新世代のシンガー・ソングライター/ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。 月一更新です。
デザイン=MdN
“名前をつける”というのは、とても難しい。
日々、様々なギターを目にしたり触れている中で、時々、そのギターの名前ひとつひとつの由来を知りたくなる瞬間があります。
ギターの名前の由来には、人物名、また製作者や会社のそのギターに対する音や見た目のイメージなどが挙げられると思います。例えばフェンダーのストラトキャスターの由来は、成層圏という意味の「Stratosphere」と、ラジオやテレビのアナウンサー、出演者といった意味の「Broadcaster」がかけ合わさった造語、になるそうです。1954年当時、アメリカでは宇宙開発が盛んであったことから、先進的なイメージが名前の由来にあるようで、「キャスター」の部分は、テレキャスターから受け継がれました。そう考えると改めて、なんだかとてもロマンティックで、カッコいい名前ですね。私は宇宙(ここでは成層圏ですが)とギター、どちらも大好きなので、胸がキュンキュンします。なんだか成層圏一体にストラトキャスターの音が響き渡りそうです。
ギターに関わらず名前の由来を調べることは、こうしてその当時の歴史的背景そのものに接近する感覚もあって、面白いですね。
ギブソンのレス・ポールの名前の由来は、1952年にギブソン社とレス・ポール氏が共同製作したギターであるから、ということは有名ですよね。同じくギブソン、私の愛用する「SG」は、「ソリッド・ギター」の意……! なかなかにストレートなネーミング、最高です。レス・ポールから派生した、まったく新しい新型モデルとして、名もレス・ポールのまま発売されたのですが、当の本人がこれは自分のシグネチャーではないとクレームをつけたことから、SGと名付けられたという経緯もなかなかに興味深いです。最初からは予期せぬ経緯で、名は体を表すギターとなったわけですね。
こうなってきますと、そのギターの会社名の由来にも興味が湧いてきます。自分が大好きなメーカーである、ダンエレクトロ。創設者の姓「Daniel」の「Dan」と、電気の「electro」を組み合わせた造語だそうです。可愛い名前、シンプルで素敵です。ダンエレクトロのギターはヘッドに縦書きで「Danelectro」と表記されていて、そこも本当に大好きですね。エピフォンなんかもとても素敵な名前の由来です。創業者であるアナスタシオス・スタトポウロさんの息子、エパミノンバスさんのあだ名の「エピ」にギリシャ語の「音」である「phone」を組み合わせた造語だそうです。エピさんの音。〇〇おばさんのパン。みたいな、絵本のタイトルの様にも思え、心温まります。自分も次次回作くらいのアルバムは、蒼志のあだ名である「そうちゃん」の「そう」と組み合わせて、『souphone』というタイトルにしようかな、なんて思いました。うーん……?、要検討です。
楽器やメーカー名とはちょっと違うのかもしれませんが、楽曲やバンド名などの「名前をつける」というのは、自分にとってとても難しい行為です。ぽっと浮かぶ時もありますが、いつもいつも考え込むものです。今回ギターの名前、メーカー名を調べてみて、どれもしっくりくるネーミングばかりに思いました。当時は不本意だったり、これどうなのかな、など悩み込んで名付けた名前もあったのかもしれませんが、時の流れと言いますか、工事が終わったばかりの山道は真新しいアスファルトやガードレールと有機的な森林が見事に溶け合っていませんが、段々と時を経ていくことで、真っ白なガードレールは褪色し、アスファルトは部分的に苔むしていたり、馴染み合っていく。そんな具合で名と体も徐々にすり寄って、しっくりくる形になっていくのかな、なんて考えました。まったく一概には言えないのですが。
長くなってしまいましたが、それにしても、シンプルな由来の名前って本当に素敵ですね。その中で、個人的にはストラトキャスターの由来が最も胸熱でありました(ほかに比べ、あんまりシンプルな由来には思えませんが)。機能性、ルックスなど、惹かれるところだらけですが、名前の由来もそんなに素敵だったなんて…。『souphone』の制作期間までには、ゲットしたいものです。
著者プロフィール
崎山蒼志
さきやま・そうし。2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、一躍話題に。独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。