カーク・ハメットが『72シーズンズ』の使用機材、ギター・ソロのこだわりを語る カーク・ハメットが『72シーズンズ』の使用機材、ギター・ソロのこだわりを語る

カーク・ハメットが『72シーズンズ』の使用機材、ギター・ソロのこだわりを語る

メタリカの新作『72シーズンズ』のリリースを記念し、数回に分けてお届けしているカーク・ハメットのインタビュー第二弾! 今回はレコーディングに使用したギターやアンプ、そしてギター・ソロへの熱い思いをカークが語る!

translation=Mutsumi Mae Photo by Uwe Anspach/picture alliance via Getty Images
This article is translated or reproduced from Guitar World Issues #565, June 2023 and is copyright of or licensed by Future Publishing Limited, a Future plc group company, UK 2023. All rights reserved.

『バック・イン・ブラック』でのアンガス・ヤングのサウンドが欲しかった

最新アルバム『72シーズンズ』で使ったギターについても聞かせて下さい。

 グリーニー(59年製レス・ポール/本記事中段の写真)とESPのマミー(上写真)を、とっかえひっかえしながら録音したよ。クレイジーなことをする時はマミーで、それ以外はグリーニーを使った。自分のギターの中では、グリーニーが一番好きなんだ。ピーター・グリーンやゲイリー・ムーアと同じように、俺もあのギターにとり憑かれている。あのギターはまるで自分の一部のようで、常に弾いていたいと思わせるんだ。

編注:グリーニーはもともとピーター・グリーンの愛器で、のちにゲイリー・ムーアが受け継ぎ、現在はカークの手に渡っているという伝説的な1本。

アンプに関してはどうですか?

 まず、ライブのサウンドをFractalで作ることから始めたね。元となる音は、70年代後半の改造マーシャルと、ランドールのFortin Meathead、そしてメサ・ブギーのDual Rectifierから得ている。リズム・パートはこれらをブレンドしたもので、リード・トーンはそれをさらに微調整したものだ。これらはライブにマッチしていたから、このサウンドを基にしてアルバムの音にするまで微調整を続けたんだ。それが俺たちの出発点だった。

ライブを想定した音作りだったんですね。

 ソロやリードのサウンドは、チューブ・スクリーマーを前面に出したFractalのセッティングと、SOLODALLAS のThe Schaffer Replica EX Tower(プリアンプ/以下、Tower)を使ったよ。『バック・イン・ブラック』でのアンガス・ヤングの素晴らしいサウンドが欲しかったからだ(Towerはアンガスの愛器の再現を目指したもの)。

 彼はサムソンのワイヤレス・レシーバーのアウトプットをプッシュすることで、さらにトーンを歪ませていたんだけど、Towerはワイヤレスを使わずに同じサウンドが出せる。だから、俺はこれを色々なことに使っているんだ。

 Towerは他では得られない独特のコンプレッションを加えてくれるし、ハーモニック・ディストーションを加えることで、PAFスタイルのピックアップを使った時の爆発的なサウンドや、非常にセンシティブなサウンドを出すこともできる。それが俺のサウンドなんだ。それと、俺のシグネチャー・ワウ(Dunlop KH95 Cry Baby)もたくさん使ったよ。

クライ・ベイビーはあなたのソロに必要不可欠な存在ですね。

 まさにそのとおり! ワウは俺の心の声を映し出すことができるんだ。誰が何と言おうと俺は気にしない。ワウ・ペダルを踏みたくなったら踏むだけさ。そうすれば俺の体の中で聴こえるものに近づくことができる。

 ワウの本質は、自分の中で聴こえるものを外の世界に発信する手助けをすることだ。俺ほどワウ・ペダルを使う人はいないだろう。その次がジミ・ヘンドリックスかな (笑)。この先20年はワウを使い続けるつもりだよ。

 人は自己表現という名目で好きなことを何でもやることができるんだからね。それが音楽の醍醐味だし、そうすれば面白いことが生まれる。フランク・ザッパのようなミュージシャンを見ればわかるだろう? 彼はやりたいことを何でもやった。そして素晴らしいものを生み出した。俺が言いたいのはそれだけだよ。

ロバート・トゥルヒーヨ(b/写真左)、カーク・ハメット(右)。
ロバート・トゥルージロ(b/写真左)、カーク・ハメット(右)。 手にするのはレコーディングでも活躍したグリーニー(59年製レス・ポール)。Photo by Jeff Kravitz/Getty Images for P+ and MTV

気に食わないって連中もいるだろうけど、かまうもんか! 
好きなようにやらせてもらうぜ!

