ポール・ギルバートが解説! 2025年2月に行なわれたMR. BIGのラスト・ライブで使用した5本のエレキ・ギター ポール・ギルバートが解説! 2025年2月に行なわれたMR. BIGのラスト・ライブで使用した5本のエレキ・ギター

ポール・ギルバートが解説! 2025年2月に行なわれたMR. BIGのラスト・ライブで使用した5本のエレキ・ギター

MR .BIGが2025年2月に大阪と東京で正真正銘のラスト・ライブ、『The BIG Finale! Forever In Our Hearts』を開催。最後のステージとなった2月25日(火)の日本武道館公演でポール・ギルバート(g)が使用した5本のエレキ・ギターを、本人の解説と共にご紹介しよう。

取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モーリー 機材撮影=小原啓樹

Paul Gilbert’s Guitars

Ibanez
PGM Custom

Ibanez / PGM Custom(前面)
Ibanez / PGM Custom(背面)

25曲中14曲で使用されたメイン・ギター

今回のライブでのポールのメイン・ギターは、2015〜2016年頃にIbanzeのカスタム・ショップで製作されたオリジナルのPGM。

ピックアップはポールのシグネチャー・モデルにも搭載されているDiMarzioのAir Classicで、ビンテージ・トーンを再現。ブリッジはWilkinson by GOTOHのVSVGと思われるシンクロナイズド・トレモロ・ユニットが採用されている。アームは未使用で、スプリングは真っ直ぐ3本張られていた。

チューニングは全弦半音下げを基本にしている。弦はErnie BallのMighty Slinky #2228(.0085-.011-.015-.022w-.030-.040)という、かなり細めのゲージだが、ハードなリフを刻むため6弦のみ.046のゲージに変更。ポールはチョーキングをすることが多いため、細い弦でも問題ないという。

使用楽曲(2025年2月25日@日本武道館)
※全弦半音下げチューニング

  • 「Mr. Gone」
  • 「Good Luck Trying」
  • 「Price You Gotta Pay」
  • 「Big Love」
  • 「Temperamental」
  • 「Green-Tinted Sixties Mind」
  • 「Alive And Kickin’」
  • 「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」
  • 「Addicted To That Rush」
  • 「Shy Boy」
  • 「Forever In Our Hearts」
  • 「Good Lovin’」(※ニック・ディヴァージリオが使用)
  • 「Baba O’Riley」
  • 「I Love You Japan」

Ibanez
PGM50

Ibanez / PGM50(前面)
Ibanez / PGM50(背面)

新たに手に入れた「Up On You」用のギター

2024年8月、MR. BIGのツアーで訪れたドイツ・フランクフルトにて、バンドの機材車からポールのギターが4本盗まれるという事件が起こった。その中にはそれまで愛用していたシグネチャー・モデル、PGM50も含まれており、本器はその代わりに手に入れたものである。

ボディはアメリカン・バスウッド、ネックはメイプルとウォルナットの5ピース、指板はローズウッドを採用。ピックアップはフロントとリアにDiMarzioのAir Classicを、センターにDiMarzioのPGMを搭載している。

今回のライブでは「Up On You」で使用。C♯-G♯-C♯-F♯-A♯-D♯というチューニングにセッティングし、ブルージィなスライド・ギター・ソロを披露した。ちなみにポールはスライド・バーを中指にはめている。

使用楽曲(2025年2月25日@日本武道館)

  • 「Up On You」(C♯-G♯-C♯-F♯-A♯-D♯ Tuning)

Ibanez
FRM Custom

Ibanez / FRM Custom(前面)
Ibanez / FRM Custom(背面)

P-90を搭載したカスタム・モデル

Ibanezのカスタム・ショップにオーダーしたというワンオフもののFRM。ポールは入手時期について詳しくは覚えていなかったが、2011年頃には確実に使用していたとのこと。通常のIbanezのギターよりもナット幅を狭めているのが特徴と語る。

ピックアップを色々と試したそうで、最終的にDiMarzioのFantom P90 Soap Barをチョイス。50年代のP-90のトーンとルックスを再現しつつ、ハムキャンセリング構造が採用されているモデルだ。

ポールは本器を気に入っており、オンライン・ギター・レッスンで手にすることが多いとのこと。その際にほかのギターを弾いている時よりもミスが少ないことを発見し、今回のライブで使用することを決めたのだという。

使用楽曲(2025年2月25日@日本武道館)
※全弦半音下げチューニング

  • 「Promise Her The Moon」
  • 「Take Cover」

Ibanez
540PHH

Ibanez / 540PHH(前面)
Ibanez / 540PHH(背面)

大胆な改造を施した隠れ名器

1989〜1990年という短い期間に生産された540PHH。ポールは“88年か89年に手に入れた”と語っていたので、おそらく発売直後の89年に入手したものと思われる。ボディはバスウッド、ネックはメイプル、指板はローズウッドという材構成。

