マーク・レッティエリのギター的な最新トピックといえば、ポール・リード・スミスからリリースされたシグネチャー・モデル=Fioreだろう。このギターについて、本人の言葉とともに紹介しよう。
インタビュー=トミー・モリー 質問作成/文=福崎敬太 Photo by Kevin Nixon/Future Publishing via Getty Images
マーク・レッティエリがポール・リード・スミス(以下PRS)と開発したシグネチャー・モデルが、このFiore。イタリア語で“花”の意を持つ本器は、カラー名もそれになぞらえて、赤=アマリリス(Amaryllis)、黒=ブラック・アイリス(Black Iris)、白=シュガー・ムーン(Sugar Moon)と名付けられた。
スワンプ・アッシュ・ボディにメイプル・ネックをボルト・オン・ジョイント。ヘッドにあるトラスロッド・カバーの意匠は、アーティストでもあるマークの母がデザインしたものだそう。また、アウトラインだけのバード・ポジション・マークも控えめでクールだ。
ピックアップ・レイアウトはHSSで、搭載しているのはPRSと共同開発したオリジナルのFiore-H&Fiore-S×2。
コントロールは1ボリューム&2トーン、5ウェイ・セレクターだが、2つのトーン・ツマミはプッシュ/プル式となっている。真ん中のトーン・ツマミ(トーン1)をプルすると、選択中のピックアップと逆側が追加される。つまり以下のとおり。
ポジション | トーン1をプッシュ時(通常) | トーン1をプル時 |
1 | リアのみ | リア&フロント |
2 | リア&センター | リア&センター&フロント |
3 | センター | センター |
4 | センター&フロント | リア&センター&フロント |
5 | フロント | リア&フロント |
そしてもう1つのトーン・ツマミ(トーン2)をプルすると、リアのハムバッカーがパラレル接続となり、シングルコイル・サウンドが得られる。
多彩な音を表現できる、バーサタイルなプレイスタイルのマークにピッタリの1本だ。
それではさっそく、彼に本器のこだわりポイントを聞いていこう。
ジョン・メイヤーはたぶん欲しがるだろうね(笑)。
ポール・リード・スミス(以下PRS)からあなたのシグネチャー・ギター、Fioreがリリースされました。これはどのような経緯で実現して、開発に際してはPRSサイドとどのようなやりとりがありましたか?
彼らのほうから話をもらったんだ。僕はもともとマッカーティ594を何年か前からプレイしていたし、ポールはもちろん、会社の人たちがみんなグレイトな人たちだっていうのは知っていた。で、2019年の秋に、彼らから“今まで以上に関係を深めたいから、僕たちとコラボレーションをして君のギターをデザインしてみないか?”と言われたんだ。断る理由なんてなかったね。でも、これが彼らが今までやってきたものと異なるものになることは、彼らも十分わかっていたと思う。僕は長らくシングルコイルのSTタイプのギターをプレイしてきたし、そのサウンドやフィーリングを持ちつつもPRSらしくあることを求めたんだ。最終的には両者の美しいところが見事に合体したものが出来あがったね。そもそも、ポールはフェンダーやギブソンのファンでありつつも、そこからさらに発展させ続けてきたエキスパートだから。
ピックアップはHSSレイアウトで、YouTubeで演奏動画を見ましたが、あなたの幅広いスタイルに対応できるトランスペアレントなサウンドだと感じました。自身としてはどのような音に仕上がったと感じていますか?
