本講座もいよいよ最終回となりました。今回は「コード進行アレンジ術」というテーマで、ごく単純なコードを徐々に徐々に複雑なものにしていく方法を紹介します。
文・図版作成=ギター・マガジン編集部
C-C-F-G-Cを元に様々なコード進行を作ろう!
これまでに覚えてきたことを使って、色々なコード進行を作る方法を紹介します。スタート地点はC-C-F-G-Cというごく単純なコード進行です。これを少しずつ変化させて複雑なコード進行にアレンジしていきます。
今回の内容をお読みいただければ、複雑に見えるコード進行も実はたいしたことない、と思えるようになるはずです。
今回の指板図の見方について
*今回紹介するコード進行のコードの数はどれも5つです。1つのコード進行につき複数通りの指板図を示します。
*指板図はスマホでも見やすい大きさになるように、次の図のように上の段に3つ、下の段に2つ並べました。①〜⑤の順で弾いて下さい。
*上の図の④のように背景がピンク色の部分は、その1つ前(場合によってはさらに前)のコード進行例とは違うコードになっていることを示しています。
*解説文の中の主な用語は太字で示します。忘れてしまった用語がある場合は、各項目に付いた以前の回へのリンクをたどって、該当する箇所を読み返してみて下さい。
ではスタートです!
【1】 C-C-F-G-C
CとFとGだけによる非常に単純なコード進行です。この3つのコードはいずれも三和音(トライアド)です。
またC、F、Gは、Cメジャー・キーのダイアトニック・コードの中の主要コードであり、Cはトニック、Fはサブドミナント、Gはドミナントにあたります。よってこのコード進行は「トニック-トニック-サブドミナント-ドミナント-トニック」です。
【2】 C-C-F-G7-C
【1】のコード進行のGを、四和音であるG7に変えたものです。G7-Cの部分でドミナント・モーションが生まれます。
【3】 C-Am-F-G7-C
【2】のコード進行のうち、2つ目のCをその代理コードであるAmに変えたコード進行です。マイナー・コードが加わったことで、陰影が加わった感じがすると思います。
なお、AmはCの代理コードですので、機能的には「トニック-トニック-サブドミナント-ドミナント-トニック」のままです。
【4】 C-Am-Dm-G7-C
【3】のコード進行のうち、3つめのFをその代理コードであるDmに変えたものです。マイナー・コードがさらに加わり、悲しい感じが増したのではないでしょうか?
なおDmはFの代理コードなので、機能的には「トニック-トニック-サブドミナント-ドミナント-トニック」のままです。
【5】 C△7-Am7-Dm7-G7-C△7
【4】の各コードをすべて四和音に変えたものです。
単純明快な響きを持つ三和音に対し、四和音はより深みのある響きを持ちます。三和音を四和音に変えただけで、コード進行全体の雰囲気はかなり異なるものになります。
またここにおけるDm7-G7は(また【4】のDm-G7も)、ツー・ファイブと呼ばれるものです。
【6】 C△7-Am7-Dm7-Dm7/G-C△7
【5】のコード進行のうち、4つめのG7を分数コードであるDm7/Gに変えたものです。先のコード進行例のG7-C△7と、こちらのDm7/G-C△7を弾き比べて、その違いを確認してみて下さい。筆者の場合、G7だと当たり前な感じに聴こえ、Dm7/Gはそれに比べてやや浮遊感のある感じに聴こえます。
なおDm7/Gは、G7(9,11)というテンション・コードを分数コードの形に書き換えたものと言えます。また、この場面でG7の代わりに使える分数コードは、ほかにもDm/GやF/Gなどがあり、いずれも構成音が似ています。
【7】 C△7-A7-Dm7-G7-C△7
(2つ前の)【5】のコード進行のうち、2つめのAm7をセカンダリー・ドミナントであるA7に変えたものです。Am7-Dm7に比べ、A7-Dm7にはやや強い「進行感」が感じられると思います。
またこれによりドミナント・モーションは、G7-C△7だけでなく、A7-Dm7の部分にも生まれました。コード進行全体の「推進力」が増した感じになっているかと思います。
【8】 C△7-A7-Dm7-D♭7-C△7
【7】のコード進行のうち、G7をその裏コードであるD♭7に変えたものです。「裏コード」については本講座では一度も説明していませんが、ちょっと面白いので取り上げてみました。
ごく簡単に言うと、裏コードとは、あるドミナント・セブンス・コードの減5度上(増4度上)のセブンス・コードのことです。その関係をいくつかのキーで示すと次のようになります。
