圧倒的演奏技術からくり出される変幻自在のバンド・アンサンブルを武器に、音楽シーンを席巻している気鋭の4人組ロック・バンド、Suspended 4th(通称サスフォー)。彼らが満を辞して1stフル・アルバム『Travel The Galaxy』をリリース! フロアを沸かせる代表曲「ストラトキャスター・シーサイド’22」から、スピーディに疾走するロック・ナンバー「Shaky」、ディープ・パープル「Burn」のインスト・カバーまで、最新の彼らの音楽表現をたっぷりと堪能できる1枚に仕上がっている。収録曲のインスト・バージョンを収録した『Parallel The Galaxy』も楽器プレイヤーは必聴だろう。今回はワシヤマカズキとサワダセイヤに作品制作について語ってもらった。
取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 撮影:小原啓樹
「トラベル・ザ・ギャラクシー」のおかげでアルバムに芯が通った
──サワダセイヤ
満を持しての1stアルバムが完成しましたね。どのような作品にしたいと考えていましたか?
サワダ 最初、コンセプトがあるようでなかったんですけど、制作の最後にワシヤマが書いてきた「トラベル・ザ・ギャラクシー」のおかげで、アルバムに芯が通ったように感じます。この曲のタイトルにある“銀河”のように、なんでもアリな1枚になりましたね。
ワシヤマ “既存曲を並べてみたらベスト・アルバムになっちゃったな”っていうのが第一印象だったので、可能な限り最新の自分たちだからこそできる表現を演奏に落とし込もうと考えていました。なので、すべてをバージョン・アップさせたベスト盤みたいなイメージですね。
サワダ レーベルからは“アーリー・ベスト的な作品”というリクエストもあったので、ずっと演奏してきた曲や最新の曲はもちろん、インストや僕らのルーツにある好きな曲のカバーも入れることにしたんです。
ワシヤマさんは、アルバムの制作を通じてフロントマンとしての自覚が強くなったそうですね。
ワシヤマ そうですね。「KARMA」を作ったあたりから、歌うことに対して“楽しい”っていう感情が出てきて。それまでの自分は“ギター・ボーカル”という意識が強かったんですけど、これからは“ボーカル・ギター”になろうかなと思うきっかけになりました。
サワダさんは、ワシヤマさんの意識の変化についてどのように感じましたか?
サワダ シンプルに“フロントマンとしてカッコよくなったな”って感じましたね。
ワシヤマ 嬉しい。
サワダ あと、それまでステージの下手にいたワシヤマが中央に立つようになって、お客さんの目線が変わったことも大きかったです。それによって僕らのライブ・パフォーマンスも大きく変化したんですよ。
ワシヤマ 最近になって、僕らもライブの楽しみ方が変わってきたように感じていますね。サスフォーはインストのジャム・セッションでも歌ありでも、どちらにも振り切れるのが強みだと思うんですけど、今はどちらの表現も極めていきたい。やっぱりジャム演奏は予定調和ではないし、ステージの上で予期せぬ化学反応が起きるので、はずせない要素なんですよね。
なるほど。では曲作りにも変化は出てきましたか?
ワシヤマ 出てきましたね。これまでは俺が全パートを入れたデモのオケを作って、それをメンバー全員でブラッシュアップしていくやり方だったんですけど、最近はスタジオで何の打ち合わせもなしにジャムって“歌モノ”の曲を作ることにチャレンジしているんです。そういう制作のスタイルって今までなくて。
サワダ 少し前の僕らではできなかった方法なので、試みとして面白いですね。今回のアルバム制作を経たあとだからこそ、一発で合わせて曲を作るというのが少しずつできるようになってきたのかもしれない。
ワシヤマ とういうのも、今回のレコーディングで、みんなの癖が100%アルバムに出ちゃったんですよ(笑)。メンバーそれぞれのアイディアの引き出しが全部開いた状態でスタジオに入るので、相手のやりたいことがよくわかるんです。
パラのレコーディング・データも出したい
──ワシヤマカズキ

今回、楽曲のインスト・バージョンのみを収録した『Parallel The Galaxy』が同時発売されたのもトピックですね。
ワシヤマ 『Travel The Galaxy』とは曲順が逆になっているんですけど、反転している感じがパラレル・ワールドみたいだから、“Parallel The Galaxy”っていう名前が韻も踏めていいな、と思って提案したら採用されました。曲順に関しても、予期せずサスフォーの歴史を年表順にたどれるような並びになっているのが面白いですね。
サワダ ありがたいことに、インスト盤を受け入れてくれる方が凄く多くて。凄く嬉しいです。
ワシヤマ うん。俺としては、Pro Toolsに入っているパラのレコーディング・データも出したいくらいだったんですよ。デニスのドラムとか、サンプリングの素材として需要がかなりあるんじゃないかな。そこからまた新しい音楽が生まれたら嬉しいですからね。
サスフォーを代表する「ストラトキャスター・シーサイド ’22」は、今回のアルバムに収録するにあたり、どのように仕上げようと思っていましたか?
