実験的な改造が施された、フランク・ザッパが奏でるサンバーストのレス・ポール・カスタム 実験的な改造が施された、フランク・ザッパが奏でるサンバーストのレス・ポール・カスタム

実験的な改造が施された、フランク・ザッパが奏でるサンバーストのレス・ポール・カスタム

鬼才フランク・ザッパが使ったレス・ポール・カスタムは、多くの改造が彼自身の手によって施されている。弾き手と同様、計り知れない魅力を持つチェリー・サンバーストの1本について、深く探っていこう。

文=細川真平 Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

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“黙ってギターを弾いてくれ”

1970年代後半、筆者が中学生の時に買った、様々なギタリストが紹介されているムック本の中で、フランク・ザッパについてこう書かれていたことを今でも憶えている。

フランク・ザッパはギタリストしてもっと評価されるべきである

この言葉が筆者の頭を離れないのは、これがどの時代においても言えて、そして今でも言えると思うからだ。つまり、天才にして鬼才、異才にして異彩、異能にして異端のアーティストとして大きく評価されつつも、彼はギタリストとしてはまだまだ評価が低すぎる。もちろん評価されていないわけではないが、彼のプレイというのは、今受けている程度の評価など遥かに超越したものなのだ。

そのザッパが1981年にリリースしたアルバムに『Shut Up ‘n Play Yer Guitar』がある。邦題は『黙ってギターを弾いてくれ』だが、どちらかと言うと“黙っててめえのギターを弾きやがれ”というニュアンスかと思う。ほとんどの部分が彼のライブからギター・ソロを抜き出して構成された作品で、当初は3枚のレコードに分かれてそれぞれが通販され、後に3枚組のボックス・セットとして一般流通販売された。

本人がどう思っていたのか実際のところは不明だが、この作品でザッパは、自分のギタリストとしての凄さを知らしめたいという思いもあったのではないだろうか? そういう意味では、“黙って俺のギターを聴きやがれ”が本音だったような気もしてしまう。

このボックス・セットのジャケットに登場したのがチェリー・サンバースト・フィニッシュのレス・ポール・カスタムだ。具体的な製造年は不明だが、ブリッジがナッシュビル・チューン・オー・マティックであることから、1976年以降のものと思われる。

変態的な改造の数々

改造点は多々あるが、まずは『Shut Up ‘n Play Yer Guitar』のジャケット写真から見ていこう。

『Shut Up 'n Play Yer Guitar』ジャケット
『Shut Up ‘n Play Yer Guitar』

ペグが替えられているが、これはセルロイド製のバンジョー用のものに見える。また、リア・ピックアップとブリッジの間には、ギター・シンセサイザー用のピックアップを搭載。

そして、4つのコントロール・ノブの間にロータリー・スイッチとミニ・トグル・スイッチが付けられている。ロータリー・スイッチは、シングル・コイル/ハムバッカー/正位相/フェイズ・アウトの組み合わせから成る9種類の音色の中から1つを選ぶためのもの。ミニ・トグル・スイッチは、2基のピックアップの直列/並列を選ぶためのものだったようだ。

なかなかに複雑な仕組みだが、これはザッパ本人が改造を施したという。また、ピックアップは2基ともディマジオ“Super Distortion”に替えられていたようだ。

このあとわりと早い段階で(遅くとも1981年10月までに)、コントロール・ノブとロータリー・スイッチは、丸みのある円筒形にものに替わった。

また、ピックアップも交換されている。フロントPUは、ボビンの色がクリームのディマジオ“Super Distortion”から、セイモア・ダンカン製(モデル名不明)と思われるブラックのものに。

リアはクリーム色のままなのだが、ポール・ピースが片側に12個も並んでおり(言うまでもなく通常は6個)、計24個ものポール・ピースが並んだピックアップになっている。このピックアップの詳細は不明だが、セイモア・ダンカン“Parallel Axis”のプロトタイプの可能性はあるように思う(ポール・ピースの形状は違うが)。

フランク・ザッパのレス・ポール・カスタム
『Shut Up ‘n Play Yer Guitar』時の状態からピックアップが交換されたレス・ポール・カスタム(Photo by Gary Gershoff/Getty Images)

このリア・ピックアップはのちのどこかの段階でフロントと同じものに替えられ、またギター・シンセ用ピックアップも取りはずされた。

ここまでは見える部分での改造を紹介してきたが、見えない部分での改造もある。このギターには、ダン・アームストロングの“Green Ringer”の回路が内蔵されていた。これは、リング・モジュレーター兼アッパー・オクターバーという、かなりマニアックで、かつ使いどころがそう多いとは思えないエフェクターだ。それを足下に置くのではなく、ギターに内蔵してしまったことの意味はわからない。

こうして挙げていくと、このレス・ポール・カスタムがザッパ本人と同じぐらい変態に見えてくる。

そんなことを言っていると、天国から“黙って俺のギターを聴きやがれ”というザッパの怒鳴り声が聞こえてきそうだけれど。

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