosterの4台を、もう片方のループにはクリーン用の①CS-3を接続し、LS-2のスイッチ1つで歪み/クリーンを切り替えていたが、今回はボードのスペースを作るためにはずしてしまったのだとか。

②FLMINIは今回新たに追加されたフランジャー。小さい筐体ながらもポールは非常に気に入っているとのこと。「Undertow」のミュートを織り交ぜたリフや「Colorado Bulldog」のソロで使用していた。
③RetroVibeは「Price You Gotta Pay」の速弾きソロの終わり際やアウトロ、「Green-Tinted Sixties Mind」のタッピング・リフなどでオンに。
④Stereo Chorusは「Mr. Gone」のアルペジオやコードの白玉部分、「Green-Tinted Sixties Mind」のバッキング、「Undertow」のサビ、「Promise Her The Moon」、「Take Cover」、「To Be With You」、「Just Take My Heart」など多くの場面でオンにしていたのが確認できた。

⑨mini VENTは特殊な使い方をしており、レスリーのスピードを変化させる“SLOW / FAST”スイッチを踏み変えながら演奏するとのこと。ポールは“どちらか一方の速さだけだと面白くない”と語っていた。今回のライブでは、「Price You Gotta Pay」でのエリック・マーティン(vo)との掛け合いの部分や、「Alive And Kickin’」の何箇所かでオンにしていたのが確認できた。ほかには「Voodoo Kiss」のブルース・フレーズで使用するとのこと。
⑩Belle Epochはすべてのノブを控えめに設定し、薄いスラップ・バック・ディレイとして使用。ヴァン・ヘイレンの楽曲「Hang ‘Em High」(1982年)の最後で聴ける短いディレイ・サウンドを再現しているそうだ。
Interview
AC Boosterをつないだらグレイトなサウンドになって
“なんだこりゃ、ワンダフルだ!”と思った。
2023年7月の来日公演と比べるとペダルボードが少し変化していますね。まず、左右で2つに分かれていたボードを1つにまとめた理由は?
ツアーに出たことで必要なものがわかってきたからなんだ。MR. BIG用のボードには、今まで4〜5台のオーバードライブ・ペダルを入れていた。“もうちょっと歪みが欲しいな”と思った時は、さらに歪みを重ねるというやり方だから、1台のオーバードライブ・ペダルだけでライブをするということはなくてね。でも、だからといってたくさんのペダルは必要ない。特定のペダルを組み合わせることで上手くいくこともある。それに気づいてきたのさ。
僕はペダルボードを作るのが大好きで、いつもなら色々と入れ替えるんだけど、大部分をずっとそのままにしてこられたのはアメイジングだと思う。本当に上手くいっているし、サウンドもグッドなんだ。
あなたのシグネチャー・モデル、JHS PedalsのPG-14(ディストーション)がボードからはずされていたのが気になりました。
PG-14は大好きだけど、これを使う時はほとんど単体で鳴らしていてね。『The Dio Album』(2023年)を作った時にはブラック・サバスの曲でよく使ったよ。例えば「Country Girl」のリフにはPG-14がピッタリだった。でも、MR.BIGではあまり使わないサウンドなんだ。MR. BIGだと様々な曲に対応する必要があるからね。
以前、クリーン・トーンを鳴らす際はBOSS LS-2(ライン・セレクター)を駆使して、歪みペダル用のループからクリーン・ペダル用のループに切り替えてましたよね。なぜLS-2をはずしたのでしょう?
LS-2があったほうがずっと楽だから、今は残しておけばよかったと後悔しているんだ(笑)。ペダルボードのスペースを節約するためだったかな? しばらくツアーから遠ざかっていたから、家でボードを組み直した時にはずしてしまってね。再びツアーに戻ってきた時、“あれがない!”と思ったよ。あの時のシステムは本当に気に入っていて、今使っているボードにまたLS-2を導入するかもしれないな。

新たにIbanezのフランジャー、FLMINI(②)が加わりました。追加した理由は?
純粋にサウンドが好きで、かなりクールなフランジャーなんだ。小型ペダルだからボードに入れられたっていうのもあるね。これは「The Whole World’s Gonna Know」のイントロで使ったかもしれないな。この曲のスタジオ・バージョンにはフランジャーが入っているからね。ほかにも何曲か使った曲があったかもしれない。
Boosta Grande!(⑦)とAC Booster(⑧)を同時にオンにした歪みがあなたのメイン・サウンドで、さらに歪みが欲しい場合は前段のOverdrive Preamp(⑥)でゲイン・ブーストするという使い方は相変わらずですか?
そうだね。Colossus Fuzz(⑤)も前のツアーから使っていて、ギター・ソロではOverdrive Preampの代わりに踏んだり、もしくはOverdrive Preampと同時にオンにしたりもしているよ。
Colossus FuzzはTONEノブを少しカットしているからウォームな音で、オンにすると高音弦のアタックが太くなんだ。高音弦をパンチのあるサウンドにしたい時や、あまりトレブリーにしたくない時にピッタリだよ。どの曲で使ったかは覚えていないけど、ライブ中は必要に応じて踏んでいくんだ。これが僕がペダルボードの好きなところで、下を向いて“今の気分ならどれだろう?”という感じでペダルを選ぶことができるんだよね。

