百々和宏(MO’SOME TONEBENDER)が自身で立ち上げたレーベル“FUZZY PEACH”から4枚目のソロ・アルバム『OVERHEAT 49』をリリース! この作品には、ヤマジカズヒデ(g)、ウエノコウジ(b)、奥野真哉(k)、有江嘉典(b)、藤田勇(d)、有松益男(d)、みわこ(d)といった、これまでの音楽活動で一緒に音を鳴らしてきた仲間が参加しており、ソロやデュオといったミニマムな編成からクインテットまで、幅広い音楽表現をパッケージした意欲作に仕上げられている。加えて4月3日には、アナログ7インチEP「アナクロ’N’ ROLL」の発売とツアーも発表。コロナ禍にあって“それでも音楽をやるんだよ!”と自身を奮い立たせて生まれたという作品について話を聞いた。
取材:尾藤雅哉(Sow Sweet Publishing) ライブ写真=chiyori
コロナでテンションもガタ落ちだったけど、
“それでも音楽をやるんだよ!”って気持ちを切り替えた
5年振り4作目となるソロ・アルバムですね。制作にはいつ頃から取り掛かっていたのですか?
スイッチが入ったのはコロナ禍になってからですね。やることがなくなってしまって(苦笑)。テンションもガタ落ちし、“何かやんなきゃ、何かやんなきゃ”と思って、自分のテンションを上げるためにようやく重い腰を上げたっていう感じなんです。なので、もう最初は無理やりでしたね。大分腐ってきてたんで、自分でも“ヤバい!”と思って。
コロナ禍でライブ活動が制限されている中だと、新曲を作っても披露する場がないので、そこで悩まれるバンドマンも多いみたいです。
バンドだとそうなるでしょうね。思うように動けないですし。そこで色んなことを考え出すと“なんで音楽やってんだ?”というすごい根本的な部分に行き着きますよね。“この生活、いつまで続けられるんだろう?”とか。そういうところから“いや、それでもやるんだよ!”っていう風に気持ちを切り替えて“自分のレーベルを立ち上げて作品を作ってやろう”ってなっていったんです。
百々さんは現在49歳で、アルバム・タイトルにも“49”という数字が冠されていますね。
そうですね。でもタイトルの“49”は語呂でつけたようなもんなんですよ。
ジャケット写真を見ると、頭から“OVERHEAT”したように(タバコの)煙が立ち上っています(笑)。
そうそう(笑)。まだアルバム・タイトルも曲名も歌詞も決まってない状態の時に、先にジャケット写真とアーティスト写真を撮影しなきゃいけないって話になり、カメラマンの岡田(貴之)さんに「ロックンロールハート(ア・ゴーゴー)」という曲を送って、“お任せで、アー写とジャケ写を撮って下さい”って投げやりな感じで撮影のお願いをして(笑)。そしたらスタジオで“とにかく煙草を吸ってくれ”って言われたので、そこで言われるがままに撮影して。で、その場で“こんな感じはどうですか?”ってパッとあの写真を見せられた時に“あ、もうタイトルは『OVERHEAT』っすね”って一瞬で決まったんです。そこに数字をくっつけたら洋楽風に見えるなって(笑)。
そういうセッションから生まれたタイトルだったんですね。さて、97年にMO’SOME TONEBENDER(以下、モーサム)が結成されてから2022年で25年。2001年のデビューから数えると約20年。ここまでの活動を振り返ってみて、ターニング・ポイントになった出来事はありますか?
もうバンド自体が、活動してからの節目とか、そういうのを一切気にせず活動してきたので、ちょっと難しいですけど……本当に“あっという間”ですね。感想がそれしか出てこない(笑)。
例えば、変わった部分と変わっていない部分はあったりしますか?