僕はギターに関するバズワードを露骨に並べるっていうのはあまり得意じゃないんだけど、頑張ってみるよ(笑)。このギターはかなりダイナミックなギターで、君の言うとおりトランスペアレントなギターだ。つまり、“出したいサウンドが出せる”ギターなんだ。アンプやギター本体のツマミの設定によってそれらを調整することはもちろんだけど、プレイの仕方次第で様々なサウンドがプレイできる。どのギターにも固有のサウンドがあるものだけど、このギターのサウンドの土台は音楽的でフレキシブルだと思う。必ずしも特定の音楽だけに適したサウンドじゃないってところは、僕の好きなポイントでもあるんだ。こういう話をすると、“結局どんなサウンドなのかよくわからない”と思うかもしれないけど、つまりは君が作るものがこのギターのサウンドになるということだ。こんなことを言うと“自分のサウンドってどういうことよ……”と、このギターを敬遠してしまうかもしれないけど、そもそもギタリストたるものそれを持って然るべきじゃない? 君のサウンドを持ち、それをグッドな形でアウトプットしてごらんよ。僕が好きなギターはどれも、どんな音楽をプレイするにしても自分なりのスタイルでフィットしてくれるものなんだ。
スワンプ・アッシュとメイプル・ネック&指板の組み合わせですが、ネックは1ピースメイプルでしょうか?それとも貼りメイプル指板でしょうか?
これはトラスロッドを指板側から埋め込んだ構造の、いわゆる貼りメイプルだね。
50年代のボディに60年代後半以降のネックのハイブリッドといった印象です。それはブライトでクリアなファンキーなスタイルを主とするあなたのスタイルにマッチしているからでしょうか? 材の組み合わせのこだわりについて教えて下さい。
もちろんローズウッド指板とアルダー・ボディの組み合わせも好きだけど、スワンプ・アッシュとメイプル・ネックの組み合わせってパーカッシブでオープンなサウンドの印象なんだ。あとはうまく言えないけど、僕の手になぜかシックリとくるんだよね(笑)。
ノン・ピックガードのボディと、アウトラインだけのインレイが施されたメイプル指板の外観は、すごくモダンで洗練された印象です。ルックス的なこだわりは?
このギターはフェンダー・スタイルというか、カリフォルニア製ギターの典型のようなものだけど、PRSらしさという観点で考えるとピックガードはない方が良いと思ったんだよ。NF3やシルバー・スカイはピックガードがあるけど、特にシルバー・スカイっぽくならないようには配慮したかな。シルバー・スカイのハムバッカー搭載版と思われたくなかったからね。もちろん比較されることはあるだろうけど、それも構わないね。だってジョン(・メイヤー)はたぶん欲しがるだろうから(笑)。昔、“君のモデルを作ることがあったら、ぜひ僕も欲しいな”って言われたことがあるから、彼に贈ってみようと思っている(笑)。あとは、派手なルックスじゃなくて、控えめでクラシックなものにさせたかったんだ。杢目の入ったギターはほかにも持っているけど、これはシックな感じでむしろクールに思えるんだ。“あまりにもプレーンだ”なんて敬遠せず、ぜひ弾いてみてほしいね。
そのほか、日本のギタリストにオススメしたポイントは?
実はトレモロ・ユニットを独自にデザインしたんだ。PRSが今までやってこなかったものだけど、従来のユニットでは得られなかったフィーリングを僕は気に入っている。僕がジェフ・ベックから影響を受けてきた、トレモロを使った細かなニュアンスが自在に出せる。僕は常に2点支持のユニットを使ってきたので、それをそのまま使うことにしたんだ。ポールを始めとしたすべてのスタッフが僕のリクエストにしっかりと耳を傾けてくれたよ。僕がやりたいと伝えたことはすべて実現してくれたんだ。それに、自分のモデルのギターを作る時ってそういうことを期待するものだろう(笑)?
作品データ
『Deep: The Baritone Sessions Vol.2』
Mark Lettieri
Leopard/2021年4月16日リリース
―Track List―
01. RED DWARF feat. Daric Bennett & Justin Stanton
02. MAGNETAR feat. Adam Deitch & Shaun Martin
03. PULSAR feat. Robert “Sput” Searight
04. TIDAL TAIL
05. VOYAGER ONE feat. Nate Smith & Bobby Sparks
06. STAR CATCHERS feat. Steve Lukather, Jason “JT” Thomas, Wes Stephenson, and Philip Lassiter & The Philthy Hornz
07. BLUE STRAGGLER feat. Travis Toy
08. NEBULAE feat. TaRon Lockett, Frédéric Yonnet & Braylon Lacy
09. SUPERNOVA feat. Keith Anderson
10. SUBLIGHT
―Guitarists―
マーク・レッティエリ、スティーヴ・ルカサー