ロック・バンド、神はサイコロを振らない=通称“神サイ”が、2ndフル・アルバム『心海』を2023年9月27日にリリース。今作は、切れ味鋭い爽快なアルペジオ、曲を牽引するダンサブルなカッティング、グランジ感漂うカオティックなサウンド・アプローチなど、ギター・アレンジの多芸多才さを魅せつけた快作となっている。今回はその音世界を彩ったギター・プレイ&サウンドのこだわりについて、柳田周作と吉田喜一に詳しく話を聞いた。
取材/文=伊藤雅景
音色のセレクトをよりケース・バイ・ケースで考えられるようになった──吉田
2nd フル・アルバムとなる『心海』ですが、ギターに関してテーマはありましたか?
柳田 今回はアルバム全体ではなく、 各楽曲でバラバラに考えていましたね。でも、前作『事象の地平線』(2022年)同様、ギターを使った作曲が中心だったので、かなりギター的なアルバムになったんじゃないかなと思います。
前作よりもギターの音に隙間を残している印象を受けたのですが、何か意識していたことはありましたか?
柳田 確かに、“ギターで音を埋める”っていうのは意図的に避けたかもしれないです。最近はミックスの完成形まで想像して作曲をしていて、“どこにボーカルを入れるか”みたいに考えるようになったんです。ライブのギターに関してもそうで、それぞれの位置や役割を明確にするために、頻繁に吉田(喜一/g)と話していますね。
吉田さんは今作で何か変わったことはありましたか?
吉田 昔から意識していたことですが、例えば“ここはアンプじゃなくてラインの音色を使ってみよう”みたいに、曲に合う音色のセレクトを、よりケース・バイ・ケースで考えられるようになりましたね。
レコーディングではアンプ、ライン録りの両方が活躍したんですか?
吉田 基本的にはアンプが多かったです。一例を挙げると「修羅の巷」はアンプをガッツリ鳴らしていますね。しかもこの曲はメンバー全員で“せーの”で録っていて。
柳田 「僕にあって君にないもの」も一発録りなんですけど、バンドの生々しさを活かしたかったんです。
昔は全部の楽器がグリッドにハマっている、カチっとした演奏が好きだったんですけど、最近は“バンド感”や“リズムが揺れている危うさ”もカッコいいと思えるようになってきて。特に「僕にあって君にないもの」の、吉田のギター・ソロはMVP。
吉田 これはストラトキャスターのリア・ピックアップで録ったソロですね。柳田とデータを送り合ってギターの絡みを考えたんですが、カオスなんだけど、最終的にはめちゃくちゃ綺麗なハーモニーになって。そういうストーリー性も含めて、凄く気に入っています。
柳田 このアレンジは歌詞も凄く関わっているんです。最初がアーミングの浮遊感のある感じから始まっているんですけど、そのソロが送られてきた時に“めっちゃカッコいいな”って思って。続くCメロの“共鳴し合って 遠のいて 寄り添って また消えてゆく”っていう歌詞をソロでも表わせないかって考えたんです。
途中から入ってくる歪んだギターが、最初は吉田と違うメロディ・ラインを弾いているんですけど、後半は1オクターブ下をなぞるようになっていて。そこで歌詞の内容を匂わせているんですよね。
吉田 あと、「修羅の巷」と「僕にあって君にないもの」の2曲は、柳田のバッキング・ギターにも注目してほしい。グランジっぽい要素を取り入れた音像になっているんです。
確かに、単純に音量が上がっているのかもしれないですが、ほかの楽曲よりにバッキング・ギターの主張が激しい印象です。
柳田 この2曲は、家でデモを作る時にユニバーサル・オーディオのプレキシ・マーシャルのモデリング(Marshall Plexi Super Lead 1959)を使って、テレキャスターで弾いたんです。そのデモのギターが凄く良かったので、それを完璧に再現するっていう意識がありましたね。
特に「修羅の巷」は、レディオヘッドの「Creep」みたいな“ガコッ”っていう部分をめちゃくちゃこだわって作りました。そこだけパンチインして、信じられないくらい歪ませて(笑)。
吉田 イカつい音してたよね(笑)。
柳田 ここは“神サイ流グランジ・ゾーン”(笑)。「修羅の巷」のためだけに買ったBOSSのDS-1X(ディストーション)の音ですね。
リード・ギターのメイン・リフは、それを上回るファジィさがまたカッコいいんですよね。
吉田 ファズはめちゃくちゃ色んな機種を試しすぎて、何を使ったか結局覚えてないです(笑)。ただ、アンプはフリードマンのヘッドとキャビネットを使いました。オクターバーはLine 6のHX Stompですね。
初めて聴いた時に“これシャレすぎだろ!”ってなりました(笑)──柳田
「スピリタス・レイク」のネオ・ソウルに振り切ったソロも印象的でした。
吉田 この曲は、アレンジャーのYaffleさんにもらった譜面が、9thなどのテンションが入っているピアノ的なアレンジだったんです。ペンタをオシャレに弾くだけじゃ乗り切れない曲なので、コード・トーンやリズムをしっかり考えて作りました。
でも、磯貝一樹さんに教わったことがあるくらい、ネオ・ソウル的なリックはもともと好きなんですよ。ただ、自分の音源で弾くのは初めてだったので、けっこう苦戦しました。
アウトロのフレーズで、ところどころメジャーを挟む音運びもフックになっています。
吉田 そうそう! 最後まで飽きさせない工夫です。フェード・アウトしていくんですけど、そこは聴いてくれると信じて。あと、転調の部分も革新的なんですよ。実はボーカルだけが先に転調していて。
えっ?
