注目のギタリストAssHがついに、自身がメンバーとなる新たなバンド=Silver Kiddを結成した。ドラマーにFUYU、ベーシストにバビー・ルイス、ボーカリストにNykと、グローバルに活躍する超実力派が名を連ねる。そして去る2022年11月23日、記念すべき1st EP『Cloud 9』の楽曲と、未発表の新曲を引っ提げた初ライブが、世界同時配信された。今回はその直前のリハーサル現場に潜入し、作品やバンドについて話を聞いた。
インタビュー=福崎敬太
全体的な技術の底上げもできたので、凄く感謝していますね
昨年インタビューしたのもこれくらいの時期でしたし、せっかくなので今年1年の振り返りからスタートしましょう! 2022年はAIさんのツアー・サポートやSilver Kiddの始動など、前年に増して色々なことがありましたが、AssHさんにとってどんな1年でしたか?
もう去年以上にあっという間でしたね。日本全国飛び回って、ほぼ家にいなかった1年でした(笑)。サポートで色々な現場をやらせてもらって……例えば、AIちゃんのツアーは、自由度は高いので、アドリブで弾くソロは毎回違かったり、フィーチャーしてくれる感じも凄くありがたかったですね。メンバーも素晴らしい人ばかりで、人間的にも恵まれていたな、と。
あと、基本的に30数曲の決まったことをやるんですけど、同じことを35~36ステージくらいやる中で“レベルアップってするんだな”って感じましたね。だから初期の演奏は、もう聴けないくらい。“あれ? こんな感じだったっけ?”みたいな。やっていることは一緒なんだけど、フィーリングの乗り方やグルーヴのドライブ感とか、色んなものが変わっていったんです。全体的な技術の底上げもできたので、凄く感謝していますね。
サポート以外の活動はどうでしたか?
10月にソロ・ライブをやって、同時に「You can be anything」っていう曲をリリースしたんです。この1年間は、自分がこれまでに触れてこなかった色んなジャンルの音楽を弾く機会が多かったので、そういう新しいエッセンスをちょっとずつ自分のスタイルに取り込んでいって、自分の楽曲に落とし込めましたね。
で、Silver KiddはSilver Kiddで、2年くらい準備してたので……。
Nyk(vo)さんのYouTubeでそう言っていましたね。
はい、当初はライブも2021年にやる予定だったんですけど、コロナ禍もあって延びてしまったんです。バビー(ルイス/b)が日本に来られたのも、今年の6月でしたし。だけど、“今でよかったな”って思っています。本当にグローバルな、色んな人に聴いてもらえるバンドだと思うので、今後が楽しみですね。
今年はレス・ポールやES-175を導入したり、機材面にも変化がありましたね。
個人的には、原点回帰なんです。ギターを始めてから20代前半まで、ずっとES-335だけでやっていたので。そこから色んなギターに触れるようになって、一度はSTタイプに落ち着いたんだけど……たまたま友人が“ギターを買う”っていう時についていって。
その前に、山野楽器さんの“レス・ポールを数百万円分弾く”みたいな動画企画の時に弾いたやつがあって、それが本当によかったんですよ。で、翌日にそれが売れちゃったんだけど、“買っとけばよかった”っていう後悔の念が強く残っていたんです。
やっぱりギターは、アタリじゃないけど、自分のテンションが上がる1本とそうじゃないものって、ハッキリ分かれるじゃないですか。そう出会えるものでもないですし。それで“次あったら、もう絶対買うぞ”って言ってたら、まさかの全然用意してない……その時に(笑)。その場で買っちゃったんです。
勢いが凄い(笑)。
でも、これまで2ハムバッカーのギターはしばらく使ってなかったじゃないですか。改めて2ハムを弾くことによって学ぶことってめちゃくちゃあって。“やっぱギブソンは良いな”って思いました。
ES-175を導入したきっかけは?
