1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。その逸話や魅力を、ギタリストとの物語をとおしてお届けする“ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集”。第2回はザ・フーのピート・タウンゼント!
文=細川真平 Photo by David Warner Ellis/Redferns
1968年〜1972年ごろに使用した、ギブソンSGスペシャル
筆者が中学生のとき(昭和50年代頭という古い話で恐縮だが)、ギター雑誌にザ・フーのピート・タウンゼントの紹介が載っていて、そこには“彼がすべてステージで破壊したため、イギリスにはギブソンSGはもう残っていない”と書かれていて、驚きながら感心(?)した覚えがある。もちろん与太話だが(昔のギター誌にはけっこう眉唾物の話が載っていたものだ)、妙に納得させてしまうところがさすがピートだし、かなりの数のSGを(ほかのギターもだが)彼が破壊したことも事実だ。
ピートが1968年〜1972年ごろにおもに使ったのは、ギブソンSGスペシャル。ギブソンSGは1961年にニュー・レス・ポールとして登場し、レス・ポール氏との契約が切れた1963年から“SG”の名称となった。これは、“ソリッド・ギター”を意味していた。SGには、カスタム、スタンダード、スペシャル、ジュニアの4モデルがある。簡単に言えば、カスタムは豪華仕様、スタンダードはその名のとおり標準機種、スペシャルはお買い得モデル、ジュニアはスチューデント・モデルだ。
SGスペシャルの特徴としては、まずP-90ピックアップを2基搭載している点。スタンダード以上はハムバッカー搭載で、カスタムの場合には3ピックアップ仕様も用意された。また、ジュニアはP-90を1基だけ搭載している。スペシャルのピックアップは1972年にはミニ・ハムバッカーに変更され、1976年にはフルサイズのハムとなるのだが、やはり当初の仕様であるP-90を2基搭載というのが最もスペシャルらしい。
ポジション・マークはドット・インレイで、スタンダード以上のモデルの台形に比べると簡素。しかし、指板にはバインディングが施されており、それの省かれたジュニアよりはやや高級感がある。また、カスタムのヘッドにはダイアモンド・インレイが、スタンダードにはクラウン・インレイが入るが、スペシャルとジュニアにはインレイがない。
このように、きれいにグレードが分けられているのだが、上位機種が下位機種よりも絶対的に優れているとは言い切れないところがギターの、というか楽器の面白いところだ。音も含めて、それぞれにそれぞれの特徴があり、個性があり、魅力があり、だからこそそれぞれを愛用するギタリストがいる。
ピートがスペシャルを選んだ理由
特にP-90ピックアップについては、もう少し詳しく述べておきたい。P-90は1946年にギブソンが開発したシングル・コイル・タイプのピックアップで、1952年にレス・ポールが登場したときにもこれが搭載されていた。
しかし、1956年にハムバッカーであるPAFが開発され、翌年からレス・ポール・スタンダード/カスタムにも搭載されることになった。
だが、レス・ポール・スペシャルとジュニアはP-90のままで、ニュー・レス・ポール/SG時代になってもそれは同じ。
つまり、そのころのギブソンとしては、PAFは上位モデル用、P-90は下位モデル用という位置付けだったに違いない。しかし、P-90はシングル・コイル・タイプでありながら、フェンダーのシングル・コイルよりも出力が大きくて音が太く、かつハムバッカーよりもキレがいいという、シングルとハムのいいとこ取りをしたかのような特徴があり、このピックアップを愛好・使用するギタリストはいまでも多い。
そうしたところから考えるに、ピートがスペシャルを選んだのも、P-90のサウンドに強く惹かれたからという面は強いのではないかと思う。もちろん、SG自体のデザインからくる弾きやすさや軽さに魅力を感じた部分もあっただろうが、ならばスタンダードでも良かったはずだから、やはり“あえてP-90搭載のスペシャル”だったのではないだろうか(カスタムやスタンダードを使用したこともあったが、それは珍しかった)。
ことあるごとに破壊されたSGスペシャル
1966年に借り物のSGスペシャルを使ったことのあるピートだったが、自分で購入したのは1968年7月、ニューヨークの有名楽器店(当時)、マニーズ・ミュージックでのこと。使用を始めたのは、同年終わりごろとされている。それ以降彼は、何十本ものSGスペシャルを入手し、何十本もを破壊した。
彼が使用(破壊)したのは当時の現行モデルで、チェリー・レッド・フィニッシュ、1966年から採用されたラージ・ピックガード(batwing=コウモリの羽とも呼ばれる)仕様のものが多かった。ローリング・ストーンズが1968年に製作した映像作品『The Rolling Stones Rock and Roll Circus』、1969年のウッドストック・フェスティバル、同年の第1回ワイト島フェスティバルなどで彼がこの仕様のSGスペシャルを使っていることが確認できる。
そうしたなかで、最もこのモデルの醍醐味を味わえる作品として、1970年のライブ・アルバム『Live At Leeds』を挙げておきたい。
アグレッシブに暴れ回る、野太いくせにシャープさもあるP-90の魅力を十分に感じていただけるはずだ。
また、1972〜1973年ごろにはポラリス・ホワイト・フィニッシュの、ラージ・ピックガード仕様とスモール・ピックガード仕様、両方のSGスペシャルも使った。
彼はそれを最後にSGスペシャルの使用をやめるのだが、その理由は現行モデルの潤沢な商品供給が途切れた時期があったためだという。それはつまり、破壊するギターが常に数多く必要だからほかのギターに乗り換えたというということだろうか?
そう考えると、イギリス中のSGを破壊したという話は、あながち嘘ではないのかもしれないと思えてきてしまう……。
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