吉田 一瞬だけ不協和音になってるんですよ(2:00付近)。最初は“んっ?”って思ったんですけど、これがだんだん癖になってきて。今ではそこが凄くドラマチックに感じるんですよね。
柳田 転調前のコードが残っているところに、半音上がったボーカル・ラインが乗っかってくるんです。“コードも転調させたほうが良くないですか?”って聞いたんですけど、Yaffleさんは“そうするとあざとくなって「転調しましたよ感」が出ちゃうから、音を濁らせたい”と言っていて。
“なるほど、洒落とるな”と(笑)。自分が作ってたら絶対に出てこない進行だし、こういう体験があると誰かとコライト(共作)する意味を感じます。
「Popcorn ‘n’ Magic!」でのグルーヴィなギターの掛け合いはどのように考えましたか?
柳田 この曲こそギタマガでガンガン喋りたかった(笑)。2人で交互に絡み合うギター・フレーズがずっと続いていて。僕のギターもバッキングとは言い難い、歌に近いくらいの存在感で。でもリズムにも徹してる、っていう絶妙な存在感が面白いんですよね。
まさにそういった印象でした。また、サビのリード・ギターのカッティングは、2小節弾いたら1小節休むという不規則な休符が聴いていて楽しいです。
柳田 そうそう。最初は僕が弾く予定じゃなかったんですけど、“せっかくなら一緒に弾こう”ってなって、吉田から“じゃあR chコピーして”って聴かされて。“これシャレすぎだろ!”ってなりました(笑)。
それに、ラスサビではカッティングに混じって複雑なグリッサンドが入っていたり、全部のギターを聴き取るのがめちゃくちゃ難しい曲だと思う。いずれ吉田と2人で“弾いてみた動画”でも上げたいな(笑)。
吉田 面白そう(笑)。
柳田 今作はこういうツイン・ギター・コーナーがめっちゃ多いんです。「カラー・リリィの恋文」もアルペジオを絡ませていたり。
今作はアルペジオも印象的なものが多いですね。「Division」はシーケンス的な音運びだったり。
吉田 こういったループするアルペジオも好きですね。
柳田 神サイは前作からそうなんですけど、Dのフォームを基準にしたアルペジオが多いんですよ。
吉田 マジで多いです。
柳田 でもそれが色になりつつあるのかな。
吉田 節々に入っているよね。けっこう“神サイ・フレーズ”的な印象があります。
最近は空間系のエフェクトに以前より惹かれるようになってきた──吉田
「六畳の電波塔」はバッキングのトレモロの掛かり具合が渋いです。
柳田 これはロジックのプラグインで作ったトレモロです。ギターは全然調整していない、吉田から借りているスクワイヤのギターで録ったライン音源を使ってますね。
吉田 ナイスですよね。最近、ほかにもコーラスとかトレモロとかの揺れ系がめっちゃ好きになってきているんですよ。
確かに空間系エフェクトの使用頻度が前作と比べて増えましたね。
吉田 前はそんなに惹かれなかったんですけど、最近良さがわかってきたんですよ。
今作のキラキラ感は、そのエフェクティブな部分が担っているのかもしれないですね。
柳田 そうですね、そこがキラッとした部分を演出しているのかもしれない。
吉田 それで言うと、ストラトキャスターのハーフ・トーンをガッツリ使ったのもあるかもしれないですね。フェンダー・カスタムショップの54年リイシューとか、要所要所で登場しています。「What’s a Pop?」は全編ストラトで、サビではセンターとフロントのハーフ・トーンでカッティングしていたり。
「What’s a Pop?」のカッティングはグルーヴィですよね。前作から感じてたことですが、吉田さんの代名詞はやっぱり16分のカッティングなのかなと思います。
吉田 ありがとうございます。僕らはTHE 1975とかのモダンなUKロックも好きなので、そういうところにもルーツがあるのかもしれないです。
なるほど。それこそ「Popcorn ‘n’ Magic!」にはTHE 1975がルーツに感じました。「She’s American」的な。
柳田 まさに(笑)! 軽快さだけじゃなくて、陰鬱な響きとか。ところどころに影響を受けている部分はあるかもしれないですね。
“ロック・バンドの生感”を感じられるようなホール・ツアーになったら良いなと思います──柳田
新作でここまで空間系エフェクトを使ったら、新たに欲しい機材も出てきそうですね。
吉田 俺はstrymonのFLINT(トレモロ/リバーブ)が欲しいですね。アンプ・ライクな感じの温かいサウンドなので。柳田は、Quad Cortex(Neural DSP/マルチ・エフェクター)が欲しいって言ってたよね?