ワシヤマ この曲に関しては、歌ありのバージョンとインストが完全に分離してるイメージがあるんです。インストのほうは、もう変幻自在に演奏できますね。
サワダ この曲は単純にSuspended 4thというバンドが広く知られるきっかけとなったの曲なので、ライブのセットリストからはずせないんです。演奏する回数も多いので、シンプルに熟練度が一番高い曲でもあるのかな。
ワシヤマ そうそう。なので、自分たちが飽きないようにしないといけないしね。
サワダ ポジティブな言い方をすると……お客さんにも驚きを与えるためにやってるっていうこともありますけど、それと同時に自分たちも演奏を楽しむためにいろんなアレンジで面白おかしくやらせてもらっているという(笑)。なのでタイトルに“22”って付けたのも、次に“23”、“24”って異なるアレンジで出し続けていくパターンも見据えてのことなんです(笑)。
T-Squareの「TRUTH」やTM NETWORKの「Get Wild」的な存在というか(笑)。
サワダ そうですね。ひょっとしたら歴代の「ストラトキャスター・シーサイド」だけを1枚にまとめたアルバムが出るかもしれません(笑)。
ワシヤマ それ、どうなんですかね(笑)。
(笑)。リード・トラックの「トラベル・ザ・ギャラクシー」は、どのように作り込んでいったのですか?
ワシヤマ この曲は、“俺がすべてのパートを作ってみんなに弾いてもらいました”って感じです。かなり細かいフレーズまで作り込んだ状態で、バンドに持っていきました。
サワダ 実はサビの裏で、本当によく聴かないとわからないくらいのレベルでリード・フレーズを重ねているんですよ。その時にリファレンスにしたのが、ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」。
ワシヤマ そうそう。「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」には、スケールを変えちゃうようなフレーズがうっすらと入っていて。そこにインスパイアされて、本当に隠し味みたいなギターを入れているんです。おそらくインスト盤(『Parallel The Galaxy』)の音源をよく聴いてもらうと、気づいてもらえると思います。
サワダ この音がないと寂しくなるなってくらいのレベルなんですけどね。
ワシヤマ ふりかけみたいな地味なフレーズなんですけど、サワダ氏はそういうプレイがうまいんですよ。リードなんだけど、前に出過ぎることなく、歌とギターのサウンドをつなぐ架け橋みたいなギターというか。
サワダ わかりやすく味付けしてるギターよりも、聴く人が聴けば“ああ、やってんな”って気づく程度のギターが好きなんです。サスフォーはリズム体が派手なので、僕の地味な仕事が逆に光るっていう(笑)。
ワシヤマ そうそう、“しっかりと地味に光る”っていう(笑)。
Suspended 4thってバンド名なのに4度が嫌いなんです
──ワシヤマカズキ
「Shaky」の後半、クリーン・トーンのテンション・コードを鳴らしたあとにバンド・インするところは、同じメロディなのにバックで鳴らすコードによって世界観がガラリと変わりますね。
ワシヤマ そうですね。それは俺がボイシングにうるさいのも関係しているのかもしれないです(笑)。というのも、サスフォーの場合、ベースがむちゃくちゃ派手なプレイをするので、わりとバッキング・ギターがボトムを担う役割なんですよ。なのでボイシングの高低差は、クリーン・トーンの時に出したほうがいいかなって。
サワダ メインで聴こえる楽器が曲のセクションごとにスイッチする感じも、このアルバムの聴きどころかもしれませんね。誰かが前に出てる時は、ほかの誰かがうしろを守っていて、実はそこで素晴らしい仕事をしている、みたいな(笑)。
ワシヤマ そうかもね。「Shaky」の自分のパートはパワー・コードが主体なので、レコーディングは2テイクで終わったんです。でも、ここまでシンプルなギターを弾くことは今までやってこなかったことかもしれない。
サワダ そういえば、レコーディングの時は立って弾いていたよね。“人間味を出すために立って弾く”って言いながら(笑)。
ワシヤマ そうそう。座って弾くと、クリックに合っちゃうんです。そうじゃなくて、ちょっとヨレていたり、ストロークがスクエアじゃない演奏を狙いたくて。
そうだったんですね。
ワシヤマ あと歌のメロディは、7th以降のボイシングを歌わないようにしました。できるだけオシャレにしないようにしているんですよ。というのも……俺、凄く嫌いなコードが11th(4度)と7thなんです。Suspended 4thってバンド名なのに4度が嫌いっていう(笑)。どちらかというと4度よりも3度や5度の機能のほうが好きなんですよね。4度が3度と5度に囲まれてたら、どちらかに振りたくなっちゃうみたいな変な性癖があって(笑)。
そうなんですね(笑)。澤田さんが「Shaky」を弾く時に意識したことは?