純粋なジャズっていうのは僕のフィールドでもないんだけど、音楽の知識や経験を深めるために、そういうエッセンスを学んでみようと思ったんです。で、形から入るタイプなので……(笑)。一旦お借りして使ってみてます。でも、当たり前ですけどセミアコとは全然違う音の膨らみ方やローの出方があって。
Silver Kiddで使う予定はなかったんですけど、クリーンでコード・ストラムをするだけでも、ソリッド・ギターでもセミアコでも出ないロー感が出て、それが意外とマッチする曲があったんです。フルアコってどうしてもジャズ的なイメージが先行すると思うんですけど、“あ、普通に弾いていいんだ”みたいな。ちょうど欲しいレンジ感だったので、さっそくバンドでも使ってみようっていう運びですね。
合わせていくうちに出したいサウンドがまとまっていた
Silver KiddはFUYU(d)さんと2人で進めていた?
そうです。もともと2018〜2019年くらいに、FUYUさんと一緒にドラム&ギター・ボーカルでやる予定だったんですよ。でも色々とあって“タイミングが違うね”ということでやめていたんですけど、またFUYUさんから“やっぱりちゃんとやろうよ”っていう話をもらって、そこからメンバーを探していった感じです。
どういう音楽を目指して結成されたんですか?
目指しているジャンルとかは特になくて。最初に曲を作っている時にはすでにライブも決めちゃった感じだったので、10数曲をバーッて作った感じだったんですよね。けっこう好き勝手作っていきましたけど、“AssHのソロではやらないだろうけど、やってみたい”っていうものをSilver Kiddには詰め込みました。で、初めてみんなで実際に合わせたのが、今日(配信ライブ当日/11月23日)から2週間前くらいなんですよ。
リハーサルもほとんどできていない?
そうです。全部で5日間か。で、曲がめちゃくちゃ難しいので、正直最初は不安のほうがデカかったんですよね。でも、みんなさすがで、合わせていくうちに出したいサウンドがまとまってて。結局、僕ら4人がやればこの音になる、っていうのが1つできあがったんですよね。
だから、ジャンルがどうこうじゃなく、“4人で演奏してる時の音”っていうのがすでに生まれ始めているから、“その音がSilver Kiddだな”って思います。
10数曲あるという話ですが、EP『Cloud 9』に収録されているのは5曲です。すでに楽曲はかなり溜まっている?
2年前からスタートしているので、溜まっています(笑)。実はすでにボツ曲もめちゃくちゃあって。みんなで合宿所に泊まって、朝から晩まで曲を作るっていうのを2回くらいやったのかな? 最初はFUYUさんと僕だけで、2回目からはNykも参加して。その2回でできた曲がほとんどで、あとは僕のイメージでバーッて作ってバビーと詰めていったものが3~4曲ある感じですね。
約2年間集まれなかったわけですが、アレンジはどうやって進めていったんですか?
アレンジは曲によって違くて。例えば「Milky Way」は、最初のメロディ・ラインやギター、基本的なドラムのリズムやベースはまず僕がやって、そこからはバビーが全部アレンジしましたね。2年前にできた「Riot」なんかは、AIちゃんのツアーを一緒に回っているキーボーディストの岸田勇気さんにアレンジしてもらったり。ただ、最近のものに関しては、ほぼほぼ自分たちでアレンジしたものが多いかな。
ジョン・フルシアンテが狂った時のイメージがあって
ではEP『Cloud 9』の収録曲についてそれぞれ聞かせて下さい。まずは表題曲はどんな曲ですか?