キー | ドミナント・セブンス・コード | 裏コード |
---|---|---|
Cメジャー | G7 | D♭7 |
Dメジャー | A7 | E♭7 |
Eメジャー | B7 | F7 |
Fメジャー | C7 | G♭7 |
Gメジャー | D7 | A♭7 |
Aメジャー | E7 | B♭7 |
Bメジャー | F♯7 | C7 |
そしてこの裏コードは、ドミナント・セブンス・コードの代わりに使えます。詳しいことはいつか本サイトでご紹介したいと思いますが、すぐに知りたい人は音楽理論書で調べてみて下さい。
【9】 C△7-A7-Dm7(9)-G7(13)-C△7
(2つ前の)【7】のコード進行のうち、Dm7をDm7(9)に、G7をG7(13)に変えたものです。ここでテンション・コードが登場しました。
また、Dm7に’9’、G7に’13’を加えたことにより、すべてのコードはミ(E)という共通の音を持つこととなりました。ここで示した指板図は、そのミの音(2弦5フレットまたは1弦12フレット)をすべてのコードのトップ・ノート(一番高い音)にしたものです。
【10】 C△7-D♭dim7-Dm7(9)-G7(13)-C△7
【9】のコード進行のうち、A7をD♭dim7に変えたものです。ディミニッシュ・コードの使い方の一例です。
- 四和音とは?/第8回 ※「ディミニッシュ・トライアドを土台とした四和音」を参照
【11】 C△7-A7(♭13)-Dm7(9)-G7(♭13)-C△7(9)
(2つ前の)【9】のコード進行のうち、A7をA7(♭13)に、G7(13)をG7(♭13)に、最後のC△7をC△7(9)に変えたものです。ポイントはトップ・ノートが半音でなめらかに移動するところです。
テンション・コードの使い方は色々ありますが、【9】〜【11】はその一例でした。
小休止:ここまでのまとめ
ここまでで、「C-C-F-G-C」というごく単純なコード進行をじわじわと変えて、最終的には「C△7-A7(♭13)-Dm7(9)-G7(♭13)-C△7(9)」という複雑なものに発展させました。
ギターを始めたばかりの人にとって、「C-C-F-G-C」と「C△7-A7(♭13)-Dm7(9)-G7(♭13)-C△7(9)」はまったくの別物に見えるかと思いますが、この両者が「地続き」のものであることが、ここまでの説明でわかっていただければ嬉しいです。
ではコード進行の例を、あと6つ紹介します。
【12】 C omit3 – C omit3 – F omit3 – G omit3 – C omit3
すべてのコードをomit3にしたものです。omit3は、3度を省略したコードのことで、ロックやロックを源流とする音楽に多用されます。
上の指板図ではそれぞれ2本の弦を使っていますが、ルートの1オクターブ上を加えた弦3本のフォームも多用されます。
なお’omit3’は’5’と表記されることもあるので、このコード進行をC5-C5-F5-G5-C5と書いてもかまいません。
【13】 Cadd9 – Fadd9 – G7sus4- G7 – Cadd9
add9とsus4の使用例です。
ドミナント・セブンスの部分をG7sus4→G7の2つに分けるのは、sus4の利用法としてごく一般的なものです。
【14】 C-C/B♭-F/A-F/G-C
分数コードを使ったコード進行の例です。一番低い音がC→B♭→A→Gとなめらかに下行します。
C/B♭は、ルートのC音から見て’♭7’(短7度)にあたるB♭音をベース音にしたものです。C7の’♭7’をベース音にしたという観点から、C7/B♭と表記してもかまいません。
F/Aは、ルートのF音から見て’3’(長3度)にあたるA音をベース音にしたものです。これは単なる転回形です。
F/Gは、G7(sus4,9)もしくはG7(9,11)というテンション・コードを分数コードの形で表したものと言えます。【6】で出てきたDm7/Gと同様に、G7の代わりによく使われます。
【15】 C-C-F-Fm-C
4つ目のFmはサブドミナント・マイナー・コードと呼ばれるものです。Cメジャー・キーの中にF→Fmという流れが入ることにより、切ない感じが生まれます。
サブドミナント・マイナー・コードについては本講座で一度も説明していないので、『ハンディ版 音楽用語事典』での解説を引用しましょう。
サブドミナント・マイナー・コード【subdominant minar chord】
