新世代のシンガー・ソングライター/ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。 月一更新です。
デザイン=MdN
ずっと弾いていたくなるギター。
小さな部屋に自分を住ませてくれる。
時は遡って2022年12月。年末に向けて、街はどこか忙しなく、歩く道には冷たく静謐な風が吹き、所々、爽やかな光が差し込んでいました。
私は気になるギターをこの目で見ようと、衝動的に御茶ノ水に向かっている最中でした。徒歩で最寄り駅まで歩き、そのあと電車を乗り継ぎます。午後から人と会う予定があり、限られた時間での見物となるため、午前帯の早い時間に動きます。ドキドキ。
気になるギターとはギブソンのLG-1、アコギです。ネットで見つけ、気になっていました。
でもなぜここまで急に見に行こうとしているのかといいますと、明日はレコーディング。アコギの録音があります。私はメインでオベーションのエレアコを使っていて、それはそれは素敵で大好きなギターなのですが、録音となった際、違う音色のアコギも欲しいなと思っていたので、オベーションとは異なった、ボディが木で作られているギターに興味がありました。それ故の渇いたサウンドを欲していたのです。
ギブソンのLG-1は1964年製。ビンテージで、なかなか求めている条件に近い音が出るのでは、と思っていました。見た目も渋いサンバースト、形もとても好みです。
そうしてあれやこれや考えている間に、御茶ノ水駅に到着しました。駅を降りると、ずらり、並ぶ楽器店。私は御茶ノ水に来る度に、ひとつ強く思うことがあります。「楽器の築地だな」、そう思うのです。築地、または豊洲の魚市場、のような楽器市場感。御茶ノ水の、ブランドのようなものを感じたりします。
目的のギターのある店に着きました。1階を経て、2階へ。あらゆるギターが並ぶ中、わっ。見つけました。思っていたよりも、可愛らしく、年季による渋みや緊張感というよりは、本当に親しみやすい印象です。眺めているだけで音楽が鳴ってきそうです。
店員さんに声をかけ、いざ手に持ってみます。軽い! そして小ぶり、とても体に馴染みます。ピックが置いてある箱から自分の好きなピックを選び、ひとつコードを鳴らしてみます。渇いた、心地よい音が前に飛び出しました。もっと、バリンと固く、激鳴りサウンドかと思っていたのですが、音に甘さのある、柔らかい、ですが渇いた良いサウンドです。
コードや弾く位置によって印象が異なり、テンション・コードはボディのサイズ感に合った音量が、愛おしく響きます。EとGがスウィート・スポットで、様々なコードの中でもダイナミックに、ボリューミーに気持ちよく鳴ってくれます。それが気持ちよくて、カントリー、フォーク、ブルース的なフレーズを無意識に弾いていました。どんな場所でも、音のバランスが良く、5〜6弦のローはしっかり、3〜4弦のミッドはまろやかに、1〜2弦のハイは綺麗に、どの音の帯域も、比較的同じ音量感で鳴ってくれます。
弾けば弾くほど馴染み、ずっと弾いていたくなるギター。木の鳴り、小さな部屋感が強いです。自分を住ませてくれる。隣にずっと置いておきたいなんて、考えている頃には、私は購入を決意しているのでした。買うことを申し出、銀行に直行します。お金を下ろし、急いでまた店内へ。ギターを買った時のワクワク感。そして少しの焦り。ギター・ケースを片手に、人に会いにゆきます。2022年最後の最高の買い物でした。
新しいギターを買うと、自分の創作意欲も心機一転、マシマシになります。ギターから受けるインスピレーションは絶え間なく、弾けば弾くほど湧水のようにフレーズが出てきます。特に今回購入したLG-1には、異常な手に取りやすさとは裏腹な、サウンドの「説得力」があり、その説得力に支えられて、作る楽曲も自然と地に足のついたもの、かつ伸び伸びとしたものとなっていきます。これから長く、楽曲作りやレコーディングを共にするでしょう。
買った翌日のレコーディングは、「My Beautiful Life」という曲でした。いつもの自分のアコギ・サウンドとは違う、LG-1ならではの音が聴けます。是非聴いてみて下さい。マイクとLG-1の相性もたくさん試していきたいですね。
著者プロフィール
崎山蒼志
さきやま・そうし。2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、一躍話題に。独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。