変遷が多いあなたのボードの中でもAC Boosterは15年以上不動なので、もはやサウンドの要と言えるような気がします。初めて使った時のことを覚えていますか?
リハーサルをしていた場所の近所に“Tour Supply”という小さな楽器店があって、そこで手に入れたんだと思う。初めてライブで使ったのは、ロサンゼルスでジョージ・リンチとリッチー・コッツェンとプレイした時じゃないかな?
余談だけど、そのメンバーで何本かライブをやったし、ツアーにも出た。フレディ・ネルソンと一緒に作ったアルバム(『United States』/2008年)から何曲かやったのを覚えているよ。フレディ・ネルソンはバンドに参加していなかったけどね。
だから、あのアルバムの直後だったんじゃないかな? 僕は当時マーシャルの2061Xという小さなアンプ・ヘッドを使っていて、それはボリュームを上げると歪むタイプのモデルなんだ。そこにAC Boosterをつないだらグレイトなサウンドになってね。“なんだこりゃ、ワンダフルだ!”と思った。それからしばらく色んな実験をしながら使っていたけど、いつもグッドな結果が得られたんだよね。
mini VENTを使う時は、
スピードの予測しながら操作する必要がある。
アンプをクリーンにして、歪みはペダルで作るというスタイルになって長いと思います。これはどこでどんなアンプを借りても、同じようなサウンドを作れるようにしたいというアイディアから始まったのでしょうか?
ほとんどそのとおりだ。素晴らしいアンプがあればグッドな音が出せるけど、たいていはそのサウンドに終止してしまうし、歪ませるとノイジィになりがちだよね。でもペダルで歪みを作るとバラエティ豊かなサウンドが出せるし、ペダルをオフにするだけでノイズの問題が解決できる。AC BoosterとBooster Grande!の両方をオンにしていても、それほどノイジィではないんだ。
レーサーXの頃は改造したマーシャル・アンプを使っていたんだけど、アンプのボリュームを上げてディストーションを作っていたから、エフェクト・ループにノイズ・ゲートを入れないといけなかったんだ。だから色んなレベルの歪みを切り替えられる今のやり方は、実はナイスなことなんだよ。
最近はアンプを歪ませてプレイすることはほとんどないのでしょうか?
なかなかやらなくなったよ。ペダルを操作することに慣れ親しんでいるし、アンプを歪ませたらどんな音になるのかも把握しているからね。今の僕にはこれが快適なんだ。
僕が持っているアンプの中には、ボリュームを上げて歪ませた時のサウンドが好きなものがある。それは90年代に作られたフェンダーのVibrolux Reverbで、ラウドに鳴らすとかなり良い音がするんだ。『Silence Followed By A Deafening Roar』(2008年)のレコーディングではそのアンプを使ったよ。でも、ほとんどの場合はクリーンなアンプに歪みペダルを組み合わせてプレイしている。ちょっと変わったサウンドを作りたい時、たまにアンプをラウドに鳴らすこともあるという感じだね。
RetroVibe(③)とStereo Chorus(④)は、どの曲で使いましたか?
MR. BIGではどっちもよく使うよ。基本的にコードをアルペジオする時はいつもオンにしていて、例えば「Green-Tinted Sixties Mind」のサビやヴァース、「Mr. Gone」のコード・アルペジオでも踏んでいる。MR. BIGにはこういうテクニックを駆使した曲がいっぱいあるから、これらのペダルをよく使うんだ。

mini VENT(⑨)とBelle Epoch(⑩)も、どの曲で使ったのか教えて下さい。
mini VENTは「Voodoo Kiss」でブルースっぽいプレイをする時に踏んでいる。使いこなすのが難しいペダルだけど、気に入っているよ。これは“SLOW / FAST”スイッチでレスリーのスピードを切り替えられるんだ。でも、どちらか一方だけで弾くとあまり良いサウンドにはならない……正確には良いんだけど、面白くないっていうかさ。
僕が使う時は必ず“SLOW / FAST”スイッチを踏んで速度を変化させているんだ。スイッチを踏んでもすぐには変わらなくて、少し時間をかけてそこに達するんだよね。だからこのペダルを使う時は、スピードの変化を予測しながら操作する必要がある。最初に試した時はかなりヘタクソだったけど、長い間使ってきて、今では使いこなせるようになったよ。
Belle Epochは静かなスラップ・バック・エコーのような設定で、本当に少しだけエフェクトを加える感じ。ヴァン・ヘイレンの「Hang ‘Em High」(1982年)という曲の最後で、エディのギターから“ワッ、ワッ”という感じのエコーが聴こえるんだけど、その音を真似しているんだ。

そしてもう1つ、あなたが使っている重要な道具がスライド・バーです。スライドをおもなテクニックとして使用するようになって10年以上経つと思いますが、それからアンプやペダルのセッティングなどは変わりましたか?
基本的には同じサウンドだよ。僕はスライドの時、ほとんど単音だけを弾いているんだ。スライド・プレイヤーの多くはオープン・チューニングを使っているよね? 彼らはコードをスライドさせるから、よりクリアなサウンドを求めている。でも、僕はシンガーのようにスライドを弾きたいんだ。スライドの単音は音がかなりクリアだから、ディストーションを多用することもできる。ディストーションはスライドとの相性も良いからね。
The BIG Finale! Forever In Our Hearts
2025年2月25日(火)日本武道館
【Setlist】
01. Mr. Gone
02. Good Luck Trying
03. Price You Gotta Pay
04. Big Love
05. Temperamental
06. Up On You
07. Green-Tinted Sixties Mind
08. Alive And Kickin’
09. Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)
10. Undertow
11. Instrumental Medley
12. Paul Gilbert Guitar Solo
13. Colorado Bulldog
14. Promise Her The Moon
15. Take Cover
16. Wild World
17. Addicted To That Rush
18. Billy Sheehan Bass Solo
19. Shy Boy
20. Forever In Our Hearts
-Encore-
21. To Be With You
22. Just Take My Heart
23. Good Lovin’
24. Baba O’Riley
25. I Love You Japan