日本屈指のファンク・ギタリスト、竹内朋康(ex.SUPER BUTTER DOG/マボロシ/Dezille Brothers)が、今年4月に約10年ぶりのソロ・アルバム『BEAT BANG』をリリース! ジェフ・ベックから多大なインスピレーションを受けて制作されたギター・インスト作品で、“フュージョンの再構築”をテーマに完成させた全8曲を収録。レコーディングにはGakushi(k)、酒井太(b)、小林眞樹(b)、TANCO(b/HOMEGROWN)、大神田智彦(b)、永松瑛二(d)らが参加。彼らと“クリックなし”の一発録りで作り上げたという意欲作について、じっくりと話を聞いた。
取材・文=尾藤雅哉
メンバーのファンクネスを出してもらうだけで、曲が成立した。
まずはアルバム制作にいたったキッカケから教えて下さい。
コロナ禍の時、多くのミュージシャンが楽曲制作を宅録でやらざるを得ない状況になってしまったじゃないですか。僕も宅録で完成させた作品をTomoyastone名義でリリースしましたけど、このやり方にどこか限界を感じていて。というのも、どうしてもヒップホップ的な作り方になってしまうんです。もちろんカッコいい1ループや打ち込みのビートを軸に曲を作り込んでいくのは面白いんだけど、仲間とセッションしながら曲を生み出す音楽表現への欲求もどんどん強くなっていったんですよね。そんな時にジェフ・ベックの訃報を知って……。
竹内さんはジェフ・ベックから影響を受けてきたんですか?
実は中学生の時に一番ハマっていたのがジェフ・ベックだったので、改めて聴いてみたら“ええ!? こんなにもカッコよかったの!?”って、物凄く大きな衝撃を受けたんですよ。それで改めてドハマりしちゃって。よく聴いていたのは『Blow By Blow』(75年)、『Wired』(76年)、『There And Back』(80年)の3作なんですけど、僕としては“ジャズ・ファンクの最高峰”だと思ったんです。聴けば聴くほど……驚きの連続でした。そんな中から今回のアルバム作りのテーマである“フュージョンの再構築”というアイデアが出てきて。ジェフ・ベックと同じ編成のバンド・スタイルで、ストーリー性のある展開を取り入れた楽曲を表現したいと思ったんです。
アルバム制作にあたりイメージしていたものは?
アンサンブルの中心にシンセサイザーとギターを据えたインストゥルメンタル・アルバムにしようと考えていました。加えて、さっき話に出たジェフ・ベックの作品と同じく“ギター、ベース、ドラム、鍵盤というバンド編成でやる”というのは重要なコンセプトの1つでしたね。そこでこだわったのは、ピッチが合いすぎない楽器を使うこと。鍵盤に関しても最新のシンセを使うのではなくて、僕やバンド・メンバーが所有するアナログ・シンセやフェンダーのローズ・ピアノ、クラビネットをスタジオに持ち込んだんです。そういうアナログな楽器で演奏するほうが、音楽的なファンタジーが生まれると思ったんですよね。多少ピッチがズレていたっていいんですよ。そのズレがその日の演奏の味になるので。
カッティングやテーマ・フレーズなど複数のギターが絡み合う「Kick & Stroke」は、どのように作り込んでいったのですか?
まず最初にイントロのカッティング・リフができて、そこからアイデアを膨らませていきました。ざっくりと全体の構成や流れを作ったあと、エレピとリズム・ギター、ベース、ドラムだけでベーシック・トラックを“クリックなし”で一発録りして、そこにクラビネットやリード・ギターをダビングしていった感じです。今回、一緒にやったのが僕のことを理解してくれている仲の良いプレイヤーばかりだったので、どんな演奏をすれば僕が喜ぶかってことを熟知しているんですよ(笑)。なので、ただみんなのファンクネスを出してもらうだけで曲が成立したのは、凄く大きかったですね。
「The Boom」は、ミュート・トランペットのようなギター・フレーズが耳に残りました。
これは、歪み+トーキング・モジュレーターですね。中学生の頃から持っているトーク・ボックスを久々に引っ張り出して使いました。使った理由は……少し恥ずかしい話なんですけど、ジェフ・ベックの『Blow By Blow』に収録されている「She’s A Woman」でトーキング・モジュレーターを使ったフレーズが出てくるんです。それをちょっと真似してみたいなって思ったんですよね(笑)。
なるほど。続く「High Dive」の中盤で登場する金属的な歪みサウンドはどのように作ったのですか?