柳田 そうそう。ただ、俺はもう増やさないかな……。でも、ニューラルDSPが良いんですよ。最近はティム・ヘンソンのプラグイン(Archetype: Tim Henson)にハマっていて、コーラスのエフェクトがマジで優秀なので、それだけ使うこともけっこうあるんです。「Popcorn ‘n’ Magic!」のメイン・リフのコーラスはそれを使っています。
吉田 これはめちゃくちゃ良かったですよ。
柳田 アダム(・ハン/THE 1975)もニューラルDSPからシグネチャー・モデルを出してくれないかなあ。あ、でもそれ使ったら全部THE 1975になっちゃうか(笑)。
吉田 ジョン・フルシアンテとかジョン・メイヤーのモデルも欲しいな。それだけで1ヵ月くらい遊べちゃいそう(笑)。
機材の選択肢は無限大ですからね……。
柳田 でも、結局は聴感上で“カッコいいかカッコよくないか”で決めちゃえば良いって思いますよ。ツマミの位置とかも気にせず、耳で聴いて良い音を作る。やっぱり自分の耳を信じることが大切ですよ。
吉田 俺もそういう考え方です。あとは、ちゃんとアンサンブルのことを考えて音を作ったりとか。独りよがりじゃ成立しないところまで自分たちのステージが上がってきたからこそ、そう考えられるようになったのかなと思います。
さて、次回作のビジョンなどは見えていますか?
柳田 ……(笑)。ちょっとしばらく休ませて下さい(笑)。
吉田 ハハハ(笑)。ずっと作曲してたもんね。
柳田 あと1ヶ月くらい満喫させてほしい(笑)。
(笑)。10月からは全国8公演のホール・ツアーも始まります。最後に、意気込みを一言ずつお願いします。
吉田 最初から全公演で全力を出すことはもちろん、俺たちの熱量を若い子たちに届けにいきたいです。ちょっとでも迷ってる人がいたら、ぜひ来てほしいですね。
俺らのライブ、曲を聴いてコピバンやギターを始めてほしいし、そこで新しいギター・キッズが生まれてくれたら嬉しい。そういうムーブメントを起こしていきたいです。
柳田 夏に北海道のフェスで、スネアのスナッピーが切れたり、吉田がギター・ソロ途中でステージから落ちてソロ・パートが全部ノイズになったり……っていうハプニングだらけのライブをしたんです。そのトラブルだらけのライブでも、熱量が凄いライブになって。
ホール・ツアーでも、ロック・バンドの生感を感じられるようなツアーになったら良いなと思います。もちろん勢いで押し切るわけじゃないですけど、出てくる言葉も演奏も、その場でアレンジしてもいいと思いますし。
作品データ
『心海』
神はサイコロを振らない
ユニバーサル/TYCT-60209/2023年9月27日リリース
―Track List―
- Into the deep (Instrumental)
- What’s a Pop?
- カラー・リリィの恋文
- Division
- 六畳の電波塔
- 修羅の巷
- 僕にあって君にないもの
- スピリタス・レイク
- 朝靄に溶ける
- Popcorn ‘n’ Magic!
- キラキラ
- 夜間飛行
- 告白
―Guitarists―
吉田喜一、柳田周作