結成25周年を迎えたASIAN KUNG-FU GENERATIONが、3年ぶり10作目のオリジナル・アルバム『プラネットフォークス』を完成させた。現代という時代を見つめ、“懸命に生きる人々の姿”という普遍的なテーマを描いた今作の制作を、喜多建介(g, vo)に振り返ってもらおう。
インタビュー=尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=山川哲矢
最初はサイケデリックなブリティッシュ・ロックのアルバムを作るつもりだった
バンドの結成25周年を迎えた今年、10枚目のフル・アルバムを発表しました。制作にあたり、メンバー間ではどのような話し合いをしましたか?
前作の『ホームタウン』(2018年)を作ったあとは、次の作品のことをあまり考えることなく新曲を作っていたのですが、だんだんと曲が揃い始めてきて。その後、2019年11月にロンドンとパリでライブをやった時に、“空いている日にレコーディングをしよう”となり、ロンドンのRAK Studios(以下、ラック・スタジオ)で、「ダイアローグ」と「触れたい 確かめたい(feat. 塩塚モエカ)」の2曲を録ったんです。
レコーディングをしてみると、ラック・スタジオの歴史を感じさせる雰囲気や録れた音をメンバー全員が気に入って。“ここでアルバムを作りたい”と強く思ったんです。でも残念ながらコロナ禍の影響で、ロンドンに行けるような状況ではなくなってしまって……。再びメンバー間で、アルバムについて話し合ったのは、2020年の10月頃でしたね。
当初は、“ラック・スタジオで録るならUKサイケみたいなアルバムを作りたいよね“なんて話をしながら盛り上がっていたんですけど、次第に“明確なコンセプトはなくてもいいんじゃないか”とか、“既発曲も入れよう”みたいな意見も出てきて、それらを踏まえて新作の方向性を定めていきました。
お話に出たようにザ・ストーン・ローゼズ(以下、ローゼズ)やオアシスのサイケデリックな世界観を彷彿とさせるナンバーも収録されていますね。
それはロンドンでやろうとしていたことの名残ではないかなと……(笑)。本当は、もっと“ブリティッシュ・ロック寄りのアルバムを作りたい”という気持ちもあったんですけどね。
というのも、過去にロサンゼルスにあるフー・ファイターズのスタジオで制作した時は“ここで録音するなら、やっぱりラウド・ロックだろう”という気持ちになり、そこから『Wonder Future』(2015年)という作品が生まれたりして。場所に合わせた曲作りはこれまでもやっていたので、ロンドンで録ることが決まった時も“僕らが好きなUKサイケ風の重厚感がある曲をやりたいね”という話をしていたんです。
素晴らしいオーバードライブ・サウンドでギターが鳴り響いているのも耳に残りました。音作りにはどのように取り組んだのですか?
今作のトピックの1つは、サウンド・アドバイザーに中村佳穂さんやUAさんのバンドでも活躍している西田修大君が入ってくれたことなんです。「エンパシー」、「De Arriba」、「フラワーズ」、「Gimme Hope」、「C’mon」、の5曲に参加してもらいました。本当は全曲依頼したかったんですけど、かなり忙しい方なので、実際のレコーディングでは、曲の完成目前にスタジオに来てもらって一緒に制作していった感じですね。
西田さんとは、どのようなやりとりがありましたか?
まずは僕らが思い描いているイメージを言葉で伝えたり、西田君にデモっぽい感じのギターを聴いてもらいながらやりとりを進めていきました。あと、印象に残っているのが、西田君もゴッチ(後藤正文)も僕が演奏している時に足下のエフェクターを色々といじるんです(笑)。そういう感じで、何の機材を使ったかを覚えられないくらい即興で作った音も収録されていますね。
そのような“即興の音作り”は、いつ頃から行なわれていたのでしょうか?
やり始めたのは……確か前作からですね。ゴッチが色んなエフェクターを集めるようになって、僕に新しく手に入れた機材を使わせたがるんですよ(笑)。ゴッチのスタジオに行くと、ビンテージ物のエフェクターを始め、 見たこともない機材がたくさん転がっていて。そこで薦められた機材を使って、いい方向に進んだこともたくさんありましたね。
なるほど。ちなみにギター・プレイに関して、後藤さんから喜多さんへ具体的なオーダーはあるのでしょうか?
具体的なアーティスト名や曲名が出てくることもありますし、時には凄く抽象的で、自分たちにしかわからないような言葉の時もありますね。
以前、後藤さんは“喜多さんのギターが、アジカンのアンサンブルの核で、楽曲の表情を担っている”とお話しされていました。喜多さんは、アジカンにおけるご自身のギターの役割をどのようにとらえていますか?