みんなが持っている僕のイメージって、ペンタでグワーッていくっていう感じだと思うんですけど、そういう人から“なんか物足りない”、“AssHが作ったの?”みたいに言われることが多くて。でも最近の僕としては、“ギター、どや”みたいな感じじゃなくて、“音楽としてまず完成されているべき”っていう考え方に変わっていったところがあって。本当に意味のある音だけを乗っけていきたいんですよね。
で、個人的に「Cloud 9」は、キャッチーに振り切りたかった。バビーは凄いテクニックで宇宙みたいな音楽を奏でてくれるし、FUYUさんのビートも本当に素晴らしいし、みんな音楽的なセンスがある。でもそこを見せつけるというよりは、音楽にそこまで詳しくない人でも素直に“好き”って言えるような、わかりやすい曲を作りたかったんです。なのでリフレインから始まって、比較的覚えやすい感じをイメージして作りましたね。
この曲は、前半が中域を生かした歪み、ラスサビ前のブレイクからはメタリックだけど抜けてくる歪みと、帯域のコントロールがポイントだと感じました。
途中のメタリックなところは、たしかDeluxe Reverb(以下:デラリバ)とファズなんですよ。ギターはAki’s Guitar ShopのSTタイプで録ってます。その時はまだリアハムだったので。リフもファズとデラリバ。で、Aメロのブリッジ・ミュートの音とかは、僕がドライで録ったものをロサンゼルスのジュニー・マグさんっていうアレンジャーに送って、音を作ってもらいました。ニューラルDSP(Neural DSP)のArchetypeっていうプラグインを使ったらしいです。
「Riot」は引っ込んだ感じのファズ・サウンドで、テクスチャーっぽいアプローチをしていますね。
この曲のキーはDmなんですけど、Dmってちょっとヘヴィなサウンドになる傾向が個人的なイメージとしてあって、あまりヘヴィにし過ぎたくはないって思ったんです。あとは、さっき言ったとおり、ギターが出過ぎないようにしていて。
だから、目立つところではガッツリ出したいけど、例えばBメロに関しては“もう全然出なくてもいいな”って思っていたり。あくまで歌がメインでいて、そのうしろで2人がリードをしてるっていうバランスが、けっこう挑戦的ではあったかな。
でも、オクターブ奏法と、パワー・コードをハイとローで、それを両方ダブルでやって、音像の広げ方というか……コードの厚みとかは、凄いこだわりました。サビだけでも6本くらいダビングされてるんですよ。
途中でピッチダウンしてブレイクがありますが、あそこはかなりフリーですよね。
そうですね(笑)。あれは、ジョン・フルシアンテが狂った時のイメージが自分の中にあって。“Riot”は暴動っていう意味なので、ニューヨークの治安が悪いエリアみたいなイメージがあったんですよね。そうなった時に、まともに綺麗なソロを弾くんじゃなくて、ちょっとぶっ壊れた感じを表現したくて。で、あのアレンジにしてもらって、アームダウンからのピッキング・ハーモニクスでアーミング、っていう。
あれは一発で?
一発です。やり直したら、ドンドン決まってっちゃうから(笑)。だから覚えていなくて、リハの時に“どうしよう?”って。でも、“僕以外の楽器の2人が凄いな”と思ったんですが、あの一見ムチャクチャなパートを、ちゃんとリズムが見えるように演奏してくれるんですよ。
「Milky Way」は、なんとなくプリンス味を感じますね。
そう! そうなんです(笑)。プリンスの「Lady Cab Driver」っていう7~8分くらいの長いループ系の曲があるんですけど、それが小さい頃から好きで。ああいうシングルコイルのいいところを詰め合わせみたいなイメージですね。それと、もう1つ“こういうベースいいな”っていう曲があって。僕もベースにハマってた時期だったので、リズムとベース・ラインをとりあえず打ち込んで、そこからリフを作っていった感じです。
ただ、ひたすらワン・コードだと、ファンクを知らない人は聴きづらいじゃないですか。だから、Bメロのアルペジオとかでちょっとポップさを入れつつ、でも歌モノに寄せ過ぎずっていうバランスでやりましたね。
そこからバビーに投げたら、ああいうシンセが入ってきて、“あ、ブラックだな”っていう風になって。あとは、ただカッティングするだけじゃなくて、ちょっと最近っぽいフレーズを入れてみたりとか。個人的に「Milky Way」は凄くツボだったし、海外だと一番人気らしいです。
この音を生で聴いたら、大概の人は飛んじゃうと思う
「Colors」は、イントロのアプローチがAssHさんっぽいアレンジだと感じました。
大黒摩季さんとかをサポートしている北川遊太君っていうギタリストと、一時期ずっと遊んでいて。よく朝から晩まで一緒にギターを弾いてたんですよ。その時に、彼のフレーズがカッコよ過ぎて影響されて。で、ああいうリードに振り切ってもないし、リズムも見えるっていうフレーズをやるようになったんです。そこから段々と自分のやりたいように変わっていったって感じなんですけど。
あそこのフレーズはカントリーなイメージなんですよね。草原がバーンって広がっているようなアメリカの風景が、明確なビジョンとして自分の中にあったんです。だから、あんまり味付けをしたくなくて、アコギとエレキがちょっと入ってるくらいにして。あとは、歌の隙間にちょっと男臭い感じのフィルを入れてみたりとか。
「Off My Mind」は「Milky Way」とは違うカッティングのアプローチですね。
そうですね。あれはわりと最近のポップスがイメージとしてあって。それこそチャーリー・プースとかから影響を受けて、ああいうタイトなんだけど、歌メロがしっかりあるアレンジにしました。
この曲のギター的なこだわりは?
