いやー、暑い! パキっとしたサウンドでカラッとカッティングしたい! ということで、猛暑をグルーヴィに乗り切るために、山下達郎「LOVELAND, ISLAND」のカッティング・サウンドを作ってみよう。実際はプロユースの高額なスタジオ用コンプレッサーを使用していると思われるが、今回はお手軽に2万円以下で手に入るペダル型コンプでチャレンジ! 試奏者は本誌でもおなじみ、末原康志名人。エントリーしたのはキャラクターの異なる4機種だが、果たしてどれがヤマタツ・サウンドに近づけるのか!? 結果やいかに?
取材/文=福崎敬太
BOSS CP-1X
Suehara’s Impression
まず前提として、本機はラック・タイプのハードウェア系コンプに近い感覚で扱える印象がしましたね。で、サウンドの印象は、極端な色つけがなくてナチュラル。ツマミの効きも良くて、ATTACKも遅いのから速いのまで幅広めだし、COMPツマミもバキバキに効きます。カッティングもサステインのあるクリーンのソロもいけますよ。
「LOVELAND, ISLAND」っぽさという点については、“音のつぶれ方”がすごく近い。あの“グッと押さえられる感じ”がありましたね。ATTACKはそこまで速すぎないくらい(13時)にしましたけど、これ以上いくと逆にコンプ感がなくなっていたと思います。で、達郎さんの耳に心地良いカッティングの感じはCOMPツマミが12時くらいがベストかな。コンセプトとしてハードウェアのラック型コンプレッサーを目指している感じがするのも、近い雰囲気を感じた理由ですね。あと、圧縮レベルがわかるインジケーターがすごく使いやすくて、このモデルでは-15dBあたりのコンプレッション感が聴感上良い効き具合だと感じました。
Fender The Bends Compressor
Suehara’s Impression
これはすごく“楽器っぽい”感じがあって、個人的に一番おもしろかった。4つのツマミを触っていると、“いちいち楽しいことが起きている”っていう感じがして(笑)。今回のテーマ的にBLENDツマミはコンプ側に振り切っていますが、このツマミも選択肢を広めるうえではすごく役割が大きかったな。いわゆるUreiのような速さはないんですけが、それを錯覚させるガチッとした音は作れますね。また、コンプレッションの感覚としては、派手なこともできるんだけど、とてもナチュラル。いわゆる“パクーン”って感じというより、ウォームにかかるのがすごく楽器っぽいんです。“フェンダーらしいクリーンの雰囲気”って言えるかもしれませんね。
「LOVELAND, ISLAND」サウンドも近い感じに作れましたよ。大まかにはDRIVEとRECOVERYツマミのふたつの組み合わせで変わっていくんだけど、このセッティング(写真)で“速くつぶれる”かつ“つぶれすぎない”ところに持っていけました。今回はギター側のボリュームを達郎さんのセッティングで固定していますが、少し出力を下げて反応を調整すると、より近い感じになるかもしれない。
KOKKO FCP2 COMPRESSOR
Suehara’s Impression
“パクーン”としたクリーンでのソロなど、コンプ・サウンドを体験したい人にはすごく良い1台だと思います。“これぞコンプ”って感じでわかりやすいし、3,000円程度だし……これでこの価格はすごい。ツマミの効きとしては、1〜2でもつぶれる感じがあるので、SUSTAINとATTACKを両方とも12時くらいにしたら、かなりコンプがかったサウンドになりますよ。
ただ、今回の「LOVELAND, ISLAND」に近づけるっていうテーマだと、わりとかかりが強くて音色も派手なので少し難しかったかな。写真のセッティングで、ようやく“控えめのEQだけど高域もフィーチャーされた音”になりました。ギター側のボリュームを下げてみるともう少し近くなるかもしれないですね。でも、SUSTAINを抑えておくとわりとオールマイティに使えるので、例えば16分カッティングをする時はギターのボリュームを7〜8くらいでジャキジャキやって、クリーンのリフをやる時はそのままギター側のボリュームを10にすればパクーンって抜けてくる、っていうふうにも使える。ニュアンスとしてはダイナコンプに近い感じなので、入門編としてすごくオススメですよ。
MXR M102 Dynacomp
Suehara’s Impression
パパっとセッティングしてオンにするだけで抜けた音がするのは、“ダイナコンプだなぁ”って思いました。SENSITIVITYをどの分量にしても魅力のある音になりますよね。今回はほとんど上げていないんですけど、まだけっこう“パコーン”っていいそうな感じで(笑)。なので、実は今回の企画に関して言うと、少し難しかったな。このセッティングでようやく近い感じになって。いわゆるサステインの部分はかなり伸びるように作ってあると思うんですよ。スレッショルドが高めに設定していある感じというか。だから使い方としては、それこそ鈴木茂さんの音のように、ほとんど歪んでないのにサステインがあるような感じのソロをやりたい時とか、ちょっと歪んだものの前に置いてブーストして音を伸ばすっていう感じがオススメですね。
カッティングしたい時は、ギターのボリュームを7くらいにしてSENSITIVITYを上げてみると良い思います。逆にサステインのあるクリーンのソロは、どんなセッティングでもいけますよ(笑)。普通のシングルコイルの出力でもすごくある感じなので、ハムバッカーだともっと効果が得られると思います。
総評:一番ヤマタツ・サウンドに近づけたのは?
Total Impression by Suehara
どの機種もそれぞれキャラクターが違っておもしろかったですね。今回は「LOVELAND, ISLAND」にどれだけ近づけるかというテーマで、比較のためにエフェクター以外は山下達郎さんを想定したセッティングを固定して試奏したので、ギターの出力を下げめだとまた対応が違くなると思います。で、結論から言うと、「LOVELAND, ISLAND」のサウンド感に一番近づけたのは、BOSSのCP-1Xでしたね。次にフェンダーも良い感じのところにいきました。ダイナコンプとKOKKOのFCP2は「LOVELAND, ISLAND」のサウンドとは少し方向性の違うコンプ感なので、近さという面で言うと難しかったかな。
今回のテーマと関係なく比較すると、KOKKOはシャキッとした“若者”って感じの音で、フェンダーは“アーティスト”、BOSSはオトナの職人、そしてダイナコンプは歴史っていう感じですね。KOKKOは音も明るくてかかり方も派手だし、作りもしっかりしているのにめちゃくちゃ安い。入門編としてはすごくオススメです。で、フェンダーはDRIVE、RECOVERYの組み合わせで細かい作り込みができるし、BLENDで更に選択肢を広がるので、個人的には一番おもしろかったな。BOSSはハードウェアのように操作できたので、それに慣れている僕としてはすごく使いやすかった。それと、ストンプでこのメーターがついているってすごくないですか? さすがBOSSって感じです。最後にダイナコンプですが、やっぱりコントロールがシンプルで使いやすいし、王道の“パクーン”・サウンドはこれじゃないと出ないですよね。
今回試奏したのはこの4台
>【特集】 シティ・ポップ偉人伝。 山下達郎を支えた名ギタリスト達。
末原康志
すえはら・やすし◎末原名人の名でもお馴染みのプロ・ギタリスト。サウンド・プロデュース、アレンジャーとしても活躍。CHEMISTRY、石井竜也、『けいおん!!』など、数多くの作品に関わっている。また『最上のリラクゼーション曲集』、『エレクトリック・ギターのしらべ』(リットーミュージック刊)など教則作品も数多く手がける。著書『ソロ・エレクトリック・ギターのしらべ』が2020年8月24日に発売。