ア・トライブ・コールド・クエスト『ミッドナイト・マローダーズ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第9回 ア・トライブ・コールド・クエスト『ミッドナイト・マローダーズ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第9回

ア・トライブ・コールド・クエスト『ミッドナイト・マローダーズ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第9回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回のアルバムは、ア・トライブ・コールド・クエストの『ミッドナイト・マローダーズ』。90年代を代表するヒップホップ・グループの3枚目のフル・アルバムだ。

文=マーク・スピアー、七年書店(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年1月号より転載したものです。

ア・トライブ・コールド・クエスト
『ミッドナイト・マローダーズ』/1993年

ヒップホップ史に燦然と輝くニュー・スクールの大名盤

デ・ラ・ソウル、ジャングル・ブラザーズらと共に“ネイティブ・タン”という集団を組織し、“ニュー・スクール”という新たな潮流を生み出した90年代を代表するヒップホップ・グループの3rdアルバム。ジャジィな2ndから、サンプリングへと回帰した隙のないサウンド・プロダクションは文句の付けどころなし。ヒップホップの歴史の中でも重要な位置を占めるクラシック中のクラシックだ。

昔の素材を用い、時を超えて素晴らしいものを生み出す。感服するね。

 当時のヒップホップ名盤の1つで、もはやクラシックと呼べる作品だね。

 これを聴いたのは15歳くらいの頃だったかな? 当時、同級生で最初に車の免許を取った奴がいて、これを聴きながらドライブしたものさ。授業を抜けて遊びに行った素晴らしい記憶が蘇るね(笑)。

 このアルバムの優れている点は、サンプルの選び方、そしてその聴かせ方と使い方だ。アリ・シャヒード・ムハマド(DJ)がサンプリングして使っているバッキング素材は、実に素晴らしいヴァイブを作り出している。とてもファンキーかつジャジィで、音楽的なんだ。

 僕はこの作品を聴きながら、「ギタリストとして、どうしたら自分でもこういうプレイができるか!?」とばかり考えていたよ。このアルバムには大してギターが鳴っているわけじゃないけどね。僕は音楽を聴くにあたり、ギターがどれだけ鳴っているかなんてあんまり気にしないんだ。

 特に好きな曲は、「Lyrics to Go」。ミニー・リパートンの「Inside My Love」のエンディングの6小節のフレーズをサンプリングしていて、これを何度もくり返している。これをバックに、MCのファイフ・ドーグとQティップがフローを重ねるんだ。パフォーマンスや歌詞のクオリティもとても高いね。コード・ワークもアメイジングで、分析したこともあるよ。

 こうして、ミニー・リパートンによる何年も前の素材を用い、時を超えて素晴らしいものを作り出す。ア・トライブ・コールド・クエストのこういった姿勢に僕は感服するね。美しいとしか言いようがないよ。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。