2026年2月27日(金)に通算5作目のフル・アルバム『a short history of decay』をリリースしたアメリカのシューゲイザー・バンド、ナッシング。今年2月、ワーとの公演のため来日したタイミングで、インタビューを実施した。ハードコア・パンク・バンド、ホラー・ショー(Horror Show)に在籍していた過去を持つフロントマン、ドミニク・パレルモ(g)に加え、現在のナッシングのサウンドの中核を担うドイル・マーティン(g)、カム・スミス(g)の3人に、今作の楽曲制作の裏側や、彼らの人柄がにじみ出た豪快かつ繊細なサウンドメイクについて語ってもらった。
取材・文=森部真衣 通訳=トミー・モリー 人物撮影:Kazuma Kobayashi 協力:ICE GRILL$

攻撃性を残しつつ、
少し感情も乗せるっていうやり方に変わったんだ。
──ドミニク・パレルモ

ギター・マガジン初登場なので、まずはあなたたちが影響を受けたギタリストから教えてください。
カム 難しい質問だけど、オレはレッド・ハウス・ペインターズのマーク・コゼレックかな。ニッキー(※ドミニクのニックネーム)はどう?
ドミニク オレの中で大きなギタリストは2人いて、昨日会ったばかりなんだけどケヴィン・シールズがその1人だ。それと子供の頃からずっと好きなのがU2のジ・エッジだな。80年代のあのサウンドや、ディレイの使い方がめちゃくちゃクールだった……。90年代のビリー・コーガンも、ナッシングにとってはいつも大きな存在だったよ。ドイルはどうだ? ガキの頃のギター・ヒーローは誰なんだ?
ドイル まあ、オレはまだガキなんだけどな(笑)。
では、現在のあなたのギター・ヒーローは(笑)?
ドイル 最近だとJ.J.ケイルがすごく好きなんだ。力みのないギター・プレイが最高だよ。それとR.L.バーンサイド。スライドのブルース・プレイヤーで、オープン・チューニングで弾いていたよね。あとはやっぱりブラック・サバスもはずせないよな。トニー・アイオミを聴かないなんてあり得ない。ガキの頃はめちゃくちゃ聴きまくっていたよ。
『The Great Dismal』(2020年)の頃のヘヴィなサウンドと比べると、今作『a short history of decay』は全体の解像度が上がり、柔らかくなったようにも感じました。目指しているサウンドに変化はありましたか?
ドミニク ナッシングの楽曲は基本的に、オレの人生からインスピレーションを受けているんだ。だから、作品の方向性とかサウンドがどうなるかっていうのは、最初から意図して決めているわけじゃない。まずフィーリングがあって、それをそのまま曲に反映させていくっていう感じだな。その時にオレの頭の中で起きていることを、どうやってバンド・メンバーに伝えるかがポイントになってるよ。
ホラー・ショー(Horror Show)時代の音楽性から大きく変わりつつ、2023年にはメタル・バンドであるフル・オブ・ヘルと共作の『When No Birds Sang』をリリースしています。しかし、今作ではシューゲイザー・サウンドに戻ってきましたね。
ドミニク ハードコアをやっていた頃は、オレの人生の中でも大きく状況が変わっていった時期でね。今よりもっと荒れていたんだ。オレにとって音楽をやることはセラピーみたいなもので、若い頃はとにかく攻撃性を求めていたよ。でも、ナッシングではその攻撃性を残しつつ、そこに少し感情も乗せるっていうやり方に変わったんだ。それで結局、またシューゲイザーに戻ってきたんだ。
ハードコアのようなヘヴィなサウンドと、シューゲイザーのような浮遊感のあるサウンドでは、表現方法が変わることはありますか?
ドミニク 違いはあるけど、根っこは同じだね。
ドイル どっちにもすごくメランコリーなものを感じるよ。
カム エモーショナルなハードコアもけっこうあるしね。
ドイル どっちのジャンルも後悔や憂鬱、周囲への嫌悪感とか、そういうものが含まれているからな。

