気鋭の4人組ロック・バンド、Suspended 4th(通称サスフォー)が1stアルバム『Travel The Galaxy』をリリースした。ビンテージ・ギターを愛し高純度のエレキ・ギター・サウンドを操るギタリスト2人、ワシヤマカズキとサワダセイヤはサウンド・メイクをどう考えているのか。最新作での使用機材の話を聞きつつ、彼らの耳が求める音を探っていこう。
取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 撮影:小原啓樹
誰にも自分のトーンを真似されたくない
──ワシヤマカズキ

ここからは『Travel The Galaxy』のサウンド・メイクについて聞かせて下さい。「KARMA」では、ワウを半開きにしたような音色も耳に残りました。
サワダ あれはアースクエイカー・デバイセスのData Corrupter(ハーモナイザー)っていうペダルを使って、まさにワウを半開きにした状態でレコーディングしました。
ミュートしたトランペットのような雰囲気で。
ワシヤマ そうですね。僕の中でホーン・セクションが鳴っているようなイメージがあったので、ブラス・バンドが管楽器で細かいリズムを刻んでいるような音が欲しいってオーダーをした気がします。
サワダ 存在感やエグみのある面白い音で録れましたね。
「BIGHEAD (Rev.2)」では、ブーミーなファズ・サウンドが耳に残りました。何を使ったんですか?
ワシヤマ あれはnature soundのビルダーの方に作ってもらったファズです。ゲートとコンプが入ってるんで、Fuzz Factory的なモデルなんですけど、ちょっとゲルマニウム・ファズの匂いがするペダルです。レコーディングでは、ゲートをキツくかけてサステインが出ないセッティングのテイクと、サステインを伸ばしたテイクの2本をミックスしました。この2つのテイクが滑らかにつながるように、各テイクでピッキングする時のタッチでダイナミクスを細かく調整したり、“右手はどの位置で弾くか”という部分にもこだわりましたね。
エンジニアリングも手がけているワシヤマさんならではのテクニックですね。
ワシヤマ そうですね。こういう歪んだサウンドって、真っ白なキャンバスに絵の具を投げてバシャっと飛び散るようなイメージなんです。そして、そういう色味や雑味はファズで付けることが多くて。「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」で聴けるファズも、センターのトラックはめちゃめちゃタイトにして、サイドは逆にルーズに鳴らしたりしています。
そういったギターを弾く時の細やかなこだわりはほかにもあるのですか?
ワシヤマ 例えばコードで3rdの音を鳴らす時、サステインが多くなるとマイナーの成分が増えてボイシングの明度が暗くなるから、控えめに鳴らすようにしていますね。これはレコーディングだけでなく、ライブでもやってます。マジで誰にもわからないと思うんですけど、絶対に自分のギターをコピーされないための暗号というか、一種のおまじない的な感じですね。誰にも自分のトーンを真似されたくないので。
やっぱりギターのトーンは自分だけのもの、という。
ワシヤマ そうですね。自分のギターって声と同じだと思うんですよ。人の声って誰にも真似できないじゃないですか。だからこそ弾き手のこだわりが一番出るところなんじゃないかなって。なので、音作りには妥協したくないんです。
サワダさんが音作りでこだわっているところは?
サワダ 僕は……彼ほどこだわってないですね。
ワシヤマ そうなんだ(笑)。
サワダ もっとシンプルに考えていて……“自分が弾けば、自分っぽくなるでしょ”ってくらいの感覚です。自分の中で多少のこだわりはあれど、そんなに細かく気にしてないっていうか……もう出たとこ勝負みたいな感じですね。弾いてみてグッと来るか来ないかが基準みたいな。
ワシヤマ 細かいやり方しかできない俺からするとすごい羨ましい。まぁ、一長一短ですよね。
サワダ そうだね。僕の場合、いい意味で“自分が持っている以上のものは出ない”っていう考え方なんですよ。なので背伸びをせずに地に足をつけて精一杯やるだけなんです。でも、それがまわりから見たら自信があるように見られている、みたいな。
ワシヤマ 大工さんみたいなノリに近いっすよね。職人ですよね。
サワダ たしかに。職人が好きなんですよ。
アルバムの曲をライブで演奏してその経験が次の表現につながっていく気がする
──サワダセイヤ

使用機材について教えて下さい。ギターは何を使いましたか?
ワシヤマ ギター・パートは、ほとんどストラトで弾きました。いつも使っている64年製と65年製の2本ですね。あと、ソロを弾く時に小田原の木越ギターという工房のTLタイプを使うことが多かったです。アコギは、MAN WITH A MISSIONのサポートでギターを弾いているE・D・ヴェダーさんから借りたMartinです。
サワダ 今回のアルバムでは、いつも使っているレス・ポール・ジュニアだけでなく、60年代製のフェンダー・ジャガーや別個体の58年製レス・ポール・ジュニアなんかも使いましたね。すべてビンテージ機材で、竿には恵まれたレコーディングでした。色んな機材の組み合わせを試してみた結果、自分のレス・ポール・ジュニアを手に取ることが多かったように思います。
アンプは?
ワシヤマ ヘッドは、DiezelのEINSTEINとFRIEDMAN、EVHの5150。それにWEED製のキャビネットをオープンバックにして使いました。
サワダ 僕は、MATCHLESSのDC-30とSUNNのTube Stack100ですね。ワシヤマのDiezelを借りたりもしました。
エフェクト・ペダルに関してはいかがですか?
サワダ 僕はわりといろんなペダルを取っ替え引っ替えしていました。中でも、Sobbatの DRIVE Breaker DB-2は活躍しましたね。
ワシヤマ ペダルで重要なのは、ずっと使い続けているBlues Driverですね。凄くスペシャルな1台で、“このBD-2に合うかどうか?”が使用機材を選ぶ基準になっているかもしれません。というのも、俺の機材がBD-2の音を覚えすぎちゃって、いつも使っているストラトだと凄く良い音なのに、別のギターに持ち替えると音が変わってしまうんですよ。
今回のアルバムの制作を終えて、今後のサスフォーにどのような可能性を感じていますか?
サワダ まだ先の未来に関しては全然考えていないですね。まずは今回のアルバムをライブで表現して、そこで得た経験が次の新しい表現につながっていくように感じています。
ワシヤマ このアルバムを作り終えて……俺たちみたいな音を出してるバンドが日本にいないことに絶望しています。それは要するに、“自分たちの音”を手に入れた希望とも言えるんですけど、これからはその俺たちにしか出せない音を多くの人に届けていきたい。それこそ、ギター・マガジンを読んでいるプレイヤーや、俺らと同い年くらいでバンドをやってるやつらに影響を与えるような存在にならなきゃいけないと感じがしています。このアルバムを聴いて、楽器が好きな人間が集まって一緒に音を鳴らすことで“特別な何か”が起こる瞬間を楽しめる人間が増えたらいいなって思うし、そういう魅力をサスフォーの音楽や作品で体現して、証明していきたいと思います。