現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回のアルバムは、ファンク・バンド=パーラメントの『ファンケンテレキーVS.プラシーボ・シンドローム』。
文=マーク・スピアー、久保木靖(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年5月号より転載したものです。
誰一人としてカチっとハマったプレイをしようとしていない。
今回は誰もが知るパーラメントの作品をチョイスしたよ。僕が初めて行ったコンサートがフェイス・ノー・モアだったのは以前の回(2022年3月号)でも言ったけど、ほぼ同時期に観に行ったのが実はパーラメント/ファンカデリックのショーだったんだ。
音楽に触れ始めた頃の僕が、まったくカラーの違う2つのバンドを体験したわけさ。大きな影響を与えてくれたよ。フェイス・ノー・モアのショーにも「なんてロックなんだ!」と感動したけれど、パーラメント/ファンカデリックのショーを観て「僕はこういうバンドに入りたいんだ!」って思ったんだ。実に刺激的だった。
それで、このアルバムはたぶん、僕が初めて聴いた彼らのレコードだ。当時の僕はベースをプレイしていたから、どうしてもベースばかり聴いていたね。「なんて最高なベース・ラインなんだ!」っていう感じで、愛聴していたよ。
ギター・プレイに関しても達人級だけど、どちらかと言うとサポートするようなリズミカルなプレイが詰まっているよ。そのおかげでドラム、ベース、ホーン・セクション、そしてジョージ・クリントンが目立つアルバムとなっている。もちろん、グレン・ゴインズ(g,vo)も少しは歌っているけれどね。
そして特筆すべきは、「リズムというもののとらえ方」だ。タイトさとルーズさが共存していて、かなり自由なプレイがされているんだよ。とにかく、誰一人として「カチっとハマったプレイをしよう」なんて意識していない。その場のグルーヴに任せて自由にプレイしている感じで、それが実に素晴らしいんだ。