以前よりも“歌以外の部分を担っている”という自覚は強くなってきています。徐々に“メロディ・メーカー的なギターを奏でる”という意識に変化してきているように思いますね。メンバーからも“前に出ろ!”と言われる機会が増えましたし、それは言い換えると、“もっと自分に自信を持て”という自分へのメッセージでもあると感じています。
これまでの数年は、どんなにメンバーから背中を押されても、イマイチ乗り気になれない瞬間があったんです。でも最近は、徐々に自分の心も追い付いてきていて、前向きな気持ちに変わりつつありますね。
三船君の無国籍な世界観から多くの刺激を受けた
今作に収録されている「You To You(feat. ROTH BART BARON)」には、ROTH BART BARONの三船雅也さんが参加されています。曲の壮大な世界観や、独特の疾走感が印象に残りましたが、どのように制作されましたか?
「You To You」は、ベースの山ちゃん(山田貴洋)が作ったデモを元にして、山ちゃん、ドラムの(伊地知)潔、僕の3人である程度アレンジを作り上げたあと、ゴッチへデモを渡したんですけど、ゴッチが素晴らしいメロディを書いてきたので、凄く興奮した覚えがありますね。
イントロのアルペジオは、山ちゃんが作ってくれたフレーズを原型にしつつ“自分らしく弾きたい”という思いから、キーに対して4度の音が鳴り続けるという不思議なアレンジをゴリ押ししてやらせてもらいました(笑)。
普段から、デモ音源を聴いたあとに思い浮かんだアイディアからプレイを固めていくケースが多いのでしょうか?
そうですね。例えば、山ちゃんの作ったフレーズを生かしつつも、“ここはもうちょっと自分らしくやりたいな”っていう時は、自分の解釈で変えてみたり。
三船さんとの作業を通じて、喜多さんが刺激を受けたことはありましたか?
三船君が、想像の遥か上をいく素晴らしいデモ音源を送ってきたことに、まずはビックリしました。やっぱり凄く独特な世界観があって、どこか無国籍のような雰囲気になるんです。なので“アジカンらしいところがちゃんと残っているかな?”と不安を感じるくらい三船君の存在の大きさを感じました。これは嬉しい驚きでしたね。
この間のパシフィコ横浜でやったアジカンのライブにもゲスト出演してくれたんですけど、多くの刺激をもらいました。ゴッチと観に行かせてもらったロットの東京国際フォーラム公演(2022年4月)も、とにかく素晴らしかったですし。
昔よりもギターで無理をしなくなった
「解放区」は、重厚なアンサンブルを作り出すクランチ・トーンが印象的です。
レス・ポールの“甘くて生々しいクランチ・トーン”が録れましたね。実はこの曲は、今回のアルバムで最初のほうに作った曲なんです。レコーディングは2019年の初頭でした。
「エンパシー」では、クリーン・トーンやハモリのリフ・ワーク、オクターブ奏法、そしてリバーブで空間を埋めるアプローチなど、多彩な手法が用いられています。曲中の奏法やテクニックの使い方に関して、どのように決めているのですか?
基本的にパートごとにイメージした音やフレーズを割り振って決めていくことが多いですね。でも「エンパシー」に関しては、西田君が最初に参加してくれた曲だったこともあったので、プロデュースしてくれたシモリョー(下村亮介/the chef cooks me)と僕と西田君の3人であれこれ意見を交わしながら、色々な音を入れていきました。入れる/入れないのジャッジはシモリョーに委ねていたかな。そのほうが新しい感じになるかなと思って。
そういえば、デモにはギターの音だけが入っていなかったんですよ。シモリョーに理由を聞いたら“ギターのアレンジはぜひ建さんに考えてほしかったのであえて入れませんでした”と言われたので、僕も張り切ってアレンジを考えた記憶がありますね(笑)。
「Gimme Hope」は、ウェットなギター・サウンドが空間を埋めるように鳴らされていますね。トレモロ奏法で弾いている箇所は、オーケストラのようなアンサンブルに感じました。
この曲は音作りも含めて、色んなアプローチを試しました。最初、サビのギターにメジャー・セブンスとかを使ってオシャレな雰囲気にしたかったんですけど、ゴッチに“ダメだ”って言われまして(笑)。最終的にシンプルでストレートなアプローチに変わったんですけど、より“世界が広がるような音”に仕上がりましたね。
最近は“自分に合う演奏をしようと思うことが多い
「C’mon」もサイケデリックな世界観を持ったナンバーですが、どのように作っていったのですか?