HX Stompを使って、
ライブでもそのまま持ち運べるようにしているんだ。
──カム・スミス
今作は打ち込みのサウンドが入っていたり、アコースティックを取り入れた静かな楽曲が増えたと思います。1曲目「never come never morning」では珍しく金管楽器が入っていますよね。
ドミニク このアルバムをレコーディングしている時、これまでのナッシングでやりたかったことは全部やりきった感じがあって、すごく壮大なものを感じながらも、かなり陰鬱な感覚があったんだ。だから今回は、ボイス・メモに録りためたアコギのデモをバンドに持っていって、“どうやってナッシングっぽくしていこうか?”と考えるのをやめようとした。ただ自分が感じたまま、自然に楽曲に昇華していきたかったからね。この曲は最初からニュートラル・ミルク・ホテルのジェフ・マンガムっぽい雰囲気があったから、それをそのまま広げていったんだ。
そしてテキサス州のエル・パソにあるスタジオに行ったら、隣の部屋でフルのブラス・セクションを入れたコリード(※メキシコのフォーク・ミュージック)のバンドがレコーディングしていてね。かなりグレイトな連中ばかりだったんだ。オレとドイルは彼らと一緒に朝5時までビールを30本くらい飲んで、一緒に何かやれると確信した。その流れでオレたちのスタジオに来てもらって、すごく自然な流れでブラス・アレンジが実現したんだよ。
ドイル 彼らもオレたちのことを気に入ってくれたし、ヘンプ(麻)のタトゥーも入っていた。一緒に飲もうって感じで誘ってくれたんだ。
「cannibal world」の最初のグリッチのような音はギターですか?
カム ああ、全部ギターの音だよ。Line 6のHX Stompを使って、オレとニッキーで作ったトーンをライブでもそのまま持ち運べるようにしているんだ。
「cannibal world」は全体を通して1オクターブ上のピッチ・シフターがかかっていますよね。ライブではどのように再現していますか?
カム これもHX Stompだよ。もしHX Stompが使えなかったら、普段使っているElectro-HarmonixのPitch Forkで再現すると思うね。
ドミニク HX Stompではサウンドをかなり作り込んでプリセットしてあるんだよね。
カム 「Say Less」でも似たような音を出していて、その曲はPitch Forkを使って再現しているよ。
ドミニク 力任せじゃなく、賢くやれってことだね。ドイルはいつもなんて言ってたっけ?
ドイル “Outsmart the part(そのパートをより賢くやってみろ)”だね。
ドミニク それだ。それこそ“ドイル・イズム”だな!
「a short history of decay」のイントロや間奏のギターで使用しているエフェクトを教えてください。
ドミニク あのサウンドは、元メンバーのニック・バセット(b)と一緒にニックの家で作ったんだ。いろんなエフェクトを組み合わせて、それをプロセッサーに通してみたよ。オレたちはどんなにシンセっぽいサウンドでも、まずはギターで音を出してみるっていうやり方なんだ。だから仮にMIDIを使ったとしても最初はギターで音を作って、それをサンプリングして、そこからまたMIDIに通し直すんだ。
「toothless coal」のイントロもギターで作った音でしょうか?
ドミニク これもHX Stompで作ってるんだ。典型的なギター・サウンドから大きくかけ離れたユニークな音を取り入れたくてね。あのサウンドもオレとニックで作って、ドイルがそれをギターで再現してくれたよ。あくまでギターから音を出すことにこだわっているんだ。
カム かなりゲートをかけていて、ディストーション、ピッチ・シフター、トレモロとかを全部詰め込んでいるよ。
ドミニク 普通のリバーブとリバース・リバーブ、さらにゲートもかけているから出たり引っ込んだりするサウンドになって、ギターっぽくない音になるんだ。
あなたたちはエフェクトを一般的でない方法で使用し、ギターらしくないサウンドに仕上げることを好んでるのでしょうか?
カム ライブではそういうところがあるね。
ドミニク オレたちは長い間この方法でやってきて、良くも悪くも自分たちのサウンドができあがっているんだ。多くの連中がこのやり方、いわばレシピを盗んでいるから、その先を行き続けるには自分たちのやっていることを更新し続けるしかないね。
ドイル YouTubeでペダルの動画を観ていると、“なんだこれ? ノブを完全に回しきったほうが絶対良いだろ!”ってよく思うよ。まったく一般的な使い方じゃないけどね。
「the rain don’t care」は落ち着いた曲調が新鮮でした。途中で効果音のようにギターの高い音が挿し込まれていますが、どんなイメージで入れましたか?
ドミニク この曲はちょっと異質な存在なんだよね。昔のナッシングっぽいやり方で取り組んだ部分もあるんだけど、さらにレベルアップさせた感じになった。オレは昔からテキサスのハイウェイ・ミュージックに惹かれていて、それを意識していたよ。でもこの曲を作っていくうえで見出したジョージ・ハリソンっぽいコードが、一気に違ったイメージに変えてくれたんだ。
ドイル それはあるね。
ドミニク この曲は、映画『Lost in Translation』(2003年)のサントラに入っていてもおかしくないと思う。
ドイル 間違いなく、雨っぽいサウンドだよね。
カム 雨の感じがするね。
「ballet of the traitor」はスロウ・テンポでアンビエント感のあるサウンドですよね。どんなイメージでサウンドメイクをしましたか?
ドミニク あれはナッシングとビーチ・ハウスとスロウダイヴを混ぜたようなサウンドを狙っていたんだ。
ドイル 間違いないね。そしてこの曲ではかなりトーンを抑えているんだ。
ドミニク この曲では今まで使ったことなかったゲート・リバーブを使ったんだ。Instagramの広告で見つけたペダルなんだけど、それを使って曲を組み立てたくてさ。それでリフを作ったんだけど、ドイルから“フル・オブ・ヘルや過去のナッシングの曲に似過ぎている”ってずっと言われてたよ。でもコイツが乗り気じゃなくても、オレはそのまま形にしたんだ(笑)。
ドイル やりとおされたよ(笑)。
「nerve scales」はクリーン・トーンのアルペジオが印象的ですね。
ドイル この曲は今回のアルバムの中でもかなりフェイバリットな曲かもしれない。聴くたびにちょっと驚くところもあって、ドラムのサウンドが驚異的だし、ギターのパートはめちゃくちゃ難しい。今までで一番成熟したことをやっている曲だと思うね。
ドミニク ああ、オレもこの曲が好きだよ。作った時は自分でも弾けなくて、セクションごとに分けてレコーディングするしかなかったんだ(笑)。
「essential tremors」は静かなアコギから始まり、終盤で盛り上がりをみせるアルバムを締めくくるのにふさわしい1曲となっています。最初からアルバム全体のバランスを考えながら楽曲制作をしていたのでしょうか?
ドミニク いつもそうだよ。ナッシングの作品はどれも小説みたいな感覚で、ちゃんと始まりと終わりがあって、全部並べてみると意味が通るようになっている。オレの中ではどのアルバムも時系列で1つの流れを作っているんだ。
ドイル 計算されているんだよ。冷静かつ徹底的にね。
ドミニク 唯一オレたちが計算できる部分なんだ(笑)。実際、かなり上手くできていると思う。

