戦前ブルースを聴くことの楽しみのひとつに、のちにロック・ミュージシャンたちによってカバーされた曲の元の姿を知ることができる、ということがあります。今回紹介するアルバムには、エリック・クラプトン、ローリング・ストーンズ、ライ・クーダー、オールマン・ブラザーズ・バンドがカバーした“あの曲”の原曲が収録されています。
文・選盤=小出斉 協力=七年書店
フランク・ストークス
『The Best Of Frank Stokes』
●ギタリスト:フランク・ストークス、ダン・セイン
ギター・デュオの完成形が聴きモノ
古い世代であり、野太い声で多彩なレパートリーをこなしたメンフィスのフランク・ストークスの全録音集。自身の弾き語りもいいが、ギターに関しては“ビール・ストリート・シークス”と称した、ダン・セインとのデュオが聴きもの。ストークスの野太いリズムに、セインが細かくメロディで絡み、ギター・デュオの完成形を見せつける。
ファリー・ルイス
『The Classic Recordings』
●ギタリスト:ファリー・ルイス
抜群のリズム感を持つ芸達者
戦後も活動し、晩年はリオン・ラッセルのシェルター・ピープルの一員となっていたファリー・ルイスは、戦前からメディシン・ショウなどで活動していた芸達者。抜群のリズム感、低音弦へのくっきりしたメロディの乗せ方はまさに名手。バラッドの「John Henry (The Steel Driving Man)」などの、スライド・ギターも見事だ。
ロバート・ウィルキンス
『Original Rollin’ Stone』
●ギタリスト:ロバート・ウィルキンス
ストーンズのカバーでも知られる
60年代に“再発見”された時は聖職者で、聖書を題材にした「放蕩むすこ」をローリング・ストーンズがカバーしたことで知られたウィルキンス。戦前のブルースマン時代の全録音で、「放蕩むすこ」のさらなる原曲「That’s No Way To Get Along」も。歯切れのいいリズムを刻み、歌と並行してメロディを奏でる面白いスタイルも。
ブラインド・ブレイク
『The Best Of Blind Blake』
●ギタリスト:ブラインド・ブレイク
東海岸ギター・ラグの最高峰
戦前、東海岸一帯で流行ったギター・ラグ。その最高峰が言わずと知れたこの人。人物については謎が多いが、26~32年に残した80曲あまりの演奏は永遠の輝きを放つ。ライ・クーダーもカバーした「Diddie Wa Diddie」始め、完璧に構築されたベースとメロディ・ラインの絡み、リズム感は空前絶後。スローの哀愁ある歌も絶品。
ブラインド・ウィリー・マクテル
『The Best Of Blind Willie McTell』
●ギタリスト:ブラインド・ウィリー・マクテル
アトランタの12弦ギタリスト
オールマン・ブラザーズ・バンドが(タジ・マハール経由で)「Statesboro Blues」をカバーしたことでも知られる、アトランタの12弦ギタリスト。バラッド、ラグタイムからボトルネックのブルースまで幅広いレパートリーをこなした。27~35年の録音から23曲。リマスタリングで音質が向上、ギターの響きがよく伝わるCD。
バーベキュー・ボブ
『Barbecue Blues』
●ギタリスト:バーベキュー・ボブ
ジョージア・スタイルの12弦
27~30年に約60曲を残し、29歳で亡くなったバーベキュー・ボブ。12弦ギターを使用し、低音弦をアクセントとしてバチバチ鳴らし、スピーディにボトルネックを滑らせ、パーカッシヴにコードを響かせる。そんなスタイルが、ジョージアの一つの型になった。代表曲「Motherless Chile」はエリック・クラプトンもカバー。
ブラインド・ボーイ・フラー
『East Coast Piedmont Style』
●ギタリスト:ブラインド・ボーイ・フラー
ロリー・ギャラガーもカバー
ノース・キャロライナで30年代後半に人気を博したフラー。シティ・ブルース的な落ち着いたブルース、「Rag Mama Rag」を始めとするギター・ラグ、どちらも素晴らしい。スティール・ボディのリゾネイター・ギターによる硬質なサウンドも一層華やかに。ロリー・ギャラガーもフラーの曲をカバーしていた。
V.A.
『Carl Martin / Willie “61”Blackwell』
●ギタリスト:カール・マーティン
ワン&オンリーの名人芸は必聴級
かなりマニアックではあるが、ヴァージニア出身のカール・マーティンは必聴。13曲収録されているソロ録音は、いずれもシカゴに移住してからのものだが、東海岸の伝承曲「Crow Jane」などで聴ける、トレモロ・ピッキングも巧みに使い、全体が見事に構成された演奏は、ワン&オンリーの名人芸。哀愁ある歌も素晴らしい。
V.A
『セントルイス・ブルース・ギター名作選』
●ギタリスト:ヘンリー・タウンゼンド、ヘンリー・スポールディング、他
ヘンリー・スポールディングを聴け!
セントルイスは中西部屈指の大都市で、洗練されたシティ・ブルースの中心地でもあったが、その地にいてカントリー・ブルース的なギター弾き語りブルースマンをまとめたもの。2曲しか録音していないヘンリー・スポールディングの「Cairo Blues」は、コード・ストローク、スラッピング、高音メロディ・ラインの合わせ技が完璧!
リロイ・カー
『Blues Before Sunrise』
●ギタリスト:スクラッパー・ブラックウェル、ジョッシュ・ホワイト
ロバジョンにも影響大だった!?
リロイ・カーはインディアナポリスのピアニストで、戦前のシティ・ブルースの立役者。そのほとんどの録音に付き合ったギタリストが、スクラッパー・ブラックウェル。ピアノに伍した単弦メロディ・プレイは当時の最先端。そしてドローンも使った重いリズム・ギターは、ロバート・ジョンソンにも影響大だった。32/34年録音。
*本記事はギター・マガジン2021年3月号にも掲載しています。
『ギター・マガジン2021年3月号』
特集:ギター・ヒーローが愛した、アコースティックの世界。
クラプトン、デュアン、フルシアンテ。キースにピートにジョン・メイヤー。Jマスキスにガルシアにハウ。コイツら全員、アコギもヤバい!!!