その点で言えば、2003年くらいに藤田勇(d)が“シーケンスを導入したい”と言い出したのは大きな変化でしたね。その渦中に『TRIGGER HAPPY』っていうアルバムを作ったんですけど……それまではメンバー全員で1つの部屋に入って、クリックなしの“せーの”で一発録りするのが当たり前のバンドだったから、僕自身、シーケンスを導入することに対する拒絶反応が強くて。バンドの雰囲気は随分険悪になりましたね(笑)。
そうだったんですね。
今だから笑って話せますけどね(笑)。そこからギターがメインじゃない曲が増えてきて。シーケンスの入った曲をライブで演奏する時に、ステージで俺の気持ちはドンドン前に前にいってるのに、リズムは常に一定のままキープされていて……。当たり前のことなんですけど、その違和感は感じていました。その表現方法に馴染むまでには相当時間がかかりましたけど、“やってよかった”と思いますね。それをやらなかったら、絶対に解散していたから。勇は、新しい要素を貪欲に取り込む姿勢があって、そこがバンドを前に進める推進力にもなっていたんじゃないかな。
途中、ドラムを叩かない時期もありましたよね(笑)。
ありましたしね。ギターにコンバートした時もあったし。でも“Art-Schoolではドラム叩くのかよ!(怒)”みたいな(笑)。まあまあ、今だから笑い話ですけど(笑)。
色んなものを飲み込んで転がり続けていくというバンドなんですね。
そうですね。“モーサムはそういうバンドである”っていうのを自分で言っていたから、最終的には受け入れざるを得ないというか。僕は時間がかかりましたけど、でもそこが“面白いな”っていうのは……作品として完成すると段々と客観的にわかってきて。その変化を楽しむ姿勢を受け入れてからは、またバンドが面白くなってきましたね。
変わっていない部分で言うと、フェンダーのムスタングを弾いて歌うというスタイル自体はずっと変わらないですよね。
そうなんですよ。モーサムが作品ごとに指向性を変えて、バンドの音作りも大胆に変わっていく中で、俺はどちらかと言うと“逆にスタート地点にあったものを守る立場でいようかな。そっちのほうがバンドとして面白いな”と思ったんですよね。レコーディングではムスタング以外のギターも弾いたりしますけど、やっぱり俺がステージに上がる時はムスタング1本でやり続けたいなって。それはロックが持っている荒々しいギター・サウンドのイメージを守るようなところもあるし。おかげさまで、ギター・マガジンのムスタング特集の時にたくさんページをいただけたので(笑)。
Charさんか、百々さんか(笑)。
あの時は本当にうれしかったですね(笑)。
レコーディングはその日の記録でもあるから
あれこれいじりたくない
今作だと、dipのヤマジカズヒデ(以下、ヤマジ)さん、ウエノコウジ(以下、ウエノ)さん、奥野真哉(以下、奥野)さん、有江嘉典(以下、有江)さん、勇さん、有松益男(以下、益男)さん、みわこさんと、これまで百々さんが一緒に音を鳴らしてきた仲間が参加しているのもトピックですね。この方々に声を掛けようと思ったのは?
自分1人だけで曲を作ってても、なかなかテンションが上がらなかったんですよね。そこで“うわ、これはなんかナイーブなアルバムになりそうだな”と思って(笑)。“コロナ禍という今の時代感にハマり過ぎて嫌だな”とか“コロナありきの作品になるのも嫌だな”と思って。そういうところから仲間に頼ろうって気持ちになったんです。
で、“誰に頼もうかな?”って思いを巡らせたら曲のアイディアも生まれきたんですよね。“ゲストで参加してくれるミュージシャンに、こう演奏してもらいたい”ってことをイメージをしながら曲作りをしていったんで。アルバムの前半に収録されているアッパーな曲は、ゲストを呼ぼうって切り替えてから生まれてきたんですよ。それまでは“ソロ・アルバムだし、自分の趣味全開で、密室感があってもいいや”ってところもあったんですけど、あまりにも世界が閉じこもってたので、逆に曲作りと演奏でハジけたいなっていう気持ちが出てきたっていうのはありますね。
今、話に出たアッパーなバンド・サウンドだけでなく、アコギの弾き語りをベースにした退廃的なナンバーも収録されていますね。
そうですね。それこそ吉祥寺のバーで録ったんですけど、もちろん防音もされてないので、すごい外の音が入るんですよ。でも、あえてアンビの音をしっかり出して、バイクが店の前を横切る音もしっかり入れたりして(笑)。そういう風に、音楽を聴いてレコーディングしている風景が見えてくるような雰囲気も残したかったんです。昔から、演奏している人の息遣いが感じられたり、床が軋む音が入っていたりするような作品が好きなんですよね。
“記録”という意味のレコードという。
そうです、そうです。本当に記録ですよね。鳥の鳴き声だったり、下校する子どもたちの声が入っても全然いいなって(笑)。レコーディングっていうのは、やっぱりその日の記録でもあるから、基本的にあれこれいじりたくない。バンドで録る時も“なるべくそのまま全部使いたいので細かく手直しはしなくていいです。僕がOKって言ったらOKです”ってことを伝えて。
OKの基準は“カッコいいかどうか”だったんですか?
