今回のテーマは「ドミナント・モーション」です。
こうした用語に苦手意識を持つ人もいるかもしれませんが、ここではギター・コードのG7とCを例にしてシンプルに説明します。読み終わった時に「なーんだ、そんなことか!」と思っていただければラッキー!
文・図版作成=ギター・マガジン編集部
ドミナント・モーションとは
まずドミナント・モーションという用語の意味を、いつものように『ハンディ版 音楽用語事典』(現在は絶版)から引用します。
専門用語だらけですし、最初はまったく理解できなくてもかまいません。でもざっと目を通して下さい。赤い字で強調した部分は、あとでわかりやすく説明します。
ドミナント・モーション【Dominant motion】
ドミナント7thコードは、トライトーン(三全音)に基づく不安定な性格を持つが、この不安定さを解消するための他のコードへの進行をドミナント・モーションという。トニック・コード(主和音)への解決がその代表とされ(V7-I)、ほかには、ドミナント7thコードどうしの連結(V7 of V)や、マイナー7thコードへの進行(V7 of II)、さらにこれらの代理和音への応用などがあげられる(♭II7-I、V7-IIIm7)。ドミナント・モーションは以下のように分類される。
- メジャー・コード、マイナー・コードへのドミナント・モーション(V7 of I)
ドミナント7thコードの持つトライトーンの順次的反進行による解決と、強進行(完全5度下行または完全4度上行)によるルート・モーション(根音進行)とがドミナント終止(V7-I、V7-Im)を構成する。また終止形とは異なるが、サブドミナント・コード(IV、IVm)へのI7からのつながりもこの種のドミナント・モーションに加えられる。(以下略)
※実際の本では、「1:メジャー・コード、マイナー・コードへのドミナント・モーション(V7 of I)」に続けてさらに4つの項目が書かれていますが、ここでは省略しました。
この用語解説のうち、特にポイントとなる部分を、ギタリストにもわかりやすいように噛み砕いて説明してみます。
まず次の図を見て下さい。これはC-F-G7-Cという単純なコード進行です。Cのキーのダイアトニック・コードのうち、C(トニック)とF(サブドミナント)とG7(ドミナント)だけが使われています。この進行のうち、3つめのG7から4つめのCへの動きがドミナント・モーションと呼ばれるものです。
なおドミナント・モーションは、上の図にあるとおり湾曲した矢印で表記されます。
このコード進行を題材にしながら、『ハンディ版 音楽用語事典』の解説文を少しずつ読み解いていきましょう。
ドミナント7thコードは、トライトーン(三全音)に基づく不安定な性格を持つ
この文の中のドミナント7thコードとは、先ほどの図のコード進行でいえばG7のことです。G7はCのキーにおけるドミナント・コードですし、なおかつ7thコードなので、ドミナント7thコードというわけです。ちなみにCのキーにおけるG(トライアド)もドミナントではありますが、7thコードではないので、ドミナント7thではありません。
次にトライトーン(三全音)とは、全音3つ分の音程のことです。言い換えれば増4度です。トライトーンはギターの指板上では次の形になります。
先ほどのG7のフォームのどこにトライトーンがあるかというと、それは2弦と1弦にあります。
このトライトーン(三全音/増4度)は、かなり不協和なハーモニーとされています。試しにG7の2弦と1弦の2本だけを弾いてみて下さい。不安定な感じがすると思います。
こうした不協和なハーモニーを含むため、ドミナント7thコードは不安定な性格を持つわけです。
トニック・コード(主和音)への解決がその代表
この文の中のトニック・コード(主和音)とは、先のコード進行ではCのことです。またそこへの「解決」とは、不安定なG7から安定感のあるCに進むこと、を意味します。
ドミナント7thコードの持つトライトーンの順次的反進行による解決
順次的反進行とは、順次進行でありなおかつ反進行であるということです。順次進行とは、ある音がとなりの音(±2度)に進むこと。反進行とは、2つの音のうち1つが高い方に移動し、もう1つは低い方に移動することです。
「トライトーンの順次的反進行による解決」については次の図でまとめて説明します。