今回、ソロ・パートはすべてアドリブで弾いたんでしょうか?

 今回のソロはすべて即興なんだ。意図的に作り上げたものじゃない。スタジオで何を弾いたかもよく覚えていないから、ライブでも即興で演奏するつもりだ。そうしたいと思ってる。ステージに立って新曲のソロを弾くことになったら好きなように演奏したい。リッチー・ブラックモアやジミ・ヘンドリックス、ジェフ・ベック、マイケル・シェンカーと同じような感じでね。

 チャレンジだけどエキサイティングだし、即興的な筋肉を鍛えることができる。とにかく俺はそういうやり方が好きなんだ。ほかのことはすべて後回しさ。瞬間瞬間をとらえるようなジャズやブルースが好きな理由はそこなんだ。

 例えば、「Lux Æterna」のようにクレイジーでノイジーなギター・ソロがある曲では、観客のエネルギーを読み取り、自分のエネルギーを読み取って、さらにクレイジーなことをやりたい。

 どんなプレイになるかわからないけれど、その瞬間を体験する人のためだけの、違ったものになることは保証する。そして、多分二度と同じプレイはしないだろうね! それがその場にいる人へ俺が与えるものであり、自分への贈り物でもある。

まさしくライブの醍醐味ですよね。

 「Fade to Black」のイントロのソロは大好きだし、これまで3,000回以上は弾いたよ。マジでね(笑)

 特に後半のソロが待ち遠しくてね。最初は皆が期待しているように弾くんだけど、15〜16小節目あたりになると自分でも予想がつかないプレイになり、そのあとまた戻って行く。“このあとどんなプレイになるんだろう?”と自問自答している時が、ライブの中で最高に楽しい時間の1つだ。

 自分でもびっくりして、観客を見渡すと、笑顔になっている。皆それを楽しんでいるんだ。俺はそのために生きている。もし、どの曲のソロも全く同じように弾かなければならないとしたら最悪だ。喉をかき切ってしまうだろう。

カーク・ハメット
こちらもレコーディングで使用されたESP製の通称マミー。Photo by Scott Legato/Getty Images

今作のギター・ソロがライブでどう変わるのか、今から楽しみです!

 例えば、これまでに死ぬほど弾きまくった「Creeping Death」のギター・ソロは、もはやソロというより曲の一部だよね? そういう原曲通りのソロが必要な曲があることもわかっているさ。でも、できればソロは即興で弾きたいよ。それこそ俺がやりたいことで、ギターを弾く理由なんだからね。

 俺は常にその瞬間に最高でいたいんだ。レコーディングに頼るつもりはない。もちろん、楽曲として必要な部分はあるけど、大部分は自分の好きなようにプレイするつもりさ。

 アルバム通りじゃないと気に食わないって連中もいるだろうけど、かまうもんか! これは俺の時間、俺のソロだ。俺を止めることは誰にもできない。好きなようにやらせてもらうぜ!

作品データ

『72 Seasons』
メタリカ

ユニバーサル/UICY-16145/2023年4月14日リリース

―Track List―

  1. 72シーズンズ
  2. シャドウズ・フォロー
  3. スクリーミング・スーサイド
  4. スリープウォーク・マイ・ライフ・アウェイ
  5. ユー・マスト・バーン!
  6. ルクス・エテルナ
  7. クラウン・オブ・バーブド・ワイアー
  8. チェイシング・ライト
  9. イフ・ダークネス・ハド・ア・サン
  10. トゥー・ファー・ゴーン?
  11. ルーム・オブ・ミラーズ
  12. イナモラータ

―Guitarists―

ジェイムズ・ヘットフィールド、カーク・ハメット