東京都のライブハウス、府中Flight出身の4ピース・ロック・バンド、kobore。彼らが2023年3月にリリースしたメジャー3rdフル・アルバム『HUG』は、ストレートなアレンジの中に潜む、ギター・エフェクトの巧みな使い分けが光る1枚だ。今回は、本作のギター・ワークについて、ギタマガ初登場の両名にたっぷりと語ってもらった。
取材/文=伊藤雅景 撮影=星野俊
基礎をすっ飛ばして、好きなバンドのコピーばっかりやってました──佐藤赳
2人はギター・マガジン初登場ということで、ギターを始めたきっかけから聞かせて下さい。
安藤 僕は昔から“ギター”っていう響きがカッコよくて好きで、弾いてみたいなってずっと考えていたんです。そんな時に、通ってた近所の焼肉屋さんの店員がやっていた、ベンチャーズのコピー・バンドにたまたま誘われて。“ギター貸してあげるから一緒にやろうよ”って。あとは、同じくらいの時期にアニメの『けいおん!』を観てた影響もあると思います。
佐藤 俺は親父がギターを持っていたのがきっかけでした。小学生くらいの頃は“絶対に触るなよ”って言われてたんですけど、そう言われるとガキの頃って触りたくなるじゃないですか。
だから、親父が仕事に行ってる間に内緒で弾いたりしていて。それで触り終わったらバレないようにちゃんと元の場所に戻して……みたいな(笑)。
そこからしばらく経って、漫画の『BECK』(著:ハロルド作石/講談社)を読んだんですけど、そこで本格的に“ギターってめっちゃかっけえ!”っていう感情が湧いて、ギター熱が再燃したんです。その熱を親父に伝えたら、持っていたレス・ポールをくれて。そこから弾き始めました。
そこからバンドを組んだんですか?
佐藤 そうですね。軽音楽部で組みました。実は、最初に組んだバンドではベースを弾いていたんですよ。高校1年生くらいの時ですね。でも、ギターは軽音楽部では一番上手かったんです。“ベースを弾いているのにギターも上手いってカッコいいんじゃ……?”なんてことを考えながら、しばらくはベーシストをやっていました。
そのバンドは間もなく解散したんですが、次に組むメンバーを探していた時に、歌える人が身近にいなくて。そこで自分がギター・ボーカルを始めました。
安藤さんは最初からギタリスト志望だったんですか?
安藤 ベンチャーズのコピバンでギターを始めてから、ギタリスト以外のポジションは考えていなかったですね。
学生時代にやっていた練習があれば教えて下さい。
佐藤 俺は特に練習っぽいことはしていなかったです。好きなバンドのコピーばっかりやってました。BUMP OF CHICKENやRADWIMPS、ONE OK ROCKとかですね。
基礎をすっ飛ばして、とりあえずその人たちの“弾けたらカッコいい”って思うリード・ギターばかりコピーしてました。基礎を知ったのは高校生になったくらいで、コードやTAB譜の意味を覚えてからはRADWIMPSの「おしゃかしゃま」とかをずっと弾いてましたね。
当時、この曲を弾けると軽音部内でヒーローになれるという……。
佐藤 そうそう(笑)。
安藤 あのフレーズだけで有名になれるよね(笑)。僕も学生の頃は好きなバンドのコピーが中心でした。SIAM SHADEが昔から好きだったんで、TAB譜を買ってたんですけど、めちゃくちゃ難しくて。でも、弾けないフレーズは無理矢理なぞってました。
あとは、先輩から教わったマイナー・ペンタトニックを“弾けてる気”でやってみたりとか(笑)。そんなことばっかりやってました。
現在の練習メニューなどがあれば聞かせて下さい。
安藤 ずっとやっているのは、6弦から1弦までメジャー・キーをひたすらになぞるっていう練習ですね。1音1音に無駄なノイズが出ていないか、強弱のアクセントはどうなっているかとか、細かいところに気を配りながら弾くようにしています。
あと、練習じゃないんですが、最近ピックを0.5mmから2.5mmに厚くしたので、弦に当てる角度や、薄いピックとは違う“脱力感”を今まで以上に意識するようになりました。
佐藤 俺も最近ピッキングを意識するようになりましたね。アンプのゲインを極力抑えて、右手の強弱で歪みをコントロールするようにしています。“足りないゲインは右手で補う”っていうイメージです。自分が“足りないな”って感じるくらいの歪みの量で、静かに弾いたらクリーン、強く弾くとオーバードライブになるっていう歪み量です。
あとはリズム感のトレーニング。バッキング・ギターってしっかりしたリズム感がないと下手くそに聴こえちゃうんで、音源のテンポにぴったり合わせて弾いたり、ストロークのタイム感をシビアにコントロールようにしています。
今まではリード・ギターのフレーズばっかりをコピーしてきたので、最近はとにかくバッキングの演奏力を伸ばすことに意識が向いていますね。
