小野武正と寺中友将が語る、無骨なのにキャッチーな“KEYTALK的”ツイン・ギター 小野武正と寺中友将が語る、無骨なのにキャッチーな“KEYTALK的”ツイン・ギター

小野武正と寺中友将が語る、無骨なのにキャッチーな“KEYTALK的”ツイン・ギター

骨太なギター・サウンドが突き抜ける、エネルギッシュなダンス・ロック・チューンを武器に活躍する4ピース・バンド、KEYTALK。今回はそんな彼らの魅力が濃密に詰め込まれた新作『DANCEJILLION』のギター・プレイ&サウンド・メイクについて、小野武正(g)と寺中友将(vo,g)に詳しく話を聞いた。巧みな音作りで厚みを増したツイン・ギター、メロディを引き立てるフレージングの秘密に迫る!

取材/文=伊藤雅景

フレーズやセクションごとにピックアップ・ポジションを変えている──寺中

KEYTALK。左から首藤義勝(vo,b)、小野武正(g)、八木優樹(d)、寺中友将(vo,g)。
KEYTALK。左から首藤義勝(vo,b)、小野武正(g)、八木優樹(d)、寺中友将(vo,g)。

前作『ACTION!』(2021年)はコロナ禍での制作で、パートごとにバラバラでレコーディングしたと言っていましたね。今作『DANCEJILLION』の制作は、以前と同じように戻りましたか?

小野 いや、前作の時とあまり大きい変化はありませんでしたね。基本的にはデモをデータで送りあって作っていった感じです。

寺中 バッキング・ギターに関しても、作曲者がデモに入れた打ち込みの音をコピーして、レコーディング当日に微調整していきましたね。

小野 『ACTION!』の時の進め方がうまくいったので、今作も同じやり方で進めたんです。その分、メンバーそれぞれが別に稼働できたりと、良い役割分担ができるんですよね。

では、ギターのレコーディングも別々に? ギターの音色などについて2人で相談することはなかったんですか?

小野 曲の作曲者と相談することがほとんどですね。ギターの音色も“作曲者+僕 or 巨匠(寺中)”という組み合わせで考えていました。

では、今作のサウンド・メイクから聞かせて下さい。まず、使用したギターを教えてもらえますか?

寺中 僕はフェンダーのテレキャスターとジャズマスター、それとグレッチのG5420Tを使いました。アルバム全体でどんどんギターを変える、っていうことをいつも考えていて。ライブで使うギターとまったく違っても良いと思っているんです。

 今作で気に入っている音色で言うと「狂騒パラノーマル」のバッキングで。この曲はジャキジャキとしたピッキングのニュアンスが凄く重要なので、ジャズマスターを使いました。その音がけっこう好きで、セットリストによってはそのジャズマスター1本でライブをやることもありますね。

ピックアップはどのポジションを使いましたか?

寺中 ジャズマスターはセンター・ポジションでしたね。で、メインで使っている赤いテレキャスターは基本的にリアで使っています。ただ、レコーディングだと、フレーズやセクションごとにポジションは変えています。

小野さんの使用ギターは?

小野 全曲、メインの黒いSGでした。『DON’T STOP THE MUSIC』(2019年)と『ACTION!』の時は1961年製のSGカスタムもけっこう使っていたんですけどね。『Rainbow』(2018年)まではずっと黒SGを使っていたので、その時期に戻った感じです。

アンプも、JCM800から以前使用していたJCM2000に戻していますよね?

小野 帯域が高音側に上がりすぎて、音が散らばる印象になってきて戻したんです。800の攻撃的なキャラクターもカッコ良いんですけど、2000のサウンドがやっぱり好きだったなって思うようにもなって。ただ、「夜の蝶」と「shall we dance」では800を使いましたね。

アンプのセッティングはどういった工夫をしていますか?

小野 ミドルの扱い方が凄く重要ですね。今ライブで使っているJCM2000は、ミドルをマックスまで上げているんですが、そうするとハイ・ミッドからトレブルまでの成分が強めに出てきてくれるんですよ。それによって、ハムバッカーのフロント・ピックアップにありがちな“ボワっ”としたロー感を打ち消してくれるんです。

 あとは、ゲインも極力抑えるようにしています。そうしないと“ジャラッ”とした歪み成分に、要らないローが引っついてきちゃう。ライブでもレコーディングでも、ドライブ感はなるべくピッキングの強弱でコントロールするようにしています。

歪みを抑えると、リード・フレーズでサステインを稼ぐのは大変じゃないですか?

小野 サステインはもう……気合いですね(笑)。左手のビブラートでなんとかしています。ゲインを上げてサステインを稼ぐと、結局アンサンブルに音が埋もれていっちゃうんですよ。だから、レコーディングで“どうしても足りないな”って感じるところも、ゲインを上げて伸ばすんじゃなくて、ディレイを掛けたりしてますね。

カッティングではゲイン感を特に気をつけています──小野

小野武正(g)
小野武正(g)

プレイ面についても聞かせて下さい。特に印象的だったのは、ネオ・ソウル的なフレーズが散りばめられた「Puzzle」です。

小野 あまり意識はしていなかったですけど、ネオ・ソウルも好きなジャンルではあって。バラード曲だったら、こういうアプローチが映えると思って、自然と弾いていましたね。

 ただ、レコーディングではセクションごとに弾いているので、いざ1曲とおして弾くとなると大変で(笑)。

こういったリード・ギターのアプローチについて、2人でやり取りすることはありますか?

