4月に新作『よすが』を発表して以降、先頃のフジロックではホワイト・ステージに立ち、そして来る11月29日には日本武道館公演も控えるなど、着実に存在感を大きくしているカネコアヤノ。林宏敏(g)、本村拓磨(b)、Bob(d)というお馴染みのメンバーと作り上げた『よすが』も出色の出来と言うにふさわしく、包み込むような温かなサウンドが詰まっている。カネコに加え、そのサウンド形成の大きな担い手である林に話を聞こう。愛用機材の紹介記事はこちらへ。
取材=山本諒 写真=山川哲矢
“曲がそれぞれ持っている人格”を
大事にして『よすが』を作りました。
(カネコアヤノ)
4月にリリースされた『よすが』は非常に完成度の高い作品でした。2人にとってあのアルバムは振り返ってどんな存在でしょうか?
カネコ 私はひとまず、作れて良かったなって気持ちが一番でしたね。
林 うん。めちゃくちゃいいアルバムだと思う。
いつもより製作期間をじっくり取れたんですよね?
カネコ はい。ライブがなくなっちゃって時間があったので、たくさんプリプロしました。伊豆スタジオ(毎度利用しているレコーディング・スタジオ)にもいつもの倍ぐらい滞在して。
林 プリプロも伊豆に泊まり込んで、じっくりできましたね。それまでは東京でパパっとコードをなぞる程度のプリプロをやってから、レコーディング中にフレーズ変えてみたりして作ってたんですけど。
アルバムの方向性についてはどんな話を?
カネコ そもそも、私が作った曲が前と全然違っていたんです。明らかにテンションが低いので、“だからこそあまり暗くしたくないんだよね”って話はかなりしました。やろうと思えば元気な曲も書けたかもしれないけど、無理に作るのも嫌だったんで、そこは早々に諦めちゃいました。
なるほど、以前とはまず楽曲の雰囲気が違っていた。
カネコ 私は人と会って遊んだり、話したりすることがインプットになっていたんだなってことがよくわかりました。だから、この状況になったとたんにもう、何もなくなっちゃって。“こんなご時世だけど頑張ろう”みたいなことを歌っても“うざ……”って思って、そのへんは全部無視で曲を書きました。
曲が完全に作れなくなってしまったわけではないですか?
カネコ う~ん……でも、“作ろう”と思って作った感じですね。それでもけっこう普通にやれたから“大丈夫か”って思ったけど、『よすが』のあとしばらくは、全然作れなくなった。私、やっぱりライブやるのが好きで、そこがモチベーションだったりするので。『よすが』も、レコーディングするって目標があったからできたもので……本当に、作れてよかったです。
伊豆スタジオでひたすらレコーディングした時間が、自身の救いでもあった?
カネコ うん、良かった。伊豆スタ、大好き。
林 最高だね。飽きるぐらい魚食べたし(笑)。
カネコ サザエとか本当飽きるほど食べました。ちゃんと飽きましたけど(笑)。ヤスさん(濱野泰政。伊豆スタジオのレコーディング・エンジニアで、楽曲アレンジも担当)のご飯がね、とにかく美味しいんですよ。
林 サザエご飯みたいなのも作ってもらってね。刺身もうまいんだよね。なんか料理雑誌のインタビューみたいになってきた(笑)。
ギター・メディアの話に戻します(笑)。林くんは『よすが』の自身のギター・プレイについて、振り返ってどうですか?
林 曲に寄り添えたかなって思います。いつもは“フレーズを作んなきゃ”って常に考えてたけど、今回は思うままに弾けばいいなって曲が多かった。そういう気持ちでできたのは初めてでしたね。
まさに、ギター・プレイが楽曲ににじんでいるような感じがあります。各メンバーのプレイ単体がどうというよりは、1つの塊、1つの音楽のような……。
カネコ たしかに。『よすが』の時は、話し合いをいつもよりきちんとやったんですよ。“曲がそれぞれ持っている人格”みたいなのを大事にしたいねって話をして、そこを全員でしっかり共有してからレコーディングに入りました。だから、伊豆スタにいたあの2週間は、今までで一番、ストレスフリーだったと思う。海行って、温泉に入り、花火をして、メシはうまいって感じで(笑)。
林 (笑)。カネコが言った“曲の人格”みたいなところが俺も理解できてたんで、よりシンプルなギターで十分だなと思えたんです。変に詰め込まずに“チャリーン”って鳴らすだけでも、そこに意味があれば正解というか。
カネコ 引き算っていうか。
林 例えば、ギターはチャリーンとコード弾くだけならほかの楽器も反応して控えめにしたり、逆にドラムがドタバタしてるところはギターはもう弾かない、みたいな。そういう深いアレンジができました。
カネコ うん。素直にそういうレコーディングができたよね。凄く楽しかったです。