まず、G7においては、コード構成音の中の3(=2弦開放)と♭7(=1弦1フレット)がトライトーンを構成しています。Cにおいては1(=2弦1フレット)と3(=1弦開放)が長3度のハーモニーを構成しています。
そしてG7からCへ進行する時、2弦は半音上がり、1弦は半音下がります。どちらも半音の移動なので「順次進行」です。また片方が半音上がり、もう片方は半音下がるので「反進行」です。両方あわせて「順次的反進行」というわけです。
そしてここで特に重要なのは、G7の持つ不安定なトライトーンが、Cにおいては長3度という安定したハーモニーに解決する、ということです。
試しにG7→Cを、2弦と1弦の2本だけで弾いてみて下さい。それだけでも不安定から安定に向かう感覚が味わえると思います(人によってはそう感じない方もいるかもしれませんが)。
強進行(完全5度下行または完全4度上行)によるルート・モーション(根音進行)
ここでは「強進行」という用語はスルーして、カッコ内の「完全5度下行」と「完全4度上行」のみに注目していただければOKです。
ギターの指板上で、完全5度は次の形となります。この形で、高いほうの弦を弾いてから低いほうの弦を弾くと、完全5度下行したことになります。
一方完全4度は、次の形になります。この形で、低いほうの弦を弾いてから高いほうの弦を弾くと、完全4度上行したことになります。
先ほどのコード進行では、G7のルートは6弦3フレットにあり、Cのルートは5弦3フレットにあります。よってG7からCへ進行すると、ルートの動き(ルート・モーション)は、完全4度上行となります。
参考までに、ハイ・ポジションでのG7→Cも見てみましょう。この場合のルートの動きは、完全5度下行となります。
そしてこのルートの完全5度下行と完全4度上行は、いずれも最も強く、なおかつ安定した進行感を持つ、と言われています。
……以上で、ドミナント7thコード、トニック・コード、トライトーン、解決、完全5度下行、完全4度上行といった用語の意味は、ほぼおわかりいただけたかと思います。
ドミナント・モーションが強力な進行感を持つ2つの理由
さて、ドミナント・モーションは一般的に「強力な進行感を持つ」と言われています。理由としては以下の2つが挙げられます。
- 完全5度下行または完全4度上行という力強い進行でルートが動くから。
- 不安定なトライトーンを含むドミナント7thコードが、安定したトニック・コードに解決するから。
この2つが揃うと、不安定から安定への強力な進行感を持つ「ドミナント・モーション」が生まれるわけです。あるいは、この2つの条件が揃ったものを「ドミナント・モーション」と呼ぶ、と言ったほうがよいでしょうか。
ちなみに、G→Cというコード進行は「ドミナント→トニック」ですが、Gにはトライトーンが含まれないため、厳密にはドミナント・モーションではなく、またその進行感はやや弱いものとなります。
またBm7(♭5)→Cというコード進行も「ドミナント(の代理和音)→トニック」ですし、なおかつBm7(♭5)にはトライトーンも含まれていますが、ルートの進行が完全5度下行でも完全4度上行でもないため、これもドミナント・モーションとは見なされないことが多いようです。
なお、ここに書いたことがドミナント・モーションのすべて、ではありません。ここでは実際、『ハンディ版 音楽用語事典』から引用した文章のうちの半分程度しか説明できていませんし、さらにもっと深い世界があります。興味を持った方はぜひ音楽理論書などで続きを調べて下さい。
色々なキーにおけるドミナント・モーション
最後に実用的なものとして、色々なキーのドミナント・モーションを挙げておきます。ドミナント7thにおけるトライトーンはピンク色、トニックにおける長3度は青い色で描きました。セブンス・コードのどこにトライトーンがあるかを意識しつつ弾いてみると、慣れ親しんだコードも、これまでとは少し違って見えてくるかもしれません。
※ポジションによっては、トライトーンの片方の音がその半音上や下ではなく、その1オクターブ違いの音に跳びますが、べつに問題ではありません。
次回は「セカンダリー・ドミナント」をテーマにします。
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