そうですね。カッコいいと思ったテイクを選ぶようにしました。
「ジャグリNUパー」は退廃的でグランジ的な手触りのある曲。モーサムの武井(靖典/b)さんの吹くトランペットとノイズ・ギターが印象的です。
この曲は、アコースティック・ギターと僕の歌を一発録りしたテイクに、あとからノイズ・ギターと武井のトランペットを重ねました。出たとこ勝負でやったんですけど、なんだかんだ言いながら武井と2人でやると夫婦感が出ますね(笑)。
阿吽の呼吸。
阿吽になっちゃいますね(笑)。色んな人から“この曲はモーサムっぽい”って言われるし。まあ、モーサムは器用な人間がやってるバンドじゃないから。その人のカラーがやっぱり色濃く出るんでしょうけど……それが良いというか、変えられないものになってるんでしょうね。今やね。
今作は「鬼退治」のようなギター1本でのソロの表現から、「コロちゃん」、「ジャグリNUパー」のようなデュオのほか、トリオ、カルテット、クインテットなど、編成が多用なのも1つのポイントだと思いました。
そうですね。曲によってメンバーも変わるので、これまでのソロ作品の中ではバラエティに富んだものになったかなと。加えてソロ作品には、僕が影響を受けたきた音楽をそのままやっちゃえ!って種明かしするような側面もあって。例えば「OVERHEAT 49」は、オルガンを入れたかったので奥野(真哉/k)さんにお願いしてたんですけど、ハッキリと“この曲はエルヴィス・コステロ・アンド・ジ・アトラクションズです”って伝えて(笑)。
たしかに「Radio, Radio」の雰囲気を感じました。
そうそう、「Radio, Radio」ですよね(笑)。奥野さんは“ザ・ストラングラーズとXTCも入っちゃった”って言っていたけど、奥野真哉以外の何者でもないギンギンのプレイで素晴らしかったです。聴いた時はぶったまげました。
自分が思うがままに、思うクオリティで
正しくギターを弾くってすごい大事だと思う
ソロ作品ではお馴染みの“ロックンロールハート”シリーズですが、今回の「ロックンロールハート(ア・ゴーゴー)」ではヤマジさんがフリーキーなフレーズで華を添えていますね。
ヤマジさんのギター、良いですよね。この曲のオファーをした時に、“間奏とエンディング、12、16小節ずつくらい入れて下さい。その場のノリでパッと弾いた感じで全然いいんで”ってデモを送ったんですけど、いざスタジオに来たら、もう頭からケツまでカッチリとフレーズがハメ込んであって。ヤマジさんは“俺はノリでソロだけを弾くってことができないから、頭から流れでマルッと弾いちゃうね”って言って弾いたギターがいちいちカッコよくて。1stテイクでOKみたいな……それくらい完成度が高かったですね。だから録りも30分くらいで終わったんですよ。
この曲は、AメロがA→C#→Dというコード進行ですが、シンプルなんだけどフックが効いていると感じました。
Aメロは、A→C#→Dに行くパターンと、A→C→D→Gという2パターンで迷っていて。それをウエノさんに聴いてもらったら“A→C#→Dのほうが百々っぽい。メロがあっていいんじゃない?”って言われて……それで決まりました。僕自身、ああいうシンプルで簡単なコードワークでもテンションを上げて演奏できるっていうのが大切だと思っていて。“そういうギターをずっと弾いてたいな”っていう願望があるんですよね。
それこそ「スモーク・オン・ザ・ウォーター」や「サティスファクション」のように誰でも弾けるシンプルなリフを、いかにカッコよく弾けるか、みたいなところは難しいですよね。
そうそう、ロック・ギター教科書の1ページ目(笑)。やっぱりシンプルなリフって覚悟が要りますよね。それこそ「ロックンロールハート(ア・ゴーゴー)」もギターを始めて2~3ヵ月もあれば絶対に弾けるようなリフなんですけど、やっぱり弾き手の覚悟の有無で、そのギターがカッコいいか、カッコ悪いかって、変わるじゃないですか。
「ハルノハクチ」は大滝詠一さんのナイアガラ・サウンドを彷彿とさせる楽曲だと感じました。
あ、それを言われたの、2回目ですね。音作りに関しては、フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを意識していたので、エレキは10本くらい重ねました。テイクに違いがあったほうが良い揺らぎが出るので、エフェクト具合もちょこちょこ変えたりして。サイケデリックな感じが好きなので、多少ズレててもOKっていうか。
