2007年の創立から15年が経過し、英国を代表するギター・アンプ・ブランドとなりつつあるブラックスター(Blackstar Amplification)。“アンプを次のレベルまで押し上げたい”という目標を掲げてマーシャルから独立した4人の創設メンバーの1人であり、現在同社の社長を務めるのがイアン・ロビンソン氏だ。今回は彼にブランドの歩みを振り返ってもらいながら、今後の展望やギター・アンプへの需要がどのように変化していくかなどの考えを聞かせてもらった。
インタビュー=福崎敬太 協力=コルグ
レコードを聴くことで私の耳は育ってきました
まずはあなたのことを身近に感じてもらいたいので、ギタリストとしての質問をさせて下さい。キッズだった頃、どのようなギター・プレイヤーに憧れていましたか?
父はジャズ・ミュージシャンで、10歳上の兄はロック・バンドのギタリストという、音楽一家で育ったんです。特に兄は“お前はこれを聴かなきゃダメだ!”と言ってオススメの音楽を教えてくれました(笑)。ブラック・サバスやバッド・カンパニーに影響を受けましたし、ヴァン・ヘイレンの1stアルバム(『Van Halen』/1978年)はお気に入りでした。あとはライオットも好きでしたし、クイーンのブライアン・メイもギターを始めてすぐに好きになりましたね。
そして13歳の頃にドイツのヘヴィメタル・バンドのアクセプトを聴いて衝撃を受けて……その次がイングヴェイです。歳を重ねてからアリス・イン・チェインズなども聴くようになりましたが、若い頃はアクセプトのウルフ・ホフマンとドッケンのジョージ・リンチが私のヒーローたちでした。レコードに合わせて一日中シュレッドしまくっていましたよ(笑)。
(笑)。当時の音楽体験で、今の仕事に活かされていることはありますか?
レコードを聴くことですね。私の耳はそれによって育ってきました。私は12歳から18歳までの間に何千時間も費やして、音楽を聴きながらギターをプレイしてきました。YouTubeなどもなかったので、そのギタリストを理解するためには何度も聴くしか方法がなかったのです。でも、そのおかげで良い耳を持てたと思っています。
そうやってしっかりと“聴く”トレーニングを私はしてきましたが、最近ではあまりにも手軽になり過ぎてしまったからなのか、多くの人が“聴く”トレーニングをやっているとは思えません。私が聴くことを重視していることにはこういった背景があるのです。
音楽はいくつものレイヤーが重なっていますが、私たち仕事では個別のサウンドを聴かなくてはなりません。特にギター・サウンドはかなり複雑な波形をしていて、様々な帯域で起こるレスポンスに耳を傾ける必要があります。私はエンジニアリングの道を歩んできたため、例えば低音を聴いた際には、回路やアルゴリズムのどういった部分でそれが生まれているのかを特定することができます。
これらはすべてレコードを聴いてプレイの仕方を学び、耳をトレーニングしたことから始まっています。すなわちジャーマン・メタルを聴いて育ったことに、すべてが結びついているとも言えるのでしょうね(笑)。
今もバンドを続けているそうですが、どういった音楽をやっているのですか?
私はずっとオリジナル曲でバンドをやってきたのですが、最近では職場の仲間と組んだインディー・ロックのカバー・バンドをやっています。オアシスやザ・スミス、ステレオフォニックス、そしてボブ・モールドも1曲だけやっています。ボブは現在の私のフェイバリットなギタリストの1人で、彼の曲は私たちがプレイしている中で最もクールでしょうね。私はリズム・ギターを担当しているので、かなり簡単なことをプレイしていますが(笑)。
所有しているお気に入りのギターを教えて下さい。
80年代に日本で作られたフェンダーの黒いストラトキャスターです。私がマーシャルで働いていた頃に、ほかのエンジニアから75ポンドで購入したものなんです。ほぼタダみたいな値段で購入したのですが、とても美しいギターですよ。
ボディはとても軽くて、おそらくスワンプアッシュじゃないかと思っています。ピックアップやトレモロ・ユニットはオリジナルの日本製フェンダーのものですね。ペイントがところどころ剥がれていて、多くの人が“これは1万ドルくらいのものじゃないのか?”と言うくらい、ビンテージっぽいルックスです。実際は安く手に入れたものですが、私には1万ドルくらいの価値がある美しいギターですね。
すべての異なるテクノロジーを融合させることにこそ、未来の形があると考えているのです
さて、2007年のブラックスターの立ち上げから、昨年2022年に15周年を迎えました。マーシャルから独立したあなた、ブルース・キアー、ポール・ヘイホー、リチャード・フロストの4人が設立当初に思い描いていたものは、すでに実現できましたか?
