新世代のシンガー・ソングライター/ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。 月一更新です。
デザイン=MdN
※本記事はギター・マガジン2024年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
気になっていたエフェクターがありました。ボスのSL-2です。
最近渋谷のあるサウナ施設に行った際、その中に何個かあるサウナのひとつに、音楽に特化した部屋がありました。扉の横には、期間限定で新しいミックス(プレイリスト的なことでしょうか)が流れていると表記されていました。
入ってみると、アンビエントな音楽がかかっていました。ミッドの強い、マットな質感のシンセが、BPM160くらいで点滅するように規則的に和音を刻んでいる、その上にどこかアイルランド民謡っぽい節回し、言語の女性の歌声が乗っています。既にとても心地良くて、かっこいいです。
3段ある長い木製の腰掛の、2段目に座ります。座った真後ろ、1段目と2段目の腰掛の間くらいの高さにスピーカーがありました。突如、そのスピーカーから強烈なローが飛び出しました。思わず体が震えます。楽曲に、マットなベースが加わりました。ミニマムに時折小気味良くうねります。どうやら後ろのスピーカーはウーファーのようです。低音が腰に効きます。いつの間にか楽曲に集中し、そのベースのローを待っている自分がいました。来い、来い、来た……!みたいに。
和音を発信させるシンセ、歌声、ローなベース。有機的で、ミニマムで、斬新な楽曲に夢中になっていきます。Shazamしたかったのですが、サウナの中で、スマホを持っていません。いつの間にかローなベースはピタッと止み、歌も終わったらしく、シンセの点滅だけが残ります。フェードアウトしていくそのマットな音像を、最後まで、意識が追いかけてゆきます。だんだん鳥の声と、雨音のような環境音がフェードインして来て、別の楽曲に変わったらしく、時間も丁度良かったため、自分はそのサウナから退室しました。
結局そのあとサウナには(別の部屋も含めて)合計で4回ほど入り、大満足でした。ですが、あの楽曲のことが頭から離れませんでした。
周辺で昼食をとり、その後、近いのもあって、思いつきで楽器屋に向かいました。自然とエフェクターコーナーに足を運びます。多く並ぶエフェクターの中に、気になっていたエフェクターがありました。ボスのSL-2です。
少し前から動画などでチェックしていました。特に公式チャンネルから上がっていた動画の、RE-2と重ね掛けして演奏されていた部分の音が、光の細かな粒子が海の中で揺らいで進んでいくみたいな、グリッチな空間系のサウンドで、すごく素敵で印象に残っていました。どこかレディオヘッドの『OK COMPUTER』に入っていそうにも思えました。
その時の、シンセの音に似ている気がして、思わず鳥肌が立ちました。
早速、試奏してみます。筐体の、キラキラしたブルー・グリーンがかっこいいです。まず、置いてあったままの設定から何もツマミをいじらず、コードを鳴らします。本当にスライスされたような音が、ファットで艶めいた音がアンプから飛び出します。ハッと、サウナで聴いた音楽を思い出しました。その時の、シンセの音に似ている気がして、思わず鳥肌が立ちました。僕もあれに似たものが、作れちゃうかもしれない! そんな興奮でいっぱいになりました。
芯のあるビート感、これだけで成立してしまう説得力があります。TEMPOのツマミを右に回してみると、明瞭なまま、高速で音がスライスされます。この設定で、ファズをかけたり、グリッチっぽい使い方をしても面白いなと感じます。スライスにも88ほどパターンがあるらしく、ロック、ポップス、エレクトロ、様々な音楽性と、そのリズムにフィットしそうです。また、設定によっては昔子どもの頃、科学館で聞いたみたいな不思議な音が次々飛び出してきて、どこか懐かしい気持ちになります。効果音的な使い方がいくらでもできそうです。
親近感とインスピレーションが湧いて、試奏した後も忘れられず、後日ネットで購入してしまいました。また慣れて来たら、詳しくここに書けたらなと思います! あと、サウナで聴いた曲、僕の拙い説明ですが、どなたか心当たりがあったら教えてください!
著者プロフィール
崎山蒼志
さきやま・そうし。2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、一躍話題に。独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。