サワダ デモを聴いた時に“俺には速すぎて弾けないな”っていうのが第一印象でした。なのでイチから自分ができることを考え直してレコーディングしたんですけど……この曲に関しては地に足が着いてない(笑)。フル・スロットルで、バンド演奏の限界に挑戦してる感じだったので、今聴いても“よく録れたな”って。つい先日、初めてライブでやったんですけど、凄いハチャメチャでした(笑)。まぁ、やってるうちにできるようになるだろうっていう気はしてますけど。
ワシヤマ でもこの曲に関しては、うまく演奏できるようにはなりたくないんですよね。テンポが見えるようになっちゃうと、自分の演奏の粗さにも気づいちゃうし……そんなことを気にしながら丁寧に演奏するのは嫌なんです。あと、この曲のBPMは250なんですけど、その速度感で脳みそを動かすって日常生活でないじゃないですか? “1分間に250個、何か考えられます?”って話なので、“250個、音を鳴らしているんだ”ってくらいラフな感じでとらえています(笑)。本来ならば、プロとしてちゃんと演奏できるようにならないといけないのかもしれないけど、そうなるとこの曲の個性が損なわれてしまうというか。
「KARMA」は大きなスケール感を感じました。フェスなどの大きなステージを経験したことで、バンド・サウンドの鳴らし方に変化はありましたか?
ワシヤマ たしかにこの曲は、特にボイシングを気にしながら作りましたね。例えば、テンション・コードのような複雑な響きをギターで鳴らした時に、ライブハウスくらいの規模だとコードのニュアンスがお客さんにも伝わりやすいですけど、それこそ幕張メッセの“SATANIC CARNIVAL”で初めてやった時は、“もう何やってるか全然わかんねえんだな”みたいな。
サワダ たしかに。
ワシヤマ だから9thを鳴らすにしても、ギターだけでなくバンド全体で“9thです!”って感じの鳴らし方にしないといけないなって。そういう意味では、たしかに規模がデカいところでやれたから気づいたポイントかもしれないです。アルバムの楽曲だと「KARMA」より前に書いたのが「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」と「HEY DUDE」なんですけど、その2曲は今までどおりのボイシングで作ったので、スケール感としてはほかの曲と比べてまとまっているなって印象がありますね。
“いかにギターをカッコよく鳴らすか”ってことを意識しています──サワダセイヤ

注目のカバー曲として、ディープ・パープルの「Burn」がインストで収録されています。なぜこの曲をやろうと思ったのですか?
ワシヤマ レーベルから“カバーを入れてもいいんじゃない?”という提案があって。それこそ社長(横山健)は、アルバムで色んな曲をカバーしていますからね。
サワダ そうそう。そういうストーリー性もあるから、良いアイデアだなと思って。で、まさかの「Burn」に決まったという(笑)。
色んな奏法テクニックを駆使したアレンジに驚きました。演奏者の個性で原曲を上書きしている名カバーに仕上がっています。
サワダ まさに“カバー”ができてよかったなって思います。ただ完コピしても面白くないですからね。
キメのボーカル・パートをハーモニクスで表現しているのも最高でした(笑)。
ワシヤマ インストでやるとなったら絶対にパンチが必要になるパートなので、色々と考えた結果、タッチ・ハーモニクスで高い音を出すしかないなって。
サワダ あそこは誰が聴いても笑う(笑)。やってるやつも笑えるし、たぶん、知らない人が聴いても面白いんじゃないかな。アルバムが完成したあと、一番聴いた曲ですね(笑)。
ワシヤマ 俺は、バースごとに弾き方を変えていて。最初は普通にピッキングしているけど、2回目はタッピングでオクターブ上を追っていって、3回目は全部ハーモニクスで弾いたりしていて。“可能な限り、メロディを真面目に弾かない”っていうのがテーマでしたね。
テクニックの使い方は弾き手のセンスと直結する部分だと思いますが、皆さんはどのようにテクニックを使おうと意識していますか?
ワシヤマ 俺の場合、エレキ・ギターじゃない音が欲しい時にこそ、あえてエレキ・ギターを使おうと考えていますね。エディ・ヴァン・ヘイレンもサイレンや象の鳴き声をギターで出したりするじゃないですか。ああいうアプローチでいろんな表現ができたらいいなって思っているんです。
サワダ 僕はワシヤマほど器用に弾けないので、足下のエフェクターを使って音色の幅を出すことも多いですけど、基本的には“いかにギターをカッコよく鳴らすか”ってことを意識しています。
デニスさんがボーカルと作曲を担当した「Tell Them」は、壮大なスケールで展開するナンバーです。海外のフェスのメイン・ステージでシンガーが歌い上げているような雰囲気を感じました。
サワダ この曲を聴くと、そういう感じをイメージしちゃいますよね(笑)。
ワシヤマ デニスの書く曲って歌モノが多くて、しかもコードやセクションという概念で考えていないから、僕らとしては“ルワブ・デニスというアーティストが描き出したい世界観をどこまで表現できるか”って感じでしたね。実はパート・チェンジもしていて、デニスがギターを弾いて、俺がドラムなんですよ。
サワダ デニスが歌って、デニスがギター弾いている曲なので、僕はまた縁の下の力持ち的な役割でギターを弾いています。アウトロなんですけど、“鳴ってなくても成立するんだけど鳴っていないと寂しくなっちゃうギター”を。
ワシヤマ フクダ(ヒロム/b)君は苦しんでましたね。“この曲、どうやってベースを弾けばいいかわからねえ”みたいな(笑)。そこを乗り越えて完成した曲なので、バンドのレベルアップにもつながったと思います。