マイナー・スケール(短音階)の4度上のコード(和音)を同主調に借用したときの名称で、長調でのIVmを指し、SDMと略される。このコードもサブドミナント・コードと同様、ドミナント7thコードやトニック・コード(主和音)に結びつけて使われるが、その際IVmの短3度音は半音下行して次のコード・トーンへスムーズにつながる特徴を持つ。
もしこの解説が理解できなくても、F-Fm-Cというコード進行だけは覚えておくと良いと思います。
※これまでの例ではFmの位置にG7が来ていたので、「Fmはドミナント・セブンスの代わりなのか?」と思う人がいるかもしれませんが、そういうわけではありません。
【16】 C-C△7-C6-C△7-C
最後はちょっとおまけで、クリシェの一例です。このコード進行を弾くと、ドシラシド(1・7・6・7・1)というメロディ・ラインが聞こえてくると思います。今回の大元のコード進行であるC-C-F-G-CのCが続くところを、こうしたクリシェで装飾してみるのも良いと思います。
クリシェについても本講座ではほんの少ししか紹介していなかったので、『ハンディ版 音楽用語事典』での解説を引用します。
クリシェ【cliche】
同一のコードが連続している部分に装飾的に加えられる慣用的なラインを指し、作・編曲上の技法のひとつとされる。コード自体を変化させるものではなく、同じコードの中で半音または全音によるスムーズなラインを設定し、それによって同一コードの連続による退屈さからの脱出を図るもの。
大ざっぱに言えば「同じコードが続く部分にクリシェを入れると面白くなる」ということですね。
なお、「続・分数コードとは?/第12回」の「例3:四和音の転回形である分数コードを使った例(その2)」の項目で、Am-Am△7-Am7-Am6というクリシェを紹介しています。
解説は以上です。
おわりに
本講座はここでおしまいです。コードについてなるべくわかりやすく説明しようと試みましたが、いかがだったでしょうか? またこの講座では説明していないこともたくさんあります。コードについて興味を持った人は、ぜひこの続きを音楽理論書やギター教則本で学んで下さい。
それからコードの勉強には、パソコン用のWEBアプリ「かんたんコードブック」と「作ろう! マイコードブック」も役に立つと思います。
最後に、この連載中に筆者が参考にした文献を挙げておきます。これらの本の著者の方々に深く感謝申し上げます。加えて、筆者が子供の頃にお世話になったコード・ブックや歌本などの制作者の方々にも同様の感謝を捧げます。
そしてこの連載を最後までお読みいただいた皆様、どうもありがとうございました!
初心者集まれ! 指板図くんのギター・コード講座・完
参考文献
ハンディ版 音楽用語事典
最後まで読み通せる音楽理論の本(宮脇敏郎)
実践コード・ワーク Complete 理論編(篠田元一)
決定版 音楽理論ワークブック(北川祐)
ギターで覚える音楽理論(養父貴)
ギタリストのための音楽理論塾(成瀬正樹)
すぐ歌えるコード進行ネタ帳(石沢功治)
コード進行の掟(安東滋)
究極コード図鑑(篠田元一/成瀬正樹)
※以上はリットーミュージック
憂鬱と官能を教えた学校 上—【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 調律、調性および旋律・和声(菊地成孔/大谷能生)
憂鬱と官能を教えた学校 下—【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 旋律・和声および律動(菊地成孔/大谷能生)
※以上は河出書房新社
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初心者だって大丈夫! コードが自分で作れちゃう! 指板図くんのギター・コード講座
本講座を書籍化した本です。オールカラーで144ページ。電子書籍もあります。
【CONTENTS】
◎コードとは?コード進行とは?
◎Cの構成音と、いろいろな押さえ方
◎C6、C7、C△7の構成音と、いろいろな押さえ方
◎Cメジャー・スケールを覚えよう
◎ルートとは?度とは?
◎コードの構成音一覧
◎三和音とは?
◎四和音とは?
◎テンション・コードとは?
◎omit3とは?add9とは?sus4とは?
◎分数コードとは?
◎続・分数コードとは?
◎コードは平行移動で覚えよう
◎続・コードは平行移動で覚えよう
◎フレット数の書かれていないコード・ブック
◎続・フレット数の書かれていないコード・ブック
◎コード・フォームを自分で作る
◎続・コード・フォームを自分で作る
◎自分独自のコード・フォームを作る
◇巻末スペシャル:Fコードの押さえ方と攻略法
◇付録:いろいろ確認できる4つの指板図!