ギルド・ギターズの誕生から現在までをふり返る短期連載『今ふり返る、ギルド・ギターズの正しい歴史』。第8回は、音楽シーンの変化に追従すべく奮闘する1980年代へ。さまざまな老舗ギター・ブランドが苦戦を強いられた1980年代当時のギルドの動きを見ていこう。
文=長谷鉄弘 デザイン=三本昌樹 Photo by Paul Natkin/Getty Images
ソリッド・ボディ・ラインナップの拡充
1970~80年代のギルド・ラインナップを見ていくと、当時の同社がソリッド・ボディ・エレクトリック・ギターの開発に力を入れていたことに気づく。ギルド初のソリッド・ボディである1963年のS-50/100/200は実験的なシェイプを持っていたが、1950年代後半に小型のホロウ・ボディ・ギターとして発売されたM-65やM-75のデザインを受け継ぐ1970年のM-75“Solid Body”は、より親しみやすいモデルとして受け入れられたようだ。
1970年頃にはSシリーズが先端が鋭く尖ったダブル・カッタウェイ・ホーンを持つS-100 Standard、S-100 DeLuxe、S-90、S-50として生まれ変わり、こちらも一定の人気を得たようだ。1976~77年、Sシリーズの3代目としてリリースされたS-60/300は、24フレット仕様のネックやディマジオ社製ピックアップ(S-300“D”&S-60“D”に搭載)を採用し、新たな時代のヘヴィなロックの隆盛とともに生まれた新興メーカーに対抗していた。現在のギルドでは、PORALAシリーズがS-100の血統を受け継いでおり、2026年7月にはS-300 Deluxeも復刻版として登場した。
また、1984~87年頃にかけて生産したBHM-1“Brian May Signature”は、ブライアン・メイの愛器である“レッド・スペシャル”を本人公認のもとにトリビュートした意欲作で、今も探し求めるマニアが多い(※)。
一方、1981年のX-79やX-82などのヘヴィ・メタル・プレイヤーを強く意識したモデルは短期間しか生産されず、現在の目には親しみやすいデザインと映る1982年のS-275なども“ギブソンとフェンダーの中間を行くようなキャラクター”がユーザーに中途半端な印象を与えたのか、セールスは奮わなかったようだ。
※:同時期には“Brian May Power Booster”ペダルも販売された。なお、ギルドは1990年代にもレッド・スペシャルのトリビュート・ギターをリリースしている。
業績の悪化と経営の混乱
これらソリッド・ボディ・モデルが矢継ぎ早に開発された背景には、1970年代後半~80年代にかけての楽器業界のトレンドが存在していた。この頃、1970年代前半に最盛期を迎えたフラットトップ・アコースティック・ギターへの需要にはすでに翳りが見え始めており、1960年代からこのジャンルの楽器を主力としてきたギルドは大幅かつ急速な方向転換を迫られたと考えられる。
また、同時期には1970年代以降に登場した新しいメーカーが、スーパー・ストラト~ヘヴィ・メタル・ギター・ブームやコンポーネント・ギター・ブームを巻き起こしてシーンを盛り上げる一方、1950年代より前に創業された老舗ブランドたちが衰退期を迎えている。CBS社が1985年にフェンダー・ブランドを、ノーリン社が1986年にギブソン・ブランドをそれぞれ売却した事例からも、そうした時代の流れが読み取れるだろう。労働者の人件費や材料費の高騰、新興国の台頭など、アメリカのあらゆる製造業者を苦境へ追い込んだグローバル経済の構造変化が、すでに大企業へと成長を遂げていた古参の楽器メーカーを直撃したのだ。
1970後半~80年代にかけて過去の伝統を守りつつトライ&エラーをくり返してきたギルド・ギターズも、この変化と無縁ではいられなかった。1986年、アヴネット社はギルドの経営権をジェアー・ハスキュー(Jerre Haskew)を筆頭とする投資家グループへ売却する。
テネシー州チャタヌーガに活動拠点を置くジェアーは、1980年代までに地方銀行“コマース・ユニオン・バンク”のCEOなどを歴任した経済人であり、ソングライター~フォーク・ミュージシャンでもあった。社名を“ギルド・ミュージック・コーポレーション”と改めた彼は、アメリカにおけるビンテージ・ギター・トレードの第一人者として知られるジョージ・グルーン(Gruhn)を副社長に起用してメーカーの再建を図るも、事業は困難を極めたのだろう。1988年にはジョージが去り、翌1989年、ジェアーはギルド・ブランドをウィスコンシン州のFAAS社(1993年に社名をU.S.ミュージカル・コーポレーションに変更)へ売却してしまう。
また在任期間は短かったが、グルーン副社長のもとで新開発された楽器にはチェンバード/セミ・ソリッド・ボディを持つエレクトリック・ギター・シリーズがあり、1987年頃の“Nightbird I”&“II”は、今、見ても古く感じない極めてモダンなデザインを持っていた。その上位機種に当たる“Nightingale”は、バディ・ガイ(彼は1960年代後半~70年代にかけて“Starfire IV”を愛用し、ギルドの広告に出演したこともある)が弾いたことでブルース・ファンによく知られている。

著者プロフィール
長谷鉄弘(ながや・てつひろ)◎1970年生まれ。『ギター・マガジン』、『ギター・グラフィック』(いずれも小社刊)などの編集部員を経て1996年に独立。現在はライターとして、『ギター・マガジン』や『アコースティック・ギター・マガジン』、『The Effector Book』(シンコーミュージック)などに寄稿。
