楽器屋さんでの試奏。その時、どんなプレイをしてどんなところをチェックすべきか。基本的には普段弾いているフレーズやコードを鳴らしてみれば良いと思います。が、個人としておそらく数百本、いや、もしかしたら4ケタ? さらにはギターマガジンでの新製品レビューも担当している試奏ベテラン(自称)であるシシクラなりの試奏を“ご提案”として読んでいただければ幸いです。
文/演奏=宍倉聖悟 採譜=宍倉聖悟/石沢功治 浄書=Seventh Photo by Max Scheler – K & K/Redferns/GettyImages
“試奏させて〜”と気軽に言ってみよう。
まずはとにかく、試奏するギターを決めましょう。すでに雑誌やネット等の情報で気になる機種があるなら、在庫しているお店に行けば良いですが、何気なくフラっと入ったお店で“ビビッ!”とくるパターンもありますね。いずれにせよ、この時点で“ルックス”という自分基準はクリアしているでしょう。
さて、狙いのギターが決まり、試奏! と、その前に! まずは“重さ”のチェックをしましょう。“ライブを頻繁にやるわけじゃない”という方も多いと思いますが、極端に重たいギターは家の中でも手に取る頻度が少なくなりがちです。
そしてバランス。立って弾くことを前提としている方は特に要注意です。お店によってはストラップを貸してくれる場合もあるので、少しでも気になった時は店員さんに声をかけて、必ず肩から下げてみてください。
さあ、いよいよ音を出していきましょう!
オールマイティに使える万能フレーズ
エレキ、アコギ問わず、“まず弾いてみる”というのがこのフレーズです。“解放弦と押弦との大きな差はないか”、“テンションノートを含んだコードがきれいに響くか”、“アルペジオでのピッキングに違和感はないか”など、このシンプルなパターンで多くの項目をチェックできます。本記事で紹介するすべてのフレーズに言えることですが、テンポはこのとおりにする必要はありません。むしろいろんなテンポで弾くことで新たな気づきがあるかもしれません。加えて重要なのが、チェックという“作業”ではなく、あくまでも音楽的な“演奏”を心がけることです。
ソリッド・ボディのクリーン音をチェック
ソリッド・ボディ、クリーン・サウンドでのチェック。これはスライ&ザ・ファミリーストーン風フレーズですね(笑)。このフレーズはある程度ローが抑えられ、ハイが出ていないとサマにならないので、STやTLタイプならバッチリですが、あえて“セットネックで2ハムのギターでもそういう音色が出せるかな?”と各ツマミやセレクターをイジリながら弾く場合もあります。プレイ的にも巻弦の単音フレーズから素早く9thカッティングという急なフォームの切り替えがあるので、自分の弾き方との相性を判断しやすい。なおかつカッコいい(笑)。
クランチ・サウンドにしてドライブ感を
ブライアン・アダムス風のコード・リフ。これはソリッド系のエレキ・ギターをクランチ・サウンドにして弾きます。各弦がバランス良く聴こえるか、自分がイメージしているキレが出るか、歪んだ状態でのオープン・コードはピッチがシビアになるので、そこもチェックできます。そもそも秀逸なコード・リフですが、店内にいる40代以上のロック・ファンを刺激するパワーをも兼ね備えています(笑)。また、個人的にはクランチでのコード・プレイで得られる感触が一番情報量が多いと思います。だいたいこのリフが良ければ、単音弾きも間違いないですね。
ペンタの単音で歪みのノリをチェックしよう
ソリッド・ボディ、歪み系サウンドでの単音弾きチェック。僕がよく弾く単音フレーズはこちらです。僕自身の手グセを極シンプルにしたもので、1音と半音のチョーキングが出てきますので弦のテンション感がわかります。自分がイメージした力加減でのチョーキングとピッチがうまくリンクしているかをチェックします。弦のテンション感に関してはゲージの選定やセッティングであとから多少調整できるので、それも踏まえての判断になりますね。1弦20Fから同じ運指で弾くとハイ・ポジションの感覚と音色もチェックできますので、音源を頼りに試してみて下さい。
ヘヴィ系ギタリストは重宝するはず!
深い歪みサウンドでのチェックではアンプの設定も重要になります。ギター本体の特性を判断するために最初はあまり極端なEQセッティングにしないほうが良いですね。特に低域や中域の出方によって、ピッキングやミュートの加減も無意識に変わってしまいます。ですので、試奏の時も普段のピッキングとミュートを心がけ、それに対してギターがイメージどおりに反応するかをチェックします。そして6弦の場合でも5度をオクターブ反転したフォームで弾いて、激歪みでも低い和音の音程感がクリアに聴こえるかも検証します。
箱モノのメロウ&ファンキーな響きはこれで
これは言わずと知れた“アノ曲”のパターンです(笑)。かなり細かいパッセージとコードチェンジなのでこれがスムーズに弾ければ間違いなく弾きやすいギターですね。サウンド的にも“甘さとキレ”が両立していないと雰囲気が出ないので、ギターのポテンシャルを計るにも完璧なフレーズだと思います。そして最高に音楽的。このフレーズが店内に響き渡れば一瞬にしてハッピーな空気になります。無機質なフレーズを淡々と弾くよりも、なんとなくでも聴いてる人を意識しながら試奏するほうが、ライブ時の精神状態とギターとの相性も感じられると思いますよ。
アコギはボディ全体の鳴りをストロークで確認
まずはコードストロークをかき鳴らしたいですよね。Gから始まり、ルートを残したまま4度のコードCにいきます。響きとしてはほぼGsus4で、この4度の和音感がきれいに聴こえるかをかなり重要視しています。特に3弦と2弦の関係性はギターにとって難所です。アコギの場合はエレキのように自分で細かく調整できないのものも多いので、響きやピッチに関してはシビアになりますね。そしてダイナミックレンジ。弱めにストロークした時でも音量や音色が豊かだと無駄な力が要らないのでとても弾きやすく感じます。
開放弦と押弦の音量バランスも重要ですよ
これは、ジャラーンとコードを鳴らしつつアルペジオも加えているパターンです。おもに開放弦と押弦との音量、音質のバランスをチェックします。さらにアルペジオでは自分が何弦をヒットしているかを意識せずに任意の弦を弾けるか、も判断できます。ギターによって弦の間隔やボディとピッキング位置までの距離が違うので、そこも確かめましょう。また、親指を指板上部から出して6弦を押さえる形なので、ネックのシェイプによっては押さえづらいものもあると思います。このフォームを多用する方にはここも重要なチェックポイントですね。
あとがき
いかがでしたでしょうか? 自分以外のプレイヤーが試奏する時、どんなフレーズを弾き、どんなところを気にしているのか? 僕もとても興味があるので皆さんのやり方もぜひ教えていただきたい!
すべてのポイントにおいて満点というギターに出会えれば、それはとてもラッキーなことですが、多少の気になるところがあるにせよそれを上回る“魅力”があるのなら十分ゲットする価値があります。
少しでも皆さんにとっての最高の1本を決定する手助けになれたなら、ギター同志としてこんなにうれしいことはありません!
宍倉聖悟
ししくら・せいご◎1975年生まれ、北海道出身。自称“東京ドームでギターを弾いた回数は世界最多”のセッション・ギタリスト。嵐やV6、SE7ENのサポートなど、幅広く活躍中。最新機材にも精通しており、ギター・マガジンの新製品レビューなども担当している。