“音の伸び感や抜けの良さ”はしっかり残すようにしています──安藤太一
それでは新作『HUG』について話を聞かせて下さい。楽曲ごとにギター・フレーズの印象がガラッと変わりますが、今作のフレーズはどのようにして作り込んでいったのでしょうか。
佐藤 基本的には、自分がDTMで作ったデモを安藤に送って、そこに入れたギター・フレーズをブラッシュアップしてもらう流れでしたね。フレーズが完全に固まっている時は、サウンド・メイクのアイディアを貰ったりもします。
自分はエフェクターや機材に詳しくないので“何をどう使ったらどういう音が出る”みたいなことがまったくわからないんですよ。そういう時は安藤を頼りますね。
安藤 “絶対に変えないでほしい”っていう部分はしっかり言ってくれるので、その指定された以外の部分をとにかく考えました。あとは“シンプルにしたい”とか、“こうしたい”っていう要望を噛み砕いたうえで作っていくのが基本的な流れでしたね。
佐藤 ただ、自分はギター・フレーズに重点を置いて制作しているわけではなく、メロディや構成に注目して作ることが多くて。どちらかというと、ベースとドラムに意識がいってるかな。逆に、“ギターのフレーズで展開させたらどうなるかな?”って思った時は安藤に投げる。そういった感じで、メンバーを自由に泳がせてアレンジしていました。
安藤 個人的には、昔は歌詞やメロディに寄せてギターを肉付けしていくことが多かったんですが、今回の収録曲はデモの段階から曲の方向性がハッキリしていたので、そこで感じた雰囲気を大切にしました。
あと、前作まではできるだけ避けていたオクターブ奏法を今作で解禁しました。よりストレートなギター・アレンジに寄ったおかげか、さらにバンド感が前に出てきましたね。でも、曲によっては前作までの自分っぽいプレイもあったりします! 「ラストオーダー」とかは特に。
「ラストオーダー」はサビで鳴るアルペジオが印象的なバラードです。この曲は今作で唯一アコギが入っている曲ですよね。
佐藤 この曲はもともとアコギを入れることを前提に作っていた曲で。バッキングの音色もアップテンポな曲で聴けるヘヴィな音色とは対照的に、“ジャキッ”としたサウンドになっています。これは自分の持っているヤマハのREVSTARじゃなくて、スタジオにあったストラトキャスターを借りて録った音ですが。
バッキングはダブルで鳴っていますが、左右で音色を変えているように聴こえました。それによって広がりが生まれているというか。
佐藤 そうですね。あとは鳴らす弦を変えたり、同じ音色でも違うポジションにしてみたりとか。そういった部分にはこだわりました。
一方、バッキングが入っていない「雨恋 feat. ちとせみな」は、安藤さんのプレイがさらに引き立っている印象でした。
安藤 この曲は1本だけしかギターを入れてなくて。イントロのリフ、Aメロのブリッジ・ミュート、サビ裏のフレーズを、1本で成り立つようにアレンジしました。鍵盤のソロでは伴奏っぽいアプローチをしてみたりとか。
そこで聴こえるビブラート・エフェクトが強烈です。
安藤 曲自体にシティポップ風の雰囲気があるんですが、普通にそのジャンルに寄せても面白くないなと思って。なので、あまりシティポップで聴かないようなエフェクトを使ってみました。ライブではEmpress Effects/ZOIA(モジュラー・ペダル)で音色を作って再現していますね。
今作は、特にコーラスやビブラート・エフェクトの印象が強いです。「LUCY」の間奏で聴ける、リング・モジュレーター風味な音色もまさにそうで。
安藤 これ、めちゃ気に入ってるんです! スタジオで録り音をプレイバックした時に、“めっちゃSUGIZOっぽい!”って盛り上がって(笑)。この部分はコード・ワークを僕が変なアレンジにしてみたり、色々試しました。それも相まって不思議な雰囲気が作れましたね。
あと、間奏のギターはZOIAで作った音色なんですけど、イヴェット・ヤング(COVET/vo,g)の音色を意識して作ったパッチなんです。それが凄いハマって。
koboreでの空間系エフェクトは、ZOIAが活躍することが多そうですね。
安藤 そうですね。僕はコーラスやリバーブ、ビブラートを濃くかける“ちょっと古くさい”サウンドが好みなんで、そこを意識して作っています。でも、古くさくても“音の伸び感や抜けの良さ”はしっかり残すように気をつけています。
安藤は“俺は絶対やらないな”ってことを絶対にやってくるギタリスト──佐藤赳
佐藤さんが今作で気に入っているギター・フレーズを教えて下さい。
