現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回のアルバムは、ア・トライブ・コールド・クエストの『ミッドナイト・マローダーズ』。90年代を代表するヒップホップ・グループの3枚目のフル・アルバムだ。
文=マーク・スピアー、七年書店(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年1月号より転載したものです。
昔の素材を用い、時を超えて素晴らしいものを生み出す。感服するね。
当時のヒップホップ名盤の1つで、もはやクラシックと呼べる作品だね。
これを聴いたのは15歳くらいの頃だったかな? 当時、同級生で最初に車の免許を取った奴がいて、これを聴きながらドライブしたものさ。授業を抜けて遊びに行った素晴らしい記憶が蘇るね(笑)。
このアルバムの優れている点は、サンプルの選び方、そしてその聴かせ方と使い方だ。アリ・シャヒード・ムハマド(DJ)がサンプリングして使っているバッキング素材は、実に素晴らしいヴァイブを作り出している。とてもファンキーかつジャジィで、音楽的なんだ。
僕はこの作品を聴きながら、「ギタリストとして、どうしたら自分でもこういうプレイができるか!?」とばかり考えていたよ。このアルバムには大してギターが鳴っているわけじゃないけどね。僕は音楽を聴くにあたり、ギターがどれだけ鳴っているかなんてあんまり気にしないんだ。
特に好きな曲は、「Lyrics to Go」。ミニー・リパートンの「Inside My Love」のエンディングの6小節のフレーズをサンプリングしていて、これを何度もくり返している。これをバックに、MCのファイフ・ドーグとQティップがフローを重ねるんだ。パフォーマンスや歌詞のクオリティもとても高いね。コード・ワークもアメイジングで、分析したこともあるよ。
こうして、ミニー・リパートンによる何年も前の素材を用い、時を超えて素晴らしいものを作り出す。ア・トライブ・コールド・クエストのこういった姿勢に僕は感服するね。美しいとしか言いようがないよ。