個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今回はスプロのマルティニークをご紹介! 1960年代のヴァルコ社が全面に押し出していた“近未来=流線形のレゾグラス・ボディ”を採用した、アイコニックな1本だ。現在も再生産されているこのモデルだが、当時ならではのビザールな仕様に迫っていきたい。
文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大
Supro 1593V Martinique
実は3ピックアップ仕様なんです!
スプロといえば、ジミー・ペイジが同社製のアンプを愛用していたことでも知られているブランド。しかし、現在もアンプ、エフェクター、ギターが生産されているが、これらは2014年に復刻されたあとの話である。もともとは1935年に登場したナショナル・ドブロ社が所有するひとつのブランドであり、その後の親会社となるヴァルコ社が倒産した1968年に一度なくなった存在だ。
スプロ誕生の流れについては、以前にこの週刊ビザールで紹介したナショナルのグレンウッド95の記事にを記載しているので、ぜひそちらを参照してほしい。ここでナショナル製ギターと本器を見比べてみると、同じ会社が手がけているこの2本、やはり似た雰囲気を持っているのに気づくだろう。
カリブ海に浮かぶフランスの島名を名前に冠したこのマルティニークは、グレンウッド95と同様、中空のレゾグラス(FRP樹脂=繊維強化プラスティック)を採用したボディ。ヴァルコは上位機種にこのレゾグラスを使い、独自性と先進性をアピールしていた。そのため、比較的安価なラインナップという位置付けのスプロではあったが、本器は250ドルと少々お高め。ちなみに、当時(写真の個体は1963年製)の“最先端の象徴”といえば“宇宙”である。近未来的な流線形のボディのフィニッシュ名は“Space-Age=宇宙時代アークティック・ホワイト”と名づけられた。
ほかのデュアル・トーンやサハラのボディ・ラインよりは、ひと回り大型のボディ(幅15.5インチ)で、このあたりも最高ラインという意識がうかがえる。
さて、本器最大の特徴といえば、そのコントロール類にある。ボディ6弦側に配置されたノブは、ネック側からフロント・ピックアップのボリューム、トーン、リア・ピックアップのボリューム、トーンというのはわかるだろう。では、ブリッジ横に付けられたふたつのノブは一体何か? 実はこれもボリュームとトーン・コントロールで、操作するのは“ブリッジ・トーン・ユニット”と名付けられたブリッジ下にあるピックアップ。
このピックアップはヴァルコの“シルバー・サウンド・ピックアップ”と呼ばれるもので、ブリッジから下に伸びた金属ロッドが磁力を帯びており、下のコイルにインサートされて弦振動を電気信号に変換するという、レコード・プレーヤーのMM(ムービング・マグネット)式カートリッジと同じ仕組みである。当時のカタログでは“アコースティック・アーチトップ・ギターの特徴を正確に再現する”と謳われていた。
ブリッジ・トーン・ユニットはボリューム・ツマミを回し切るとオフになる仕様のため、ピックアップ・セレクターは通常どおりフロント/ミックス/リアの3ウェイ。これらとマスター・ボリュームで、多彩なトーンが得られる。
現在もこのマルティニークは復刻生産されているが、ボディはレゾグラスではなく、マホガニーのくり抜きで、ブリッジ・トーン・ユニットにあたる部分にはピエゾ・ピックアップを採用。サウンド的にも現代的になっているといえる。
なお、モデル番号1593のあとの“V”は“ビブラート”を示し、本器にはビグスビーB5ユニットが搭載されている。