オケはストレートなロックなんだけど、皮肉めいた歌詞が乗っていて、そのアンバランスさが“アジカンっぽくて面白いな”と。ちょっと古いロックンロールのような印象も受けたので“リズム隊はザ・ローリング・ストーンズみたいな感じで”というキーワードも出たりしていましたね。もっと“イナたいノリでやりたい”みたいな。で、最後にゴッチから“トーキング・モジュレーターを入れてみたい”というアイディアが出てきて、試してみたら採用になったという感じです。
これまでにトーキング・モジュレーターを試したことはあったのですか?
持っていましたけど、使ったことはなくて。なので ボン・ジョヴィやウィーザーの「Beverly Hills」とかを一通り聴いたあと、必死に練習してから臨みました。やってみるとけっこうクセになりますね(笑)。口の中に振動がワーッと入ってくる感じ……嫌いじゃなかったです。
今後のライブでも、演奏されるのでしょうか?
そうですね。どこかで演奏すると思うんですけど、「C’mon」がレギュラーのセットリストに入るかどうかがまだわからないんです。なのでライブを観に来る方は楽しみにしていて下さい(笑)。
UKのサイケな雰囲気を醸し出している「De Arriba」は、ローゼズ風のギター・リフが耳に残る1曲です。
そうですね。実は一度、雰囲気を大きく変えたアプローチを試してみたんですよ。ゴッチや西田君に聴いてもらったりして、色んなことを話し合う中で元のアレンジに戻したんです。そこからまたブラッシュアップを重ねて完成させた楽曲ですね。
そうだったんですね。大きく雰囲気を変えた時は、どのようなフレーズを試してみたのですか?
僕がよくやる手法なんですが、単音のメロディ・フレーズをハモらせたアレンジでしたね。収録されているバージョンとはまた雰囲気の違う楽曲に仕上がったんですよ。でも今では“元のアレンジに戻してよかったな”と思っています。
「触れたい 確かめたい」は、2本のギターのコンビネーションが見事でした。アジカンにおける2本のギターの重要性とは?
デビューしたばかりの頃は、バッキングのギターを分厚くしたくて何本もオーバーダビングしていたんですよ。でも時代によってトレンドの変化もあったりして、だんだんと音数を削ぎ落としたくなってきて。3枚目の『ファンクラブ』(2006年)で、ギター2本だけのシンプルなアンサンブルで聴かせるギターの雛形ができて。で、しばらくはそのスタイルでやっていたんですけど、ロサンゼルスで録った『Wonder Future』(2015年)でラウド・ロックを表現するために久々にギターのダビングを解禁したりしました。
最近は、曲によってやり方を決める感じです。曲ができてから、“ゴッチがこう弾いているから、こういうアプローチでいこう”って考えたりしています。ゴッチにフレーズを変えさせるというよりは、“自分が曲に一番合う演奏をしよう”というスタンスでフレーズを考えることが多いかもしれないですね。
2本のギターをシンプルに使いつつも、アプローチが多彩なので、アジカンのギター・ワークは色々な人が参考にしやすいなと改めて感じました。
ありがとうございます。ありがたいことに最近は“アジカンから音楽に入りました”っていう若手ギタリストと話す機会も多くて。それだけ僕らが歳をとったということでもあるんでしょうけど(笑)、そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいですね。
自分にとってレス・ポールが一番しっくりくる
「雨音」は、ディレイの残響が印象的でした。どのように弾いたのですか?
確かBOSSのDD-20を付点8分のセッティングで弾いていたと思います。WARPモードにすると、ディレイを踏んだ時に余韻が残るんですよ。ライブはそのセッティングで弾こうと思っています。思い返してみると、今作は全体的にディレイやリバーブといった空間系も、これまで以上に使いましたし、自分でエフェクトをかけながら録ることが多かったように思います。そういう意味でも、ギターで雰囲気を作っていく曲が多いかもしれないですね。
「再見」は、真空管のスタック・アンプとハムバッカーを組み合わせたリッチな歪みサウンドが印象的でした。
「再見」だけES-335を使ったんですよね。“合いそうだな”と思って、やってみたら見事にハマって。嬉しかった記憶がありますね。
使うギターは、どのように選んでいるのですか?
最初にイメージして“このギターかな?”と思ったものを使ってみて、合う/合わないを判断しながら決めていきます。
レコーディングで使用した中で、特に活躍した機材を挙げるとしたら?