Bメロのところのカッティングとか、クリーン〜クランチくらいの音も全部ファズを掛けているんですよ。そうすると音がちょっとカラッとして、鈴鳴り感も出る。そのサウンドが凄く気に入っています。
あとはシンプルに、単音カッティングが全部ブツ切りで難しくて、最初はエディットで余計なところを全部カットしようと思ったんですよ。でも、なんだかんだ奇跡的にできるようになって(笑)。派手ではないですけど、そこのリズムは全員が合ってない。そういう細かなところは、かなりこだわりましたね。
レコーディングで使用したギターを教えて下さい。
全編Aki’s Guitar ShopのSTタイプで、「Colors」のアコギは、テイラーの612eですね。
アンプはデラリバだけ?
そうですね。まだモーガンのSW50Rは手元になかったので、基本はデラリバと(ユニバーサル・オーディオ)のOXにつなぎました。
エフェクトは?
歪みに関してはヴェムラムのmyriad FUZZにJan Rayを前段ブーストとして差してるかな。リバーブはアンプのもので、もっと深い場合はプラグインも使っています。基本はそれくらいですね。
それでは最後に、Silver Kiddとしての今後の展望や活動予定を聞かせて下さい。
日本はもちろんなんですけど、“海外で対等に戦えるバンドができたな”って思っていて。2023年にビルボード・ツアーがあるので、それを皮切りに直接お客さんに届けることができるのは嬉しいですね。この音を生で聴いたら、大概の人は飛んじゃうと思うんです。そのくらいヤバい。まだライブをやっていく中でも徐々に仕上がってるっていので、これから世界に早く羽ばたけるようなバンドに……というか、羽ばたきます(笑)。
LIVE INFORMATION
Silver Kidd billboardツアー
- 2023年1月15日(日)/ビルボードライブ東京
【1stステージ】開場14:30/開演15:30
【2ndステージ】開場17:30/開演18:30 - 2023年1月23日(月)/ビルボードライブ横浜
【1stステージ】開場16:00/開演17:00
【2ndステージ】開場19:00/開演20:00 - 2023年2月16日(木)/ビルボードライブ大阪
【1stステージ】開場16:00/開演17:00
【2ndステージ】開場19:00/開演20:00
Silver Kidd:On Cloud 9
- 2023年1月21日(土)/横浜YTJホール
開場17:30/開演18:00 - 2023年2月24日(金)/SPACE14(心斎橋PARCO)
開場17:30/開演18:00
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はSilver Kiddの公式HPをチェック!
Silver Kidd公式HP
https://silverkidd.com/
作品データ
『Cloud 9』
Silver Kidd
MONKEY MOUNTAIN/2022年11月16日配信リリース
―Track List―
- Cloud 9
- Riot
- Milky Way
- Colors
- Off My Mind
―Guitarist―
AssH