グッドなポイントです。ある意味でイエスですね。私たちは“最高なサウンドのギター・アンプを作る!”という情熱を持ってビジネスを始め、長年やってきてテクノロジーも向上していく中でそれができると確信し、私たちの製品のすべてが特別なものとなりました。しかし音楽と同様に探求の終わりはなく、常に新たな挑戦がやってきます。
また、私がまだ満足していないことが、ただ1つだけあります。我々はアメイジングなトラディショナル・サウンドを作ることはできていますが、まだ“新しい音”を作れていないことです。常に新しいことには挑戦しているので、将来的にその積み重ねによって“新しい音”を作り出せればと願っています。
ミュージシャンが常にベストを尽くす一方で“次に書く曲こそがベストなものになるはずだ!”と考えるように、私たちも次の製品をベストなものにさせようと常に努力しています。
ブラックスターはこの15年で、幅広いニーズに応える世界的な知名度を持つ企業に成長しました。この成長には良いアンプを作るだけでなく、ギタリストのニーズを正確にとらえることが重要だったと思いますが、市場の分析はどのように行なっているのですか?
最も大事なのはギタリストたちと話すことで、さらには世界中の意見を聞くことです。もちろん日本も大切な場所だと考えています。プレイヤーたちと“最近どうしているか? 何か問題を抱えていないか? 何がうまくいっているか?”といった意見交換することから、アイディアが生まれるんです。
また、時には製品とまったく関係のない話題からアイディアが浮かんでくることもあります。プレイヤーたちと会話をしているだけで十分面白いのですが、そこからベストな発想を得ることにつながっているんです。
私たちは会社として、製作プロセスの早い段階で何人ものギタリストたちと1対1のインタビューを頻繁に行なうようになりました。そして我々が“Human Centered Design(=人を中心としたデザイン)”と呼んでいるコンセプトがあって、これは機材を使う人を観察して、その環境での限界や足りないものを洗い出す作業です。
簡単な話に聞こえるかもしれませんが、これはかなりパワフルなやり方なのです。それは、意見交換を行なったギタリストに、設計を終えるまでずっと一緒に付き合ってもらうことで実現します。質問をしたら次は最終製品を渡す、という従来のやり方とは大きく異なるものです。
もう1つ行なっていることがあって、私たちには世界中に50のディストリビューターがいます。私たちは彼らに“これはどう思う? 君の意見は?”と彼らを常に質問責めにしているんです。世界中のカスタマーやユーザーの力を借りて、私たちはマーケットで起こっていることの情報を得ています。イギリスとアメリカのマーケットは似ていても、日本は要求する内容や事情が異なる場合もありますから。世界中から少しでも多くの要求を集めて、製品の中に集約させているんです。
今後のアンプのニーズや可能性についてどう考えますか?
そこには2つの見方があると思います。まず1つ目として純粋主義者からの視点が存在し、トラディショナルなサウンドを求める人たちが、市場には常に一定の割合で存在します。当然、彼らを満足させるのが私たちの仕事の一部ですね。
しかしイノベーションを起こすことはさらに重要なことだと考えています。興味を抱いているのは、すべてのテクノロジーを導入させた製品を作ることです。
アンプを使わない現代のプレイヤーは、プラグインやマルチ・エフェクトを使っています。私たちは真空管技術、アナログ回路、デジタル技術など、すべての異なるテクノロジーを融合させることにこそ、未来の形があると考えているのです。例えば私たちの真空管アンプにはUSBアウトプットがあったり、CAB RIG(独自のスピーカー・シミュレーション技術)によってDAW環境での使用などが可能となり、そういった方向にも私たちは歩んでいきます。
トラディショナルな真空管アンプに対するリスペクトを持ちながらも、現在人々が必要としているコネクタビリティーやユーザビリティーを搭載させて発展させていきたいと考えています。
トーンのエキスパートとして私たちは新たな領域に踏み込んでいきます
近年のブラックスターの動きについても聞かせて下さい。ID:COREシリーズの進化は素晴らしいですね。特にCAB RIGは革新的なシステムだと思いますが、これはどのように実現にいたりましたか?