オレたちの移動車の中は海賊船みたいに
瓶がガチャガチャ鳴っていただろうな(笑)。
──ドイル・マーティン
ピックは何を使ってますか?
ドミニク その辺で見つけたものを適当に使っているよ。
ドイル ああ、オレが渡すピックをなんでもね(笑)。
ドミニク そうそう、ドイルがくれるピックならなんでも(笑)。すごく薄いピックだね。たぶん0.70mmか0.60mmだと思う。
ドイル オレのピックほど薄くはないけどな。
ドイルのピックは0.60mmよりも遥かに薄いですね!
ドミニク お前ほど薄いヤツはなかなかいないよ。
ドイル オレのピックはほぼ紙みたいだよ。
こんなに薄いとライブをする時に何枚も必要になりませんか?
ドイル いや、これで十分だよ。むしろ弦を切らないっていう安心感があるんだ。
ドミニク 白いピックのほうが厚くて、黒いピックはもっと薄い。黒いほうはそんなに使わないけど、気に入っているんだよな。これはウイスキーの会社が無料で作ってくれて、2000枚くらいくれたんだ。だから好きかどうか関係なく、たぶんこれから10年は使い続けることになるだろう。
ステージ上でウイスキーを飲んでプロモーションして欲しいと言われたりしませんか?
ドイル むしろやってほしくないんじゃないか(笑)?
ドミニク ずっとタダで飲みまくっていたら、その量の多さに驚くと思うよ。
ドイル もしウイスキーまでもらえていたら、オレたちの移動車の中は海賊船みたいに瓶がガチャガチャ鳴っていただろうな(笑)。
明日はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの来日公演がありますが(※2月9日)、あなたたちのライブを観に行きます!
ドミニク オレたちは金曜(※2月6日)の夜にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを観に行ったんだぜ。
私も観に行っていましたよ!
ドミニク マジで? 最高にクールだったよな? かなり良かったよ。
ドイル オレは昨日が初めてだったんだ。
ドミニク マジか? オレは昨日を含めてこれまでにライブを4回観たけど、今回がベストだった。サウンドも最高だったし、終演後に一緒に過ごすこともできてさ。オレたちのアルバムのレコーディングを手伝ってくれたサニーっていう友人の話をケヴィン(・シールズ)としたんだ。
ドイル ドラマーのコルム(・オキーソーグ)は“日曜は特に予定ないし、もしかしたらお前らのライブを観に行くかも”って言っていたよ。
ドミニク そうそう。もしかしたら今日、彼らのうちの何人かが来てくれるかもね。
実は今日、私たちはこれからケヴィンにインタビューをするのですが(※リスケになったため実現せず)、何かギター・オタク的な質問はありますか?
ドミニク もう聞きたいことは全部聞いたよ。一緒に飲んだからね。オレたちにとっては人生の頂点みたいな瞬間だったよ。それにケヴィンは全然期待を裏切らなかった。長年憧れていた人に会うとガッカリすることもあるけど、彼は完璧だったな。だから、よろしく言っといてくれ(笑)。
ドイル ケヴィンはすごくナイスな人で、物静かなんだよ。“あのマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの人!”って感じがしなくて、全然そういう気配も出してこないっていうか。一緒に写真を撮ったんだけど、もっとお気に入りのTシャツ着ていけばよかったよ(笑)!

作品データ

『A Short History of Decay』
ナッシング
Run For Cover Records
RFC295JCD
2026年2月27日リリース
―Track List―
01. never come never morning
02. cannibal world
03. a short history of decay
04. the rain don’t care
05. purple strings
06. toothless coal
07. ballet of the traitor
08. nerve scales
09. essential tremors
―Guitarist―
ドミニク・パレルモ、ドイル・マーティン、カム・スミス