あれはLine 6のM9で作ったリング・モジュレーターです。エクスプレッション・ペダルをつないでやってみたら最初からあの音が出ていて、“もうこれでいいじゃん!”って感じでそのまま使いました(笑)。最近ではENDRECHERIの現場でもよく使っています。
そうなんですね。堂本剛さんから何か言われたりは?
いや、特に何も言われないけど……この音を使うとニヤッとしますね(笑)。
この「High Dive」に出てくる金属的な歪みサウンドもそうですが、「Breathing」の轟音のファズや「Butterfly」の不協和音など、強烈な個性を持ったサウンドを楽曲に取り入れた理由は?
派手な音を取り入れてみようと狙って録ったのではなく、たまたま録れてしまった音が面白かったので、そのまま曲に残したって感じが近いですね。というのも今回のアルバムは、有名なレコーディング・スタジオで著名なエンジニアの方とかしこまって作業するよりも、気が置けない仲間たちとゲラゲラ笑いながら遊ぶように作りたかったんです。
レコーディングを行なったスタジオは?
横浜の月桃荘スタジオってところなんですが、作品を手がけてくれたスタジオのレコーディング・エンジニアの足立壮一郎(PANICtracks)とも凄く仲が良いし、レコーディングに参加してくれたメンバーもよく知っているプレイヤーばかりだったから、さっきの話に出たような枠からハミ出るような大胆なアプローチができたんだと思います。レコーディング中はみんなでゲラゲラ笑いながら、“すげえ!”、“なんだこれ!?”みたいな瞬間ばかりだったんですよ(笑)。なので楽曲制作に関わるすべてのディスカッションが、普段の会話のまま行けたっていうか。そういう楽しい雰囲気の中でアルバムを完成させることができたのは、自分の中では凄く大きかったですね。
エンジニアの足立さんを含めたメンバー全員のグルーヴが合っていたと。
そうなんです。今回のレコーディングを通じて、そこが一番重要なんだなってことを改めて感じました。極端に言えば、良いアンサンブルがあれば録音マイクは1本か2本で事足りるんですよ。自分も50歳になって、やっとそういうレコーディングができるようになってきたのは良いことだなって思いますね。
素晴らしいアンサンブルがあれば
何も直さないのが一番良い。
スロー・ナンバーの「Breathing」のギターは指で弾いていますか?
そうなんです。この曲と「Shower Room」は指ですね。これもジェフ・ベックの影響です。個人的な印象として、指弾きは表現がよりソウルフルになるから、もともと好きだったんですよ。今後はギタリストとしてさらなる高みを目指すために、指弾きにはどんどん挑戦していきたいと思っています。なので最近では、ライブの時も指で弾くようになってきたんですよ。
そうなんですね。ほかにもギタリストとしてアプローチに変化してきたところはありますか?