本来はDiMarzioのIBZ/USA Fシリーズのハムバッカーが2基搭載されているのだが、ポールはフロントにFERNANDESのシングル・サイズのSustainerを搭載し、リアはDiMarzioのPAF Proに交換。ボディ・トップにはSustainerのオン/オフ・スイッチが増設され、バックにはSustainer用の電池ホルダーが開けられている。

さらにIbanezカスタム・ショップによりオリジナルのロッキング・トレモロ・ユニットがはずされ、周辺の大きな穴を埋め、ブリッジもハードテイル・タイプに換装。ナットもオリジナルはロック式だが、ロック部分が取りはずされていた。1弦側のホーンの形がおかしいのは、ポールがノコギリで切り落として少し短くしたため。

使用楽曲(2025年2月25日@日本武道館)
※全弦半音下げチューニング

  • 「Undertow」
  • 「Instrumental Medley」
  • 「Paul Gilbert Guitar Solo」
  • 「Colorado Bulldog」

Ibanez
FRM350

Ibanez / FRM350(前面)
Ibanez / FRM350(背面)

盗難を逃れたお気に入りのシグネチャー・モデル

2024年8月、ドイツ・フランクフルトでMR. BIGの機材車からギターが4本盗まれた際、ポールは本器のみを宿泊先のホテルに持ち込んでいたため、その時唯一手元に残ったというFRM350。ポールはこのギターを最も気に入っており、ホテルの部屋でレッスン動画の撮影や練習をしていたとのこと。

入手したのは2024年のツアーが始まる直前で、改造点はなし。ボディはオクメ、ネックはオクメとメイプルの3ピース、指板はバウンド・エボニーという材構成。ピックアップはDiMarzioのAir Classicが搭載されている。

今回のライブではE-G♯-C♯-F♯-A♯-D♯というチューニングの「Just Take My Heart」のみで使用された。本当は本器をメイン・ギターにしたかったそうだが、本人曰く“僕にとってはMR. BIG以降のキャリアを歩んできたギターなんだ(笑)”という理由から、MR. BIGでのライブではあまり使われなかった。

使用楽曲(2025年2月25日@日本武道館)

  • 「Just Take My Heart」(E-G♯-C♯-F♯-A♯-D♯ Tuning)

Interview

前回は3〜4種類のチューニングを用意していた。
でも今回のツアーはシンプルだったね。

今回の日本武道館公演と2023年7月に行なわれた来日公演とでは使用したギターが違うのですが、昨年8月にドイツのフランクフルトでギターが盗まれたことも関係しているのでしょうか?

うん。あれはひどかったよ。幸運なことに、僕のギターが盗まれた街はIbanezの大きな代理店がある場所でね。だからその日のライブのために新しいギターを用意してくれて、プレイを続けることができたんだ。

25曲中14曲でメイン的に使用された白いPGMについて詳細を教えて下さい。

これはカスタム・ショップで作ってもらったもので、ピックアップは僕がよく使ってきたDiMarzioのAir Classicを搭載していると思う。アームは使わなかったけど、Wilkinsonのトレモロ・ユニットが付いているよ。ペグはIbanezのロッキング・チューナーだね。

僕が50歳になった時、2016年のツアーでクレイジーなメドレーを演奏したんだけど、その時にこのギターを使ったんだ。これはそのツアーのために手に入れたんだと思う。推測だけど、2015年か2016年頃のものであることは間違いない。たくさんツアーをしてきたから、なかなか思い出せないんだ(笑)。

Ibanez / PGM Custom

チューニングは?

MR. BIGのほとんどの曲は全弦半音下げだけど、前回のツアーは『Lean Into It』(1991年)を全曲プレイしたこともあってクレイジーだったよ。何曲かは原曲キーで歌うのが難しくて3〜4種類のチューニングを用意していた。でも今回のツアーはシンプルだったね。半音下げが基本で、「Just Take My Heart」は6弦だけが半音上がるっていうクレイジーなチューニング。「Up On You」は6弦だけ1音下げにしているくらいだった。

あなたはとても細いゲージの弦を張っていたと思いますが、ブランドとモデル名を教えて下さい。

Ernie BallのMighty Slinkyっていう.0085から始まるもの(.0085、.011、.015、.022w、.030、.040)を使っていて、6弦だけは.046のゲージに変えている。低音弦ではリズムをハードに刻むことが多いから、.046だと6弦のチューニングが少し安定するんだ。それに6弦ではあまりビブラートをかけないから、このゲージで問題ない。少しタイトなサウンドなんだ。

1弦が.0085で半音下げだと弦がダルダルになりませんか?

そうだね。でも僕はベンドを多用するから、スパゲッティくらいゆるいのがちょうどいいよ。

スライドが印象的な「Up On You」では、黒いPGM50を使用していました。これは2023年7月の来日公演で使用したものと同一個体でしょうか?