この曲は、有江さんの歌うようなベース・ラインも耳に残りました。
有江くんは百々和宏とテープエコーズでもずっと弾いてくれてたし、デュオでも一緒にやっていたので、俺の好きな感じをわかってくれているんですけど「ベースをジャストで弾かれるとちょっと嫌なんで、ヌルッと弾いて」ってことは話していましたね。あと、僕のギターがシンプルにコードをジャンジャカ弾いてるだけなので、ベースは歌メロに寄り添ってほしいってところもあったりします。
制作に使用した機材について教えて下さい。
ギターは、Gibsonのダブル・カッタウェイのLes Paul Junior、ES-335、GuildのSTARFIRE、Mosrite、Telecaster、60年代中盤製のジャガーを使いました。
エフェクターは、歪み系だとHondaSoundWorksのパッコンギ、BOSSのBlues Driver、Atlas PedalのSutherland OverDrive、Dan ElectroのBR-1 THE BREAKDOWN、ギターテックの知り合いの方にオリジナルで作ってもらったビッグマフ系とトーンベンダー系のファズ・ペダル。空間系は、エレハモのDeluxe Memory ManやCanyon、ダンエレのBAC-1BACK TALK、モジュレーション系でMXRのM290 Phase 95、BOSSのCE-1かな。
アンプは?
アンプはもう、ほぼSUNN。モーサムのメインでも使ってるThe Twinですね。
最後に今回の作品制作を振り返って一言お願いします。
自分でレーベルを立ち上げてアルバムを作って……次は7インチのアナログEPを出そうと考えています。やっぱり“自分が楽しいと思う活動だけをやろう”と決めて動いてるので、今回の作品を作って“まだまだ色んな人と音を出して楽しめるな”っていうのを感じましたね。自分にとっても刺激になるし、今は作曲も自宅でほぼほぼ完結できちゃいますけど、生の現場で色んな人と音を出すのがいいですよね。鍛えられますから。やっぱライブが好きなんでしょうね。自分が思うがままに、思うクオリティで正しくギターを弾くって、すごい大事だと思うんです。ライブハウスで真空管アンプのボリュームをガッツリと上げてドンッて弾く、コード一発弾く気持ちよさったらないですからね。
INFORMATION
百々和宏+有江嘉典 TOUR
『アナクロ’N’ ROLL』
4月3日(日)/札幌810
4月5日(火)/ 横浜FAD(イベント出演)
4月8日(金)/大阪・塚本HOWLIN’ BAR
4月9日(土)/奈良NEVER LAND(イベント出演)
4月10日(日)/名古屋・sunset BLUE
4月15日(金)/下北沢Flowers Loft
4月16日(土)/青森・八戸Patrie
4月17日(日)/仙台・HA’PENNY BRIDGE
4月22日(金)/福岡UTERO
4月23日(土)/福岡・黒崎LIVE HOUSE MARCUS
4月24日(日)/大分・別府Copper Ravens
■百々和宏Official Website
http://momokazuhiro.com/
作品データ
『OVERHEAT 49』
百々和宏
FUZZY PEACH/UK.PROJECT/MOMO-0001/2022年2月22日リリース
―Track List―
01. ⻤退治
02. ロックンロールハート(ア・ゴーゴー)
03. H・A・K・A・T・A・BEN
04. オーバーヒート49
05. ハルノハクチ
06. CRY GUITAR CRY
07. ⾒習いスーパーマン
08. コロちゃん
09. ジャグリNUパー
10. サルベージ
―Guitarists―
百々和宏、ヤマジカズヒデ
『アナクロ’N’ ROLL』(7インチ)
百々和宏
FUZZY PEACH/UK.PROJECT/MOMO-0003/2022年4月3日リリース
―Track List―
A1. アナクロ’N’ ROLL
B1. スペースボーイ
B2. ウイークエンダー
―Guitarist―
百々和宏