佐藤 あんまりギター単体で意識して聴くことがないんですが、曲に対してギターで最適なアプローチができた楽曲で言うと「ユーレカ」ですかね。良い意味で“koboreっぽくない”感じにできたかなと思っていて。聴いていて心地良いギター・サウンドになっています。
安藤さんはどうでしょう。
安藤 「うざ。」のギター・リフですかね。このフレーズは「この夜を抱きしめて」のデモを聴いた時に感じた“はちゃめちゃ感”からイメージを沸かせたんです。「この夜を抱きしめて」はファズをかけて単音で弾きまくるイントロなんですが、「うざ。」のイントロはそこから派生したフレーズで。
あと、この曲のイントロもコーラスっぽい音色に聴こえますが、このリード・ギターはダブリングで揺れ感を出してます。これはベース(田中そら)のアイディアで、試しに重ねてみたら凄い良い感じになってくれて。パワー・プレイで勢いがあるのに、面白さも感じられるアレンジになったと思いますね。
佐藤さんは“ギター・フレーズに重点を置いて考えない”作曲スタイルということですが、安藤さんのギター・アレンジにはどういう印象を持っていますか?
佐藤 良い意味で“複雑なギターを弾くな”っていう印象があって。“俺は絶対やらないな”ってことを絶対にやってくるっていうイメージ。
安藤 逆に、僕は赳に対して“そこでそれなんだ!?”みたいなことをしてくる人だと思ってます。僕とはまったく違うアイディアを持っているし、ギターを実際に弾いているのを見ると“そんな音使いだったんだ……”って驚くこともけっこうあったり。その考え方の違いが面白いなって思いますね。
5月からは新作のリリース・ツアーが控えています。最後に意気込みを聞かせて下さい。
佐藤 今まで当たり前だったライブハウスの環境が戻りつつあるんで、コロナ禍とは全然違ったツアーを周れる気がします、“以前のライブハウスに戻ってきたな”って実感できるライブにしたいし、俺たちからは、守るものを守ってライブに来てくれてるお客さんに“もう全然大丈夫だぜ”っていうのを発信していきたいな。そんなツアーにしたいです。
安藤 今作はたくさんの面白いエッセンスが入っているので、今まで以上に色んなライブの楽しみ方ができるアルバムになったなと思っていて。なので、ツアーではそこに気がついてもらいたいですね。声出したい人は出したら良いし、暴れたい人は暴れれば良い。そういった色んな楽しみ方が同居できるアルバムになっているので、ぜひ遊びに来てほしい!
TOUR INFORMATION
kobore one man tour 2023
“この夜を抱きしめてツアー”
日程/会場
2023年05月14日(日) /千葉 LOOK
2023年05月17日(水) /神戸music zoo KOBE 太陽と虎
2023年05月18日(木) /静岡 UMBER
2023年05月28日(日) /横浜F.A.D YOKOHAMA
2023年06月01日(木) /新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
2023年06月09日(金) /鹿児島SR HALL
2023年06月10日(土) /大分CLUB SPOT
2023年06月13日(火) /岡山YEBISU YA PRO
2023年06月14日(水) /京都KYOTO MUSE
2023年06月16日(金) /金沢EIGHT HALL
2023年06月20日(火) /札幌cube garden
2023年06月22日(木) /仙台MACANA
2023年06月24日(土) /水戸 LIGHT HOUSE
2023年06月29日(木) /福岡 BEAT STATION
2023年07月01日(土) /高松DIME
2023年07月02日(日) /広島CAVE-BE
2023年07月05日(水) /名古屋CLUB QUATTRO
2023年07月06日(木) /心斎橋BIGCAT
2023年07月08日(土) /東京Zepp Shinjuku
チケット
前売:¥4,000(税込)+ドリンク代
当日:¥4,500(税込)+ドリンク代
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はkobore公式HPをチェック!
kobore公式HP
https://kobore.jp/
作品データ
『HUG』
kobore
日本コロムビア/COCP-41981/2023年3月15日リリース
―Track List―
- TONIGHT
- リバイブレーション
- LUCY
- もういちど生まれる
- ユーレカ
- うざ。
- 雨恋 feat. ちとせみな
- STRAWBERRY
- オレンジ
- ひとりにしないでよね
- ラストオーダー
- この夜を抱きしめて
―Guitarists―
佐藤赳、安藤太一