最近は、ギター本体のボリュームを絞ってクリーンやクランチなどを作るようになりましたね。アンプはガッツリと歪んでいるんだけど、手元で音色をコントロールするというか。それはKenji Jammer(鈴木賢司)さんに教わりました。すっごく上手いんですよ。以前、一緒にライブをやった時に僕のアンプを使ってもらったんですけど、物凄く良い音を出していたから気になってアンプのツマミを見たんです。そしたら全部フルテンだったんですね。美しいクリーンから抜けの良い歪みまで、ギター本体のボリューム・コントロールとピッキングのダイナミズムで表現していて……それがきっかけで僕自身のギター・スタイルも変化していきました。
鍵盤とギターのツイン・リードが曲を牽引していく「Beat Bang」は、ライブで盛り上がるであろう楽曲だと感じました。
展開や構成を含めて、楽曲のストーリーをメンバー同士で把握できていたので、全員が一緒の気持ちで1つのグルーヴを作ることができました。覚えているのが、この曲を録り終わった時に“これはグラミー賞、獲ったでしょ!”なんて話も出ていましたね(笑)。僕がダビングでギター・ソロを弾いている時なんか、メンバーがガッツ・ポーズしていましたから。そんなハッピーなムードの中で曲を完成させることができて嬉しかったです。
「Water & Bubbles」はクールな1グルーヴをバックに、ファズ&トーキング・モジュレーター・サウンドのギターが炸裂したサイケデリックでファンキーなナンバーですね。
この曲は、本当に1テイクしか演奏していないですね。演奏が終わって“これ以上はないでしょ”って感じで、すぐに録り終わりました。仮に“念のために2回目やっとく?”って演奏したところで、“次はこうしてやろう”みたいな野心や欲が出てきて、演奏が変に固まっていくだけなんですよね。なので「Water & Bubbles」に関しては正真正銘の1stテイクが収録されています。やっぱり1stテイクに勝てるものはないんですよ。
アルバムのラストを飾る「Shower Room」は、真っ向勝負で思う存分にギターを歌わせたスロー・バラードです。
確かにギターらしいメロディを弾いているのって、この曲だけかもしれないですね。オーバーダビングもしてないですし。
どのように作り込んでいったのですか?
やっぱり……「Cause We’ve Ended As Lovers」みたいな曲が欲しいなって思いながら作りました。最近、椎名純平(k)と2人でやっている“シイタケ”のライブで「Cause We’ve Ended As Lovers」のカバーをやったりしているんですけど、盛り上がるんですよね。特にオッサンのウケが良い(笑)。“ちゃんと指で弾けよ”なんて言われたりして。で、アルバムの中にもギター・バラードを入れたいなってところから曲を作りました。
最後に、作品制作を振り返って一言お願いします。
超気合い入れて完成させた作品ですね。特にこだわったところを挙げるとするなら、クリックなしでベーシックを録音したところかな。最近、クリックを使ってレコーディングするのが嫌なんですよね。もう“遺伝子組み換え音楽”みたいに感じてしまうというか。クリックを使って何回もやり直したような演奏って、プレイバックを聴くいても面白くないんです。 やっぱり人と一緒に鳴らしている音楽なんだから、ちょっとリズムがヨレていてもOKだし、曲の途中でテンポが速くなったっていい。クリックがない時代は、スタジオに集まったミュージシャンが歌とギターだけのデモをもとに、その場でアンサンブルを作っていたと思うんです。でもクリックを軸に曲を作ってしまうことで、音楽が本来持っているはずのファンタジックな価値を凄く下げているんじゃないかなって感じてしまうんですよね。
なるほど。
僕としては、良いムードの中から生まれた素晴らしいアンサンブルが録れているのであれば、何も直さないのが一番良い。しかも、今回のアルバムを一緒に作り上げたような仲間がたくさんいればいるほど表情豊かな作品が生まれてくるだろうし、これから先も面白いはずだと思っています。なので、このアルバムで表現したようなフュージョンのインスト作品は、これからも追求していきたいですね。ただ、僕がやるとフュージョンっぽくなくなるっていうか、結局ブラック・ミュージックな感じが出てしまうんですよ。まぁ、それも込みで面白い作品が生まれてくるのかもしれないですけどね(笑)。
LIVE INFORMATION
竹内朋康GROUP
竹内朋康(g)
Gakushi(k)
酒井太(b)
永松瑛二(d)
日程
- 7/20(土)白楽ドッキリヤミ市
- 10/1(火)所沢MOJO
- 11/2(土)刈谷 洲原公園 HIGHBRID2024
- 11/3(日)敦賀 tree cafe
- 11/4(月)金沢 ASILE
- 12/16(月)神戸 CHICKEN GEORGE
- 12/17(日)京都 RAG
- 12/18(火)大阪 S.O.Ra
※情報は記事公開時のものです。最新の公演詳細は竹内朋康のX(旧Twitter)をチェック!
作品データ
『BEAT BANG』
竹内朋康
MIDORIYA RECORDINGS
MRCD-005
2024年4月6日リリース
―Track List―
01.Kick & Stroke
02.The Boom
03.High Dive
04.Breathing
05.Beat Bang
06.Butterfly
07.Water & Bubbles
08.Shower Room
―Guitarist―
竹内朋康