寺中 “ここはこう弾いてほしい”っていう意見を伝えることもありますけど、8〜9割はおまかせしちゃいますね。

小野 「MAKUAKE」の複音フレーズは巨匠が作っていて、これについてはLINEでやり取りした記憶がありますね。こういうフレーズだとトップ・ノートの位置が絶妙にわからなくなる時があるので、どれが正解のボイシングか迷ったんだと思うんです。それで、自分で録った音を送って“これで良いの?”みたいな。

 で、この曲はアウトロで転調するんですが、その複音フレーズもそのまま転調するだけと、響きがいびつ になっちゃって。実はアウトロの和音構成はトップ・ノートを変えているんです。

小野さんは度数を意識してフレーズを考えると言っていましたが、このアレンジにもその考えが生きているんですね。

小野 まさにそうですね。転調前の和音だと、最初が長三度を重ねているんですが、アウトロだとマイナー調の音の積み方になっていて。コード進行も変わらず同じフレーズのようなんですけど、中身は違っていて響きが少し変わるんです。

「狂騒パラノーマル」はリード・シンセもあり音数が詰まっていますし、カッティングもめちゃくちゃ速いですよね。

小野 このサビのリード・ギターは義勝(首藤/vo,b)がDTMで打ち込んだフレーズがもとになっているんですけど、鬼難しくて(笑)。“簡単にしていいよ”って言われたんですけど、せっかくだから完コピしました。自分じゃ思いつかないようなカッティングのフレーズだったので面白かったです。でも、ライブでの成功率は低い(笑)。非常に難しい。

「君とサマー」のオクターブのカッティングも譜割りが細かいですが、歌のメロディを邪魔していないのがさすがです。こういった音数の多いプレイをアンサンブルに組み込む際に、意識していることや大事だと思うポイントはありますか?

小野 やっぱりフロント・ピックアップを使っていることが大きいかもしれないですね。どっしりとした音なので、バッキングに馴染ませられると思うんです。リアのほうがスピード感やロック感、いわゆるエレキ・ギターのおいしいところが出やすいと思うんですけど、そうするとプレイ内容も変わってしまうんですよね。

僕ら4人だけの音でやるだけで、それが1つのアレンジになる──寺中

寺中友将(vo,g)
寺中友将(vo,g)

「MY LIFE」では、今作で一番といっても過言ではないほど、細かくギター・フレーズが詰め込まれています。

小野 我ながら“弾き過ぎたな”と思うくらい弾いていますね(笑)。楽器の情報量としては、KEYTALKで一番多いかもしれない。転調もめっちゃするし、トリッキーなフレーズも多いので、身体に覚えさせてる最中です(笑)。

ライブではまだ披露していない曲ですか?(取材は2023年8月)

寺中 まだやってないんですよ。今日、これから初めてメンバーと合わせます(笑)。

小野 たぶんできないよね(笑)。

今作では一番難易度が高そうですね……。

寺中 そうですね。ちょっとズバ抜けてるかもしれないです(笑)。曲の良さやグルーヴ感を引き出すまでが、まず大変だろうなと。

小野 この曲は本当にやってみないとわからないですね。ちなみに、サビが全部メジャー・コードっていうところがこだわりポイントで。今まで自分が作ってきた曲ではこういったアプローチをやったことがなかったんですが、浮遊感があるのに不思議で明るい雰囲気になってくれましたね。

寺中さんにとっても新鮮なアプローチでしたか?

巨匠 そうですね。コード進行に関しては“このあとはこうくるだろう”っていうのがいつもとは全然違ったので、実はまだあんまり頭に入っていないっす(笑)。

今作はシンセがガッツリ入っている曲と、4人のバンド・サウンドだけで構成された曲の対比も面白かったです。シンセの有無で、ギター・フレーズやサウンドに対する考え方を変えたりすることはありますか?

小野 例えば「ハコワレサマー」だと、最初から“シンセをバキバキに出したい”という話があったので、あまりギターは余計なことはしないようにしましたね。パワー・コードで超シンプルにしています。

 ただ、それも作曲者によって変わるので、まずはあまり考え過ぎずに自分の好きなように弾いて、そこから微調整していく感じですね。

寺中 作っていく段階で“これは4人の音だけでいこう”と決めることはあまりないんですよ。最近のKEYTALKはシンセありきの曲も増えてきたので、逆に4人だけの音でやるっていうアレンジが1つの選択肢になってきた感じというか。ほかの曲とバランスを見ながら考えていますね。

作品データ

『DANCEJILLION』
KEYTALK

ユニバーサル/TYCT-60211/2023年8月30日リリース

―Track List―

  1. ハコワレサマー
  2. 狂騒パラノーマル
  3. Puzzle
  4. MAKUAKE
  5. 君とサマー
  6. ワッショイ!
  7. 夜の蝶
  8. Supernova
  9. 九天の花
  10. 未来の音
  11. MY LIFE
  12. shall we dance?

―Guitarists―

小野武正、寺中友将