もともと持っていたやつは盗まれてしまったから、残念ながら新たに手に入れたものだね。改造はしていなくて、スライド・マグネットを付けただけだよ。

Ibanez / PGM50

「Undertow」や「Colorado Bulldog」では、小さいIbanezのギターを使用していましたよね。

これは88年か89年に手に入れた540っていうモデルで、「Nothing But Love」(1993年)のレコーディングでも弾いたよ。アレックス・スコルニック(テスタメント)も使っていたモデルなんだ。

実は1弦側のホーンをノコギリで切り落として、ちょっと短くしている。FERNANDESのSustainerを搭載しているからエンドレスなサステインが得られるよ。音を長くキープしたい時に使ってたなぁ。ブリッジ・ピックアップにはDiMarzioのPAF Proが載っている。とてもクールなギターで気に入っているよ。

Ibanez / 540PHH

ブリッジ周辺には埋め木の跡があります。

当時のギターの多くにはロッキング・トレモロが付いていたからね。Ibanezのカスタム・ショップに頼んで木片で穴を塞いでもらい、代わりに固定式のブリッジにしてもらったんだ。

このギターを一番気に入っていたから
今でも持っていられているんだよ(笑)。

「Promise Her The Moon」と「Take Cover」では、P-90が搭載された白いFRMを使用していました。このギターの詳細を教えて下さい。

これはカスタム・ショップ製のワンオフものなんだ。『What If…』(2011年)を作った時に持っていたのは確かだね。あのアルバムのフォト・セッションで抱えていたと思うから。

実は何種類かのピックアップを試したことがあって、最終的にDiMarzioのFantom P90 Soap Barというモデルを載せている。これはハムキャンセリング機能付きでグレイトなサウンドなんだ。本当に気に入っているし、もちろんハムノイズがないのもナイスだね。

これはカスタム・ショップのギターだから、ネックがファクトリー・モデルと少し違うのが面白いところなんだ。通常、Ibanezのギターはもう少しナットの幅が広い。例えばピンクの540はナット幅がとても広いんだけど、このFiremanはとても狭いんだよね。

Ibanez / FRM Custom

なぜ「Promise Her The Moon」と「Take Cover」でP-90のギターを使おうと思ったのでしょうか?

オンライン・ギター教室のレッスンでこのギターをよく弾いているんだけど、いつもより多くのことができることに気がついたんだ。このギターを使うとミスが少なくて、かなり生産的で、1日に10個のレッスンができるかもしれない……ほかのギターなら6個のレッスンしかできないと思う。だから使うことにしたんだ。

「Just Take My Heart」では黒いFRM350を弾いていました。

このギターを手に入れたのは去年のツアーの直前だったと思う。基本的には工場から送られてきたままの状態で、製品の最終確認をするためのものだったんだ。とても気に入ったよ。重すぎないグッドな重量だったし、サウンドもグレイトだ。FRM350はスライド・マグネットを最初から内蔵している唯一のギターだしね。

去年のツアー中、ほかのギターは機材車から盗まれてしまったけど、これだけはホテルに持ち込んでオンライン・スクールのビデオを撮ったり、練習に使ったりしていたんだ。このギターを一番気に入っていたから今でも持っていられているんだよ(笑)。あの日、すべてのギターをホテルに持って行けばよかったって後悔している。

Ibanez / FRM350

「Just Take My Heart」ではチューニングを変える必要があったので本器を使ったんですよね?

前回のツアーでは色んなチューニングのギターを弾いたけど、“何でギターをたくさん持って行く必要があるんだ?”って思っていたよ。そして今回のセットリストが決まる頃には、“チューニングはあんなに必要ない!”という感じになっていた(笑)。でも「Just Take My Heart」はチューニングがほかの曲とはちょっと違っていてね。FRM350はスケールが少し短いからチューニングを合わせるのにちょうどいい。

白いPGMを多用していた理由の1つは、あれがMR. BIGでの僕のギターとして一番知られているビジュアルだからなんだ。みんなが“MR. BIGのギターって何だろう?”と考えたりする時に、90年代のコンサートを観た時のようなノスタルジーを感じてもらいたいからね。本当はこの黒いFRM350を一晩中使えたら幸せだったんだけど、僕にとってはMR. BIG以降のキャリアを歩んできたギターなんだ(笑)。

The BIG Finale! Forever In Our Hearts
2025年2月25日(火)日本武道館

【Setlist】
01. Mr. Gone
02. Good Luck Trying
03. Price You Gotta Pay
04. Big Love
05. Temperamental
06. Up On You
07. Green-Tinted Sixties Mind
08. Alive And Kickin’
09. Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)
10. Undertow
11. Instrumental Medley
12. Paul Gilbert Guitar Solo
13. Colorado Bulldog
14. Promise Her The Moon
15. Take Cover
16. Wild World
17. Addicted To That Rush
18. Billy Sheehan Bass Solo
19. Shy Boy
20. Forever In Our Hearts

-Encore-
21. To Be With You
22. Just Take My Heart
23. Good Lovin’
24. Baba O’Riley
25. I Love You Japan