現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回のアルバムは、マハムド・アハメドの『ソウル・オブ・アディス』。エチオピアの国民的歌手であり、ソウルフルな歌声で同国の音楽シーンを牽引したシンガーだ。
文=マーク・スピアー、七年書店(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2021年12月号より転載したものです。
マハムド・アハメド
『ソウル・オブ・アディス』/1997年
エチオ・ポップが生み出す独自の特濃ファンクネス
靴磨きとしてキャリアをスタートしながらも、1970年代以降、エチオピアの国民的歌手へとのし上がり、同国の音楽シーンを牽引したシンガー、マハムド・アハメドの97年発表作。“エチオピアのオーティス・レディング”とも呼ばれる歌声もさることながら、ミディアム・テンポでの粘りのあるバンド・グルーヴが独自のファンクネスを放つ。エチオ・ポップの魅力をたっぷりと詰め込んだソウルフルな作品だ。
歌とホーン・セクションのインタープレイ!
マハムド・アハメドは、エチオピア・アディスアベバ出身のとても有名な歌手だ。彼はアディスアベバに自身が経営する大きなレコード屋を所有していて、自分のカセットテープやCDを販売しているよ。
このアルバムがリリースされたのは1997年のはずだけど、80年代に録音されたものだと思う。彼はRoha Bandを始めとした多くのバンドとたくさんの録音をしているけれども、このアルバムではそういったバンドとの共演はしていないはずだね。
聴いてみれば凄まじいグルーヴに満ちあふれているのがよくわかると思う。すべてが6/6でプレイされていて、アクセントが1拍目と4拍目に置かれているんだ。実に興味深いよ。ベース・ラインはとてもメロディックで、シンコペーションしている。ギターも入っているけれども、達人級のリズム・プレイばかりさ。
そして、リード・シンガーのマハムドとツイン・テナー・サックス擁するホーン・セクションによるインタープレイが一番の聴きどころだね。なんとなく、グラディス・ナイト&ザ・ピップスのアルバム『Gladys Knight and the Pips』(65年)にちょっと似たところがあるかな? 『Gladys Knight and the Pips』って、グラディスが何か放つと、それに対してピップスの演奏が呼応してくる感じでさ。そのバイブスに共通するものを感じるね。
マハムドのこのアルバムでも、彼が歌うと2つのテナー・サックスがマハムドの節をくり返すように反応しているんだ。全体のアレンジもかなり突き詰められている印象だよ。
レコーディングのクオリティもいい感じで、極端にハイファイなサウンドではないけどチープで悪いものではない。何より面白いのは、全体的にクランチーでエッジが効いているんだ。ベースとドラムもバシバシ叩いてくる感じでね。アフリカならではの陶酔感もあるし、僕のお気に入りのアルバムさ。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。