正直なところID:COREは当初から機能を多数搭載したものであったことから、かなり難しいものでした。デジタルなシステムは相当な数のプロセッシングを行なわなければならず、本当のチャレンジはプロセッサーに負荷をかけずに新たな機能を持たせることでした。
CAB RIGはIR(インパルス応答)に由来しているものの、単なるスナップショットIRではありません。IRを開発する際は1つのセッティングでレコーディングをしていくことになりますが、私たちはそれとは少し異なるやり方を選びました。時間や部屋に依存するモデリングを行なったのです。つまり、IRテクノロジーとモデリング・テクノロジーを組み合わせていて、よりフレキシブルなものとなっています。
またCAB RIGによるいくつかのシグナルをレコーディングしていても、位相による問題に直面することはありません。たくさんのIRを用いたマルチ・トラック・レコーディングでも、位相について頭を悩ませることはないでしょう。必要性があってプロセッサーの効率を上げることになりましたが、そのためのエレガントな解決策を私たちは編み出すことに成功したのです。
サード・パーティによるソリューションではなく、独自での開発にこだわった理由は?
おもな理由は、開発時にアクセス可能だった技術のクオリティに、私たちが満足できなかったからです。それに当初から、十分に価値のある、従来の方法では打破できなかったものを、自分たちで作り出せると考えていました。
多くの会社が“ライセンス化したソリューションを導入した”と謳っていますが、それはその会社がほかにどうやれば良いのか解決策を見出せなかったからです。しかし、私たちは自分たちでより良いやり方を見出したので、独自に開発することにしたのです。
Dept.10 Amped 1は発売以降、日本でも高い評価を受けています。VOICEコントロールは、ISF(アンプのキャラクターを無段階で調整する独自のコントロール)をベースにした3ウェイ・スイッチにしていますね。以前ブルース・キアーが“ISFコントロールはモデルごとに調整している”と言っていましたが、今回の3種(US/UK/FLAT)のサウンドの方向性を決めるのはかなり時間を要したのでは?
私たちはISFを愛していますし、これは現在でも私たちのシグネチャーと呼ぶべき機能です。しかしAmped 1は、どんなユーザーも“これは一体何なんだ?”と疑問を抱くことがないほどに非常にシンプルなものにさせたかったのです。すでにたくさんの機能があるので、こういった側面に関してはシンプルにさせたいと願っていました。そのため、一度決断を下してからは、ISFのコンセプトから距離を取ることにしました。
US/UKのチャンネルは互いにまったく異なる類のもので、USは何台かの素晴らしいオールドのフェンダー・ツインを元にしています。ただ、単純にコピーしたというのではなく、あのアンプにみられる優れた要素をすべて盛り込んだものとなっています。このセッティングでのトーン・スタック(トーン・コントロール回路)についてチェックしてもらえれば、これがパーフェクトなものだと理解してもらえることでしょう。
他社から様々なモデリング・テクノロジーが開発されていますが、トーン・スタックをしっかりと作ったものは中々ありません。しかし私たちは、パーフェクトでトラディショナルなトーン・スタックを有しています。
UKのセッティングについては元々クラスAプリアンプであることから、そういったプリアンプが持つグッドな要素のすべてに注目して調整をしていきました。時にはオリジナルのアンプでは目盛りが3~7の間では使えるのに、3以下もしくは7以上では使いものにならないなんてこともありました。そういった点も見つめ直して従来では上手く機能していなかった極端な点を排除し、ギタリストたちがサウンドを作りやすいものにしていきました。
このように、まずはシンプルにスイッチングさせるものにするという決断から、本格的でディープなものを作る作業へと入っていきました。
それでは最後に、ブラックスターの今後の展望について聞かせて下さい。
世界中のカスタマー、友人、ブラックスター愛好家にぜひ知ってもらいたいのは、私たちがより良い製品を世に送り出すためにはじっとしていられない集団だということです。日々私たちはイギリスで最高な製品を送り出すために、チーム一丸となって取り組んでいます。
イギリスには40人の従業員がいて、そのうちの半分ほどが商品開発を担当しています。毎日新製品に関するミーティングを行ない、新しいアイディアを議論したりカスタマーたちの声に耳を傾けています。より優れたギター・アンプやコネクテッド関連の製品を送り出しますが、それと同時に想像もしていなかったような製品をこれからの1年で出していきたいと思っていますので、私たちが進化し続けることをぜひ期待してほしいです。
トーンのエキスパートとして私たちは新たな領域に踏み込んでいきます。これはブラックスターとしてもかなりエキサイティングなものとなることでしょうね。
■Blackstar Amplification公式サイト
https://jp.blackstaramps.com/ja/