メインのレス・ポールが一番活躍しましたね。あとは、ギター・テックの方が持っていた72年製のフェンダー・ストラトキャスターが凄く良くて、それをお借りしました。僕の持っているストラトより良い音だったのが悔しくて(笑)。今作ではけっこう色々なところで使わせてもらいました。「Gimme Hope」のサビでも、テックの方のテレキャスター・カスタムを使っています。「エンパシー」と「フラワーズ」は、西田君のジャズマスターで弾いたかな。
レス・ポールは、喜多さんのトレード・マークでもありますよね。
レス・ポールの音やサイズ感が、自分にとって一番しっくりくる。もう一体化し過ぎてよくわからなくなるくらいです(笑)。でも最近のライブでは、ストラトが合いそうな曲がありまして。まだステージで手にしたことがなかったので、先日のパシフィコ横浜のライブでは絶対に使おうと思ってたんですけど、たまたまレス・ポールに持ち替えたら、やっぱり馴染みがよくて(笑)。またストラト・デビューが遅くなっちゃいました。
喜多さんが、1人のギタリストとして突き詰めたいなと思っている点は、どのあたりでしょうか?
そうですね……今、パッと思いついたのは“良いクリーン・トーンを聴かせられるようになりたい”ってことかな。クリーン・トーンは本当に難しいので、永遠の課題です。やっぱり“素晴らしいクリーン・トーンでギターを聴かせられるプレイヤー”というものには憧れますから。
さて、今作の制作を振り返って、一言お願いします。
大きなコンセプトを立てずに作ったアルバムでしたけど、全体を通してまとまりのある作品に仕上がったと思っています。アルバムとしては過去最多の14曲というボリュームですが、不思議と長さは感じない。けっこう聴けちゃうアルバムなんじゃないかなと。
どの曲も、音の余韻がしっかりと収められているのも印象的でした。
僕らが大切にしていた点でもありますし、“今回のアルバムは余韻がいい”という話はメンバー間でも出ていましたね。
これから始まるツアーでライブを観に来る人に、ギター的な聴きどころを教えて下さい。
今回は、ギターでの雰囲気作りが重要な役割を担っていると思うので、その辺りもぜひ楽しみにして下さい。
LIVE INFORMATION
ASIAN KUNG-FU GENERATION
Tour 2022 “プラネットフォークス”
【SCHEDULE】
5月28日(土)/埼玉 三郷市文化会館 大ホール
5月29日(日)/埼玉 三郷市文化会館 大ホール
6月01日(水)/東京 東京国際フォーラム ホールA
6月04日(土)/広島 上野学園ホール
6月05日(日)/熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール
6月10日(金)/石川 本多の森ホール
6月12日(日)/静岡 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
6月17日(金)/愛知 愛知県芸術劇場 大ホール
6月21日(火)/神奈川 神奈川県民ホール 大ホール
6月26日(日)/香川 レクザムホール 大ホール
7月01日(金)/兵庫 神戸国際会館 こくさいホール
7月02日(土)/奈良 なら100年会館 大ホール
7月09日(土)/群馬 高崎 芸術劇場 大劇場
7月15日(金)/千葉 市川市文化会館 大ホール
7月23日(土)/東京 日比谷野外大音楽堂
9月30日(金)/宮城 仙台サンプラザホール
10月02日(日)/岩手 盛岡市民文化ホール 大ホール
10月08日(土)/栃木 宇都宮市文化会館 大ホール
10月15日(土)/北海道 カナモトホール
10月19日(水)/大阪 グランキューブ大阪 メインホール
10月20日(木)/大阪 グランキューブ大阪 メインホール
10月23日(日)/福岡 福岡サンパレス ホテル&ホール
10月27日(木)/神奈川 横浜アリーナ
11月19日(土)/沖縄 那覇文化芸術劇場なはーと
全席指定席:7,300円(税込)※3歳以上チケット必要
[高校生以下対象 学割あり]※当日学生証or証明書持参で1,500円キャッシュバック
※チケット購入の詳細は特設ページまで
http://www.akglive.com/tour2022/
作品データ
『プラネットフォークス』
ASIAN KUNG-FU GENERATION
Ki/oon Music/KSCL-3367/2022年3月30日リリース
―Track List―
01. You To You(feat. ROTH BART BARON)
02. 解放区
03. Dororo
04. エンパシー
05. ダイアローグ
06. De Arriba
07. フラワーズ
08. 星の夜、ひかりの街(feat. Rachel & OMSB)
09. 触れたい 確かめたい(feat. 塩塚モエカ)
10. 雨音
11. Gimme Hope
12. C’mon
13. 再見
14. Be Alright
―